国民的ふりかけ「のりたま」を販売する丸美屋食品工業株式会社(以下丸美屋)。杉並区松庵の住宅街に、その本社がある。
同社の前身である「丸美屋食料品研究所」が創業されたのは、1927(昭和2)年のこと。ふりかけの源流ともいえる「是はうまい」を販売し、評判となる。その後、東京大空襲により一度は解散するも、1946(昭和21)年に東京・京橋で卸売業「丸美屋商会」をはじめ、1951(昭和26)年、丸美屋食品工業株式会社を創立。1961(昭和36)年に杉並区大宮前に本社を竣工し、1982(昭和57)年に松庵へ移転して現在に至る。
「のりたま」は2020(令和2)年に発売60周年を迎えた。ふりかけ市場ではトップシェアを誇り、その代名詞ともいえる。1960(昭和35)年の発売当時、旅館の朝食で出る「海苔」と「卵」はぜいたく品で、家庭でもそれを手軽に味わえるようにと開発された。以降、半世紀以上に渡り食卓に受け継がれている。緑色の地にニワトリのイラストがあるパッケージは昔から変わらぬイメージだが、今や9代目。代替わりごとに味も少しずつ変化している。時代に合わせて味に変化を与えることも、ロングセラー商品となる秘訣だろう。
いつの時代も「ご飯のお供」として愛されるために、どのような商品研究をしているのだろうか。
「のりたま」と同様にベストセラー商品である「ごましお」は、2015(平成27)年に、塩の粒を無くした新感覚の「ごましお」を発売。新しい「ごましお」は発売当初、「塩の粒が入っていない(不良品ではないのか)」との問い合わせもあったそうだが、ごま自体に塩味が付いているのが特徴だ。開発にはミクロ単位でこだわり、独特のおいしさを残しながら塩分50%カットに成功。健康志向といった時代のニーズに合致した商品となった。
「梅ごましお」も工夫を凝らした商品で、通常の「ごましお」に梅の花の形のチップが加わっている。ご飯にふりかけるとチップの桃色が華やかに広がり、おいしさに楽しさが加わったことで新たなファンをつかんだ。子供のころ食べていた人が、自分の子供と一緒に久しぶりにふりかけを使ってみたら、かわいいチップが入っている。そんな楽しい食卓を想像しながら商品開発は進められている。
健康や楽しさなど、商品においしさ以外の付加価値を与える創意工夫が、市場のトップシェアを保持し、独自の地位を築いている理由だろう。
地域との協働は区内にとどまらない。「なみすけふりかけ」は誕生当時、杉並区と災害時相互援助協定を締結している青梅市と新潟県小千谷市でも販売された。また、2011(平成23)年には、「ふりかけても振り込まないで!」と銘打った振り込め詐欺撲滅対策の標語として、神奈川県警と協働したことがある。小さくても身近なふりかけに託される期待は大きい。
2011(平成23)年の東日本大震災では義援金と物資を、2015(平成27)年のネパール地震では国連WFP(国際連合世界食糧計画)を通じて義援金を送るなど、社会貢献活動でもさまざまな活躍をしている。
また、環境対策にも積極的だ。2010(平成22)年以来「エコアクション21」(※)を実施し、エネルギー、CO2、廃棄物、水使用量などの削減を目指している。その結果、本社の電気代に限っては、東日本大震災前後の10年比で40%削減できた。企業にとっても社会にとっても良い結果であるため、今後も継続していくそうだ。
国際化が進む中、丸美屋は拙速な海外進出はしない。会社のロゴマークについても、海外市場展開のためローマ字表記にする企業も多い中、丸美屋は創業当時から一貫して漢字で表記している。今後も地域との協働や環境問題にじっくりと取り組みながら、災害などの非常時には支援を行っていくことだろう。国内ニーズにしっかり耳を傾けてきた同社の姿勢は、こうした面にも表れている。
※エコアクション21:持続可能な社会を構築するために、事業者が環境への取り組みを効果的・効率的に行なえるよう、環境省が策定した環境経営システムや環境報告に関するガイドライン
丸美屋ではふりかけ以外の商品にも力を入れている。「麻婆豆腐豆腐入り」は、1人で食べるシーンでも手軽に食事を準備できるようにと開発された。少子高齢化が進む時代に、個食(※)需要や保存性のニーズにも対応した本品は、評判も上々だ。
時代に合わせ樹木の年輪のようにどんどん広がりゆく商品群だが、「ご飯のお供」「食卓を楽しく」という基本精神は決してぶれない。
丸美屋は今後も企業理念のもと、幾多の環境変化を乗り越え、杉並区松庵から国内を代表する老舗企業として「家庭の味わい」を日本全国に届け続けていくだろう。
※個食:一緒に暮らす家族間でも別々のものを食べる、または1人きりで食べること