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森口剛行さん

「阿佐ヶ谷飲み屋さん祭り」の実行委員長

「阿佐ヶ谷飲み屋さん祭り」とは、チケットを購入すると参加店舗を何軒回っても各店で1杯目を無料で飲める、愛飲家にうれしい人気のはしご酒イベントだ。2018(平成30)年5月に開催された第14回の祭りでは、阿佐谷と荻窪から参加した150件もの飲食店に多くの人が訪れ、大いに盛り上がった。
第1回からこのイベントの実行委員長を務めている森口剛行(たかゆき)さんに、開催までの経緯やイベントを運営する楽しみなどについて、地元阿佐谷で話を伺った。

「阿佐ヶ谷飲み屋さん祭り」実行委員長、森口剛行さん

「阿佐ヶ谷飲み屋さん祭り」実行委員長、森口剛行さん

寂しがり屋だから飲み屋を始めた

たくさんの人が参加する大規模なイベントの主催者でありながら、森口さんは物静かで落ち着いた雰囲気の男性だ。生い立ちについて、「暗いですよ」と照れつつ話す朴訥(ぼくとつ)とした一面もある。
出身は静岡県で、幼少期は埼玉県で過ごした。高校卒業後、新聞奨学生として都内の大学に通い、居酒屋やファーストフードチェーン店でのアルバイトも始めた。新聞配達や集金に行った先で食事をごちそうになったり、通い詰めるほど大好きになった飲み屋に頼み込んで働かせてもらったり、いろいろな人との縁をもつことができた。こうした人との関わりが、後に飲食店経営を志すきっかけとなったという。
大学卒業後は、システムエンジニアとして就職。会社勤めをして5年経った頃、「飲み屋をやってみないか」という知り合いからの誘いを受けた。そして、2008(平成20)年、32歳で「MAD HOG KITCHEN」を開店する。森口さんにとって、店があった阿佐谷はそれまでまったく知らない街だった。「開店後しばらく経ってから、どんな場所であってもその場所をどうするかは気分次第だと思いました。お店を初めて1年後に、自分も阿佐谷に引っ越しました」
「MAD HOG KITCHEN」の大きな特徴は、曜日ごとに店長が替わり、各々の個性を発揮したところ。森口さんは日曜日の店長を担当し、研究を重ねたメニューのカレーは口コミサイトで「おいしい」と絶賛された。店は建物の2階にあったが、客に積極的に話しかけ、楽しい雰囲気作りを心掛けたことなどが功を奏し、人気店へと成長。また、「人とつながりを持ったり、そのきっかけを作ったりすることが好きだった」ので、店主催のバーベキューやキャンプなど、100人以上が参加するイベントも精力的に開催した。

「MAD HOG KITCHEN」のスタッフと一緒に。左端が森口さん

「MAD HOG KITCHEN」のスタッフと一緒に。左端が森口さん

“お一人さま”でも楽しい、行きつけ店探し

このようなイベントの一つとして、周りの店を誘って始めたのが「阿佐ヶ谷飲み屋さん祭り」だ。多くの人に気軽に阿佐谷の飲食店に来てもらうことを目的として開催したところ、興味があっても店の扉を開けられなかった人にも「飲み屋を訪ねる良いきっかけとなった」と好評だ。
2011(平成23)年から毎年春と秋の2回開催し、2017(平成29)年は約2,000人の参加者があった。最初は40軒ほどだった参加店舗も年々増加。各店舗の特徴が書かれたパンフレットも見応えのあるものに仕上がっている。最近では、開催期間中に、一人参加限定の「一人飲み屋さん祭り」の日も設けている。「阿佐谷には一人でも行きやすい店が多く、一歩を踏み出すと楽しい街なんですよ」
森口さんは、ほぼ一人で企画から終了後の費用の配分まですべてこなしているそうだ。しかし、運営は多くのサポーターに支えられている。これまでの活動が実を結び、周囲から信頼されている証しだ。

▼関連情報
阿佐ヶ谷飲み屋さん祭り(外部リンク)

楽しさが伝わる「阿佐ヶ谷飲み屋さん祭り」のパンフレット

楽しさが伝わる「阿佐ヶ谷飲み屋さん祭り」のパンフレット

阿佐谷の街の南北にまたがる

阿佐谷の街の南北にまたがる

人とつながる場所作りをライフワークに

2018(平成30)年現在、森口さんは飲食店経営を退き、家業の配管業を営んでいる。阿佐谷での活動を通じて地元の街の人とも親交が深まり、今では配管の仕事の依頼を受けたり、逆に人手が足りないときは知人に手伝ってもらうこともあるという。
街につながりができたことで、あらためて阿佐谷には人を引き付けるためのネタがたくさんあることに気づいた森口さんは、街の活性化のための新たな活動を始めた。
阿佐谷には6つの小劇場があるが、演劇が盛んな街であることはあまり知られていない。そこで、劇場の公演予定を掲載した『阿佐谷演劇』を発行した。冊子には、観劇後も阿佐谷を楽しんでもらえるように、入場券の半券持参で特典が受けられる店も紹介。現在、冊子は休刊中だが、昼間は閉めている店を劇団の稽古場として安く借りるための橋渡しや、劇団員へのアルバイト先の仲介などを通じて、演劇人の応援を続けている。
さらに、阿佐谷の新たな試みとして、2018(平成30)年6月に「阿佐ヶ谷南北対抗運動会」を開催。200人以上の参加者が集まり、対抗リレーや騎馬戦に汗を流した。「阿佐谷が好きなら誰でも歓迎」という触れ込みのこのイベント、地域の子供たちの参加もあり、森口さんにとって新鮮な体験だったそうだ。

▼関連情報
「阿佐谷演劇」フェイスブック(外部リンク)

『阿佐谷演劇』

『阿佐谷演劇』

子供も大人も楽しんだ「阿佐ヶ谷南北対抗運動会」

子供も大人も楽しんだ「阿佐ヶ谷南北対抗運動会」

いつもの阿佐谷の方がもっと楽しい!

「阿佐ヶ谷飲み屋さん祭り」の次回開催は、2018年11月上旬を予定している。このイベントをきっかけに阿佐谷に来て、好きな店を見つけて、また何度も足を運んでもらいたい、普段の阿佐谷を楽しむファンを増やしたいと思っているそうだ。「自分が寂しがり屋なので、一人でいる人に話しかけたくなる。“こっちに来たら楽しいよ”と伝えたい。阿佐谷は新しい人も受け入れる懐の深さがある街なので、ぜひ遊びに来てほしい」
本業もあり、地域活動に割ける時間に限りがあるなかで、驚くような仕掛けを次々と繰り出す森口さん。その内なる情熱に、今後も期待したい。

取材を終えて
飲み歩きイベントは他の地域でも行われているが、長続きしないこともあるようだ。そんな中、「阿佐ヶ谷飲み屋さん祭り」が息の長い人気イベントとして継続しているのは素晴らしいことだ。その実行委員長で、自称「寂しがり屋」の森口さんが作り出すものは、今まで出会えずにいた人たちをつなぎ、阿佐谷の街をより一層豊かにしていると感じた。

森口剛行 プロフィール
1976年静岡県生まれ埼玉県育ち。立教大学文学部卒。2009年から阿佐谷在住。阿佐谷での飲食店経営を機に「阿佐ヶ谷飲み屋さん祭り」を企画し、第1回から実行委員長を務めている。飲食店を譲った後も、家業である配管業を営む傍ら、街の活性化につながる活動を継続中。
主な活動として、「阿佐ヶ谷飲み屋さん祭り」実行委員長、『阿佐谷演劇』発行、「阿佐ヶ谷南北対抗運動会」実行委員長など。

阿佐谷の飲み屋街が似合う

阿佐谷の飲み屋街が似合う

DATA

  • 取材:西荻松子、ogikuma(地域大学区民ライター講座実習記事)
  • 撮影:西荻松子、ogikuma(地域大学区民ライター講座実習記事)
  • 掲載日:2018年09月10日