東京都新宿区で創業したデータイーストは、1983(昭和58)年に事業拡大のため杉並区南荻窪へ移転し、本社を構えた。当時JR中央線を利用していた人なら、電車の中から「環八」そばに掲げられたデータイーストの大きな看板を目にしたこともあるのではないだろうか。その後、2003(平成15)年に倒産するまで、荻窪の地で数々の名作ゲームを作り出し、世界的に名の知られたメーカーへと成長していった。
本書では、同社の創業から、アーケードゲーム(※2)の統一規格であるJAMMA規格を制定するに至った1986(昭和61)年までの歴史を、8名のレジェンド・クリエーターへのインタビューと豊富な資料によって多角的に検証している。
設備の拡充を訴える若手社員に対して、ベテラン社員が「あの徳大の親父を見ろ。中華鍋ひとつで、あんだけのメニューを作ってるだろ」と荻窪の名店・中華徳大のおやじさんを引き合いに出して説教するなど、地元エピソードは思わず笑える。
ゲームだけでなく、同社が超A級の技術者集団だったことは興味深い。世界初の持ち運べるファクシミリ、8ミクロン以下の気泡を湯に混合させ毛穴の汚れを取るエステバスシステムの開発など、時代を先取りした会社でもあったのだ。創業者の福田哲夫氏や初期メンバーの多くが、久我山に本社を置く岩崎通信機株式会社からスピンアウトした人たちだというのもうなずける。
プログラムや電子部品などの専門用語が頻出するが、当時の貴重な機器や資料写真も多く眺めるだけでも楽しめる一冊だ。
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※1 ファミコン(ファミリーコンピューター):1983(昭和58)年に任天堂より発売された家庭用ゲーム機
※2 アーケードゲーム:ゲームセンターなどに設置されているゲーム機の総称