没後30年(2014年現在)になる有吉佐和子さん、26歳の時の長編小説。
卒業を控えたキリスト教系短大の7人グループ。学生食堂(カフェテリア)の練炭ストーブを囲んでの話題は、進路の不安より、仲間の一人と御曹司との恋の行方。なかば羨望も含みながら、みな、友情から成就を祈る。しかし、その恋の行方が、8年もの歳月を経て、離ればなれになっていたグループを予想もしなかった形で巻き込むことに。
女性の視点から作品を書き続けた有吉さんの原点と言われる作品。仕事に、恋愛に、結婚に、戦後という新しい時代に葛藤した女性たちの姿が生き生きと描かれており、現在もなお輝きを放ち続けている。主人公・文代の下宿先は方南町という設定。謎の翻訳家の老婦人などユニークなご近所さんたちも登場し、親近感を感じさせてくれる。
おすすめポイント
『紀ノ川』、『出雲の阿国』、『開幕ベルは華やかに』など数々の名作を発表し、演劇や放送の世界でも活躍された有吉佐和子さん。昭和22年に一家で杉並の堀ノ内に転居。都立第五女子高(現在の都立富士高校)、東京女子短期大学を卒業後、作家としてデビューした後も生涯のほとんどを堀ノ内で過ごした。老人問題を扱った『恍惚の人』、環境汚染問題を扱った『複合汚染』など、女として母として、杉並の生活者の立場から書いた作品を発表し、区民にも多大な影響を与えた。
「聖マリア、われらのために祈り給え」。次々と立ちはだかる理不尽な現実を前にした文代の悲痛な連祷に、有吉さん自身と、有吉さんと同時代を生きた杉並の女性たちの心の内の叫びが聞こえてくる作品だ。