高円寺駅北口から徒歩5分、JRの線路沿いに進むと忽然(こつぜん)と現れるテント形の複合施設が座・高円寺である。2009(平成21)年にオープンした建物は建築面積1,108㎡(地上3階、地下3階)。世界的な建築家である伊東豊雄氏の設計によるものだ。館内には、地域に根ざした文化活動のための3つの個性的なホール、現代劇作家の戯曲を収蔵するアーカイブ、絵本を自由に楽しめるカフェ「アンリ・ファーブル」などがバランス良く配されている。
この建物で何より印象的なのは、窓が少なく重厚感を漂わせる外観と、円形の照明を多用した柔らかな雰囲気の内装とのコントラストである。
桑谷哲男館長(当時)によれば、設計者がイメージしたのは「演劇のエネルギーを囲い込む力強い芝居小屋」。近くを走る環状七号線の車の排ガス問題、近隣住宅のプライバシーや日照権の尊重など、立地条件と制約を考慮し、あえて窓の少ない「閉じた空間」を目指した。広場を覆う「暗幕」という発想から、7つの曲面により構成される屋根(PDF参照)と外壁を薄い鉄板で覆い、その内側にコンクリートを打っている。
対照的に、館内には開放感があふれる。外の広場からメインロビーへはフラットにつながり、季節を問わず全開放式である扉も来館者には嬉しい配慮。丸窓とライティングによる「木漏れ日」に似た明かりに迎えられ、ハイセンスにして温かみのある空間の広がりが心地よさを醸し出す。ひときわ目を引くのは、丸く穏やかな光が点在する、らせん状の吹き抜け階段。地下2階から地上2階までを貫くダイナミックな構造は圧巻である。
また桑谷館長(当時)は、「この劇場を通じて高円寺の街の活性化を期待する」と語る。地域の人に支持される劇場を目指すとの言葉どおり、劇場が発行する広報誌フリーマガジン「座・高円寺」や、貸出展示スペース「道草カウンター」など、地元コミュニティへの配慮も行き届いている。
これらの工夫が効を奏し、堅苦しさや近寄りがたさは無く、建築物鑑賞目的の来館者も引きもきらない。その名のとおり「座」(地域の集いの場)としての役割を見事に果たしている。
PDF:「座・高円寺建築ガイド」屋根の幾何学(提供:座・高円寺)(912.2 KB )