上野星矢さん

意外に遅かったフルートとの出会い

国内外のコンクールで輝かしい受賞歴を誇り、日本を代表するフルート奏者として大活躍中の上野星矢さん。阿佐谷で生まれ育ち、海外で暮らすようになってからも、毎年帰郷しては地元の馴染みの店を訪ねている杉並人だ。
そんな上野さんが音楽と出会ったのは、区内の小学校に通う4年生の頃。
「通っていた杉並第二小学校に、原先生というブラバンの指導で有名な先生が赴任してくる、と聞いて興味を持ったんです。」
それまでは、母にピアノを習っても「興味を持てずやめてしまっていた」とのこと。
ブラバンを始めるにあたって、何の楽器を担当するかを決めるとき「トランペットなどの金管楽器は家で練習しにくいし、クラリネットかフルート?と思いました」と堅実的な選択をした上野さん。ところが「フルートを吹いてみて好きになって、その頃からこの楽器を職業にしたい、とも考えていました。」と、一気にフルートの魅力に引き込まれ、将来の夢を抱くまでになっていく。
「フルートは初めて手にした楽器と言ってもいいです。原先生と出会わなければフルート奏者になっていなかったかもしれません。」
一期一会の出会いを、見事に自分のものにした上野さん。直感力がうかがえるエピソードだ。

母校、阿佐ヶ谷中学校にて

母校、阿佐ヶ谷中学校にて

やんちゃだった学生時代

フルートと出会い、真っ直ぐに音楽家への道を進んだのかというと、そうではない。
「僕は小学生の頃からサッカーもやっていて、阿佐ヶ谷中学校にはサッカー部がなかったので(当時の)長谷川校長先生に顧問をお願いし仲間を集めて創部したんです。」
積極的な熱血漢?優等生?とおもいきや、「実はまじめな生徒ではなかったんですね。制服(標準服)もなんとなく窮屈で、時に髪の毛も染めたりしたんですよ」とのこと。今の姿からはなかなか想像しにくい一面だが、校長先生から「髪は染めるなよ!」と見守られながら、スポーツに音楽にと充実した学生時代を送っていたそうだ。
「人に迷惑をかけたり悪さをすることもなく、生徒会副会長もやっていたし、勉強もそれなりに頑張っていたし、とにかく負けず嫌いだったのかな。やるべきことはやった上で、自己表現をしたかったんでしょうね。」

(当時の)長谷川先生と

(当時の)長谷川先生と

フランス留学と海外での生活

上野さんは東京都立芸術高等学校を卒業後、東京芸術大学に入学。2年生のときにパリの国立高等音楽院に留学をする。
「中学を卒業してすぐの頃、商店街の七夕まつりで長谷川校長先生と会うことがあって、『早く海外に出ろよ!』と言われていたんです。」
まわりからの大きな期待に応えるべく、上野さんは留学先で奮闘。
「フランス語は一生懸命勉強しましたし、学生時代あまり得意ではなかった英語も同時に勉強しました。今ではまったく不自由ありません。語学は重要ですね。」
今はミュンヘンに暮らしており、日本や育った阿佐谷周辺のことを見直すこともあるそうだ。
「日本は治安がいいですね。海外ではうっかり電車で居眠りもできません。食文化の違いも感じます。日本食が好きで自炊もしています。」
帰国するたびに、お気に入りのパールセンターの美容室に行き、阿佐谷の七夕まつりも毎年欠かさず見物しているという上野さん。世界の大舞台で活躍するようになっても、地元を変わらずに大切に思っている様子に、温かい人柄が感じられる。

忘れられない先生の言葉を胸に

ときにフルートとは思えない個性的な音色で、ときに心休まる優しい音色で聴衆を魅了する上野星矢さんのそのパワーの源は、何なのだろう。
「技術や知識は学べば誰にでも手に入る、だからそれより上を目指しているのです。技術や知識を意識することなく思いのままに演奏できるよう懸命に学んだのです。」
意思の強さと厳しさ、これが上野さんの魅力の原点にあるようだ。
最後に、上野さんが最も大切にしている言葉を教えていただいた。
「小学4年生の時に、原先生が話された『音楽は心からのメッセージ、音楽はいつも新しい。』その言葉がとても心に残り、僕自身もそう思いました。きっとこれからも忘れることのできない言葉でしょう。」

取材を終えて

若干23歳の若さで世界の舞台で必要とされる人である上野さんの言葉には、年齢も性別も関係なく学ぶことが多かった。決断力と行動力はどこか忘れられた昭和の男とも感じさせる不思議な魅力を感じた。

上野星矢 プロフィール
1989年生まれ。小学校4年生の時にフルートに出会い、12才で本格的に習い始める。東京芸術大学音楽学部フルート専攻を経て、2009年よりパリ国立高等音楽院に入学。最優秀賞並びに審査員特別賞を受賞し、第一課程を卒業する。
国内の音楽コンクールで次々と上位入賞し、2008年には第8回ジャン=ピエール・ランパル国際フルートコンクールで優勝。
15才で初のリサイタルを開催。2012年10月に日本コロムビアレコードより『万華響 KALEIDOSCOPE 』 でCDデビュー。現在はミュンヘンに在住し、ヨーロッパ各国、日本やアジア各国で活躍を広げている。杉並区文化功労賞受賞。(オフィシャルサイトより)

DATA

  • 取材:小泉ステファニー
  • 掲載日:2013年09月02日

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