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渡辺洋子さん

「猫と暮らしませんか」

高円寺の動物病院の外壁に貼られた1枚のポスター「猫と暮らしませんか」を見て、「猫がもらえるの?」そんな軽い気持ちで訪ねたのが、荻窪の喫茶店「ポロン亭」。木枠にガラス格子のドアをそっと引き開けると、店の奥のケージの中には、お互いを守るように丸まった猫が2匹。思わず見入っていると、「今ちょうど、親子を預かってるの。親子って珍しいのよ」と、気さくに洋子さんが声をかけてくれた。預かり猫なので、いつも猫がいるわけではないそうだ。
「地域猫」とは決まった飼い主のいない、その地域に住み着いてなんとなく誰かにエサをもらっている、ノラ猫、捨て猫のこと。この地域猫が、鳴き声やゴミ置き場を荒らすなど問題になっているところも少なくない。駆除を考える人、エサだけあげる人、それぞれの見方や考えがあり、解決の難しい問題だ。
でも猫たちが悪いわけじゃない。地域猫を助けたい、その思いで保護猫の活動をしている人たちがいる。
ボランティアで保護猫活動をしている人たちは、地域猫を捕獲して、動物病院に連れて行き、成猫は避妊・去勢して離し(できるだけ)、仔猫がいれば保護して里親を探す。「私は、美味しいとこ取りだと思ってたこともあるわよ。」と洋子さんは話す。
保護猫だけではなく、昔から猫のいる喫茶店として知られていたせいか、捨て猫を拾って困ったお客さんから持ち込まれる猫もいた。「必ず家の中だけで飼ってくださいと厳しく言ってなかった頃は、わざわざ里親さん宅に猫をお届けにもいかなかったのよ。でも今は、杉並区自体が室内飼いを推奨してるでしょ。」ポロン亭もかつては、猫が自由に出入りする店だったそうだ。

「猫と暮らしませんか」のポスター

「猫と暮らしませんか」のポスター

猫たちの幸せが、とことんお人好しを集めてくれる

組織的に猫の里親探しのお手伝いを始めたのはここ数年のことだという。「保護猫のファイルを作り始めたのは2008年から。預かる猫と里親に行った先が覚えられないくらい増えてしまったから。」やがて、ポロン亭から猫をもらった人たちが、報告がてら遊びに来てくれるようになり写真のファイルも作った。
「ちゃんと団体として活動してる訳じゃないけど、ポロン亭を通して知り合った保護猫の活動してる人や、お客さんの何人かが協力してくれてるの。今は、その中の誰1人が欠けても無理って思う。1人ができることは限られてるから。」
洋子さん1人では年に2、3匹を世話するのがせいぜいだったが、みんなで協力し合い、昨年は60匹程世話することができたそうだ。「我ながらすごいと思う。」ただし、次々にやってくる仔猫の世話に追われ、今年の夏は大変だったようだ。
中でも、保護猫の活動をしているTさんやEさんなどから猫をもらった人たちは、とても幸せだと洋子さんは言う。「里子に出した後々のケアがすごい。困ったと連絡をもらえば飛んで行くし、人が良いにも程があるといつも感心したり、呆れたり(笑)。頭が下がります。」
猫を預かるにも手間と出費はかかる。「うちは喫茶店だもの、珈琲1杯飲んでって」と笑う洋子さんも、相当お人好しなのでは? 「でも、彼女たちと知り合ってだいぶ意識を変えさせられていったかな。きめ細かくケアしなきゃいけないって。」いろんな理由で引き取った猫を返して来る人もいるそうだ。困った時に相談できる相手は必要。ポロン亭ではそんな頼りになる人たちにも会える。

ポロン亭の看板と店内

ポロン亭の看板と店内

猫を飼うなら、そこにいるだけでいいとゆったり受け止めて

里親を見つけるには店に猫を置いた方がいいが、ポロン亭にも預かれる猫の数に限りがある。そこで、助けになるのが一時預かりの協力者だ。「あるご夫婦は、ご主人と2人で仔猫のいちばんかわいい時期を世話できて、大人になる前に渡せるって、なんて贅沢なんだろうねって言い合ってるんですって。そういう発想の転換はなかったな、と感心してしまったわ。」
最近は、店の休日に洋子さんも猫を届けに行くという。「休みがないのよ、疲れちゃうわ。」そう言いながら、増えた写真のファイルを繰る洋子さんの横顔はとても優しく、満足気だ。
「猫を飼うと、猫中心の生活をする人が多い。私は、子どものころから動物がいる環境に育ったから、猫はそこにいるもの、猫だけが特別って訳じゃないの。」ポロン亭には看板柴犬の「ブン太」もいる。(ちなみにブン太も保護犬だ。)
いずれは、ポロン亭を里親探しのお見合いだけの場にして、のんびりしたいそうだ。いつのことやら…。今日も保護されてやってくる猫たちのために、ポロン亭の洋子さんは港のような存在になっている。

渡辺洋子 プロフィール
昔から「猫のいる喫茶店」として知られていたという「ポロン亭」は、荻窪で40年続く喫茶店。この店を先代(伯母さん)から引き継いだ、2代目店主の渡辺洋子さん。自宅でも里子として引き取った猫4匹と柴犬1匹と賑やかに暮らしている。

ポロン亭には看板柴犬の「ブン太」

ポロン亭には看板柴犬の「ブン太」

DATA

  • 取材:桃里(区民ライター講座実習記事)
  • 掲載日:2013年11月25日