荻窪駅南口から阿佐谷方面へ、緑に囲まれた喫茶店が『with遊』である。店主の田辺さんは、元は銭湯『おぎの湯』の2代目だったと言うから驚きだ。『おぎの湯』は多くのメディアにも取り上げられた名物銭湯でロビーにはパソコン、2階にはビデオコーナーにアスレチックとバラエティに富んだ施設があった。入浴以外も楽しめるコミュニティスペースとして活用されていたが、銭湯産業の衰退で56年の歴史に幕を閉じる。「お客さんにはさびしい、さびしいと言われたが俺は全然さびしくなかった。もう次にやることで頭一杯だったから」と田辺さんは語る。このような経緯で『with遊』は誕生した。
銭湯からカフェへとお店の形態は変化したが、コミュニティスペースという点は変わらない。カフェギャラリーには地域の美術家によるアート作品が飾られ、販売もされている。家庭的なおいしいメニューはもちろん、杉並在住の料理家・沼津りえさんの手づくりケーキは、開店以来評判だ。地域の方々からの力を得ながら、強力な情報発信源としての店づくりを心がけている。お店の一番の特徴は、最大40人収容の多目的ホールだろう。ここでは映画の上映会や各種コンサートなども開かれる。また、荻窪音楽祭、阿佐谷ジャズストリートの会場でもあるのだ。田辺さんは、「ここは器だから、色々な人に利用してもらいたい。自分の代だけではなく、想いを継承してくれる人に長く続けて欲しいんだよ。」と語る。地域の繋がりが薄くなる現代社会だからこそ『with遊』の果たす役割は大きい。