日都産業は、第二次世界大戦が勃発した1939(昭和14)年に軍事企業として創業した。初代社長の小松氏は、戦後は飛行機の椅子などを製作していたが、焼け野原の子供たちのために、材料の鉄を使って何かできないかと思い、遊具作りに乗り出したという。ぶらんこ、すべり台、ジャングルジムを作り、保育所などに置いてもらった。
そして、1957(昭和32)年に開発した「グローブジャングル」が、子供たちに大人気となる。パッと目を引くユニークな形をしており、公園のシンボル的な存在でもあったが、2000年頃よりあまり見かけなくなってしまった。結城氏は、「実用新案の有効期限が切れて他社も作るようになり、その他社製品が倒れる事故を起こして撤去が進みました。弊社製は倒れたことがなく、古くなり外側の見た目が劣化しても、内部の心棒は新品同様にしっかりしているんですよ」と、自社製品の高い安全性に誇りをみせる。現在も、不具合には迅速に対応し、事故を起こさない努力をしているそうだ。
※1 SPマーク:一般社団法人日本公園施設業協会の審査により、遊具の設計、製造、販売、施工、点検、修繕ができることを認定された企業が表示するマーク
今、公園でおなじみのパンダやラッコの形をしたロッキング遊具(リンク遊具)も、日都産業が生み出した。現在は初期型よりもコンパクトに進化し、自治体のキャラクターの形をした製品も作られている。製造過程では、機械を使って100万回の稼働テストを行うほか、実際に社員の子供たちに遊んでもらって使い勝手や楽しさを試しているそうだ。
2017(平成29)年には、乳幼児向けに開発した遊具「りぐりぐ」が、第11回キッズデザイン賞を受賞した。デザイン課の小林氏は、「今までの公園は3~6歳児向けの遊具がメインでした。もっと小さい子のための遊具を作ろうと、保育園に協力してもらい、社員が保育士さんのように乳幼児と一緒に過ごしながら、乳幼児が何に興味を持つのか調べました。受賞において、そういう開発プロセスも評価されました」と話す。
また、屋外用の健康器具の製作にも力を入れている。1993(平成5)年の都市公園法改正で、公園内の施設内容の自由度が増したため、 幅広い年齢層が公園を利用するようになった。日都産業はそれに先駆けて、ぶらさがり運動用の「スプリングバー」や、背筋を伸ばせる「背のばしベンチ」などを製作。「イベントなどで年配の方に集まっていただき、実際に体験してもらいながら、高齢者体力つくり支援士(※2)の資格を持つ社員が説明する機会も設けています」と小林氏。最近では、健康器具の利用説明板にスマートフォン用のQRコードを付け、専用サイトの動画で器具を使った運動方法が見られる「いろどりフィットネス」という新製品も登場した。
さまざまな遊具が生まれる中で、子供たちに今も一番人気なのは、ぶらんことすべり台とのこと。以前と形こそ変わらないが、近年はぶらんこのチェーンに樹脂を巻いたり、すべり台の隙間をゴムパッキンでふさいだり、細かい部分でより安全な遊具の改良が進んでいる。
※2 高齢者体力つくり支援士:高齢者の健康・体力づくりに対する指導法・支援法について学び、運動を通じて専門的にサポートする運動指導者のための資格
遊具の製作を、昔は西荻窪の住宅街にある本社で行っていた。地域の子供の関心を呼んだのではと尋ねると、結城氏は「パイプなどの部品を作るだけで、組み立ては公園でしていたので、何を作っているのかわからなかったと思いますよ」と笑った。1978(昭和53)年からは、羽村市に開設した工場で製造している。工場では随時、小学校の社会科見学や、アジアなど海外からの企業視察を受け入れており、ライターも見学させてもらった。
まず、建物面積941坪(テニスコート約5面分)という広々とした空間に驚く。これだけ広いと物がなくなりそうだが、スパナやレンチなどの工具は、はめ込み式の板にきちんと並べて管理されていた。
完成した部品は、ぶらんこのフック一つ一つにも日都産業の三角のロゴマークが付いている。工場を案内してくれた業務支援課の小倉氏が、「例えば4人用ぶらんこの場合、マークの付いた部品が一基につき20個くらいあります。摩耗して取り換えるときなどに、その部品がどのメーカー製かわかる仕組みになっています」と話す。また、すべり台の製造現場では、子供の頭部サイズの円すい形の型を使い、「これが手すりの隙間に引っかかるようだと危険です」と教えてくれた。
シーソーを作る過程で出る木くずは、モルモットなどの小動物のケージの床に敷く素材にするため、羽村市動物公園に提供している。だが、木製品が少なくなった近年では、プラスチックの廃材と切りくずを合わせて作られた丈夫なリサイクルウッドが、ベンチや遊具の材料に使われているそうだ。
日都産業の従業員数は、西荻窪の本社と羽村工場、北関東営業所、関西営業所を合わせ80名(2018年4月現在)。結城氏は、「技術者側の希望に対し、営業部がコストダウンを求めたり、仕事でぶつかることもありますが、社員はみんな仲が良いです」とほほえむ。自身もよく公園に行き、「遊具でわいわい遊んでいる子供たちの笑顔を見るのがうれしい」と話す。「子供たちは、ときには遊具本来の使い方と違う遊びをしていることもあります。本当は“だめだよ”と言うべきかもしれませんが、子供たちがいろいろ工夫しながらマナーを学んでいくことも大切なので、自由に遊ばせてあげたいですね」。杉並でも、都立善福寺川緑地ヒコーキ広場の「ヒコーキジャングル」や、区立大宮前公園の複合遊具「よちよちプレイエリア」など、日都産業の遊具は毎日、思い思いの遊びを繰り広げる子供たちの元気な声に包まれている。
2019年3月に創立80周年を迎える日都産業。今後は「遊具のニットから街づくりのニットへ」を目標に、公園だけでなく街全体にも目を向けていきたいとのこと。人々の笑顔があふれる公園のような明るい空間が、杉並の街のあちこちで見られるようになる日が来るのが楽しみだ。