西荻窪駅北口より徒歩約5分のところにあるCARPE DIEM。店主の蓑谷さんは定年退職をきっかけに、2013(平成25)年4月、趣味で集めた陶磁器やガラス器、人形、アクセサリー、家具、金具などのアンティークや雑貨を販売する店を開店した。
店名のCARPE DIEMはラテン語で「今この瞬間を楽しめ」「今という時を大切に使え」という意味がある。紀元前1世紀の古代ローマの詩人ホラティウスの歌集『カルミナ』に登場する言葉からとった。蓑谷さんは日々、「今日という日をつかめ」という気持ちで店に立っているという。興味を引く品、気に入っている本を客に選んでもらえるよう、並べ方、飾り方の工夫を続けている。
約6年間、ニューヨークのマディソンアベニュー付近に駐在していた蓑谷さんは「何もかも珍しくて、古い時代の物をいろいろと買い求めました。仕事の合間に、近所のガレージセールやフリーマーケット、骨董市、アンティークフェアに出向いて、食器や生活雑貨、人形などを見て歩き、種類を問わず、好きになった品物をたくさん収集したんです」と語る。
CARPE DIEMでは、アメリカやヨーロッパ、日本の古い物まで、国も年代も限定せず、多岐にわたり展示している。西洋の器物については、100年以上前に作られた物はアンティークといい、50年以上経過しているが100年に満たないと判断される物はヴィンテージと呼んで区分しているとのこと。
多くの収集をしてきた蓑谷さんだが、「特に大切にしている品物の一つは、アメリカ製の乳鉢です。香草・薬草などのハーブ類やクルミのような堅い殻を持つ堅果類をすりつぶしたり混ぜたりする目的で使われた物で、日本で漢方の生薬などの薬剤を粉末にするために用いた薬研(やげん)の西洋版といえます。当時の日本では見当たらないこのような道具を、アメリカでは日常に使っていました。1900年代の生活や文化がうかがえて興味深いものがあります」と話す。
ハープを弾く女性の人形もお気に入りだ。「30年以上前にドイツで求めた物です。サインはあるのですが、産地と窯はわかりません。1900年代前半の作品と思われます。玲瓏(れいろう)で柔和な顔つきになんともいえない魅力があり、大切にしています」と教えてくれた。
アメリカから帰国して数年後、西荻窪のアンティークマップを手に店をめぐった蓑谷さんは、すっかりこの街が気に入り、良い街には三つの物があると聞いたことを思い出したという。それは、勤勉さを表す「豆腐屋」、知性と文化を表す「古本屋」、地元のコミュニケーションとなる「銭湯」。西荻窪にはすべてがあった。街の雰囲気が優しくて、路地に日が差していたのも良かった。定年退職して、これまで集めたアンティーク品の店を持とうと考えたとき、真っ先に西荻窪が頭に浮かんだそうだ。
店のホームページには「時を経たものは私たちに、限りない静謐と安らぎを与えてくれます。古いものは(中略)その命を燃やし切るときに美しい光芒を放つように思えます。ご自身の空間に置いて使いたい、鑑賞したい、語らいたいと思えるものを見つけてください」とある。時を経たものを見つけに、CARPE DIEMを訪ねてみてはどうだろう。