(中島)この頃は空前の日本ブームで、至るところで外国人観光客を見かけます。東京オリンピックに向けて民泊が推進されれば、杉並でも一般の方が観光の担い手になる可能性が高いですよね。
(松原)民泊が法制化されたら、外国人も日本人も阿佐谷や高円寺で飲んで、そのまま近くで泊まって、という環境が実現しそうですね。私も泊まってみたいです。
(中島)これまで観光というと施設整備などが中心になりがちでしたが、今後は街ごとの「人材育成」が重要課題になるのではないでしょうか。地域やコミュニティの単位で、街の価値をマネジメントし、かつ発信できる人をたくさん育てていく必要があると考えています。たとえば、生活者目線で地域を取材する区民ライターが育てている「すぎなみ学倶楽部」も、観光活性化を直接の目的にしたものではないと思いますが、結果的に街のマネジメントに貢献しているのではないでしょうか。
(松原)それから、街の個性を形作っているものを、しっかり評価して残す努力も大切ですね。私が住む阿佐谷をとっても、街は変化し、私の好きな家屋や店舗も消えていっています。ですから、自分の好きな古き良き阿佐谷の街並みを頭の中に描けるように、個人的には記憶に残しています。今日は歴史的な古いアパートに行きましたが、たとえ民間であっても街の雰囲気を作っているものはたくさんあります。まだ存在しているうちに、その価値を見極めていくことが大事ではないでしょうか。なくしてから復活しようと思っても遅いですから。
(中島)観光まちづくりは、その街で暮らしたり働いたり遊んだりする人々の生活と共にある、ということですね。杉並観光の本質は日常の中の非日常にあり、そうした街の暮らしに対する地域内外の人々の共感があってこそ観光は成り立つのだと思うのです。
1956年 神戸市生まれ。東京大学工学部都市工学科卒、同大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。東京大学大学院総合文化研究科教授。専攻は社会経済学、経済思想。著書には『ケインズとハイエク』(講談社現代新書)、『日本経済論』(NHK出版新書)、共著に小池百合子東京都知事との『無電柱革命』(PHP新書)等がある。国土強靱化懇談会員、復興推進委員会委員。杉並区では芸術会館運営評価委員会座長を務める
東京立正短期大学現代コミュニケーション学科専任講師。1981年滋賀県生まれ。同志社大学大学院総合政策科学研究科博士課程(後期課程)中退。2014年より現職。専門は文化政策・観光学。杉並区を主たるフィールドに地域文化と観光に関する教育・研究に取り組む。また、伝承遊びを競技化した「スポーツ鬼ごっこ」に関心を持ち、趣味と研究を兼ねて活動中。共著に『観光を学ぶ』(八千代出版)、『観光文化と地元学』(古今書院)、『観光ビジネス論』(ミネルヴァ書房)など
•取材:内藤じゅん
•撮影:TFF
•掲載日:2016年08月31日