白い煙突が目を引く杉並清掃工場は、1982(昭和57)年に高井戸に建てられた可燃ごみ処理施設。2017(平成29)年に建て替え工事が完了し、新工場が稼働した。一日に約600トンの可燃ごみの焼却が可能で、杉並区内で収集される全ての可燃ごみを処理するほか、近隣区からも一定量のごみを受け入れている。
新工場のコンセプトは、「地域にとけ込み、信頼される清掃工場」。周囲の閑静な住環境に調和させる目的で屋上や外壁を緑で覆い、壁の色やタイルの大きさも近隣の建物に合わせて選んだ。また、これまで以上に地域に開かれた施設を目指し、ウォーキングロードや足湯など誰でも気軽に立ち寄れるスペースを敷地内に作ったことも新工場の特徴だ。
ごみ処理の工程を可能な限りガラス越しに見られる見学ルートを設けており、リニューアル以来、格好の環境学習の場として、区内はもちろん国内外からも見学者が絶えない。
ごみ焼却施設と工場見学ルート
2つの焼却炉を24時間稼働し、800℃以上の高温でごみを焼却処理している。焼却で発生する有害物質は、法令で定められた基準値より厳しい自己規制値を設けて、最新の公害防止設備で除去し、削減している。また、その様子も見学できる工夫がされている(※1)。
余熱を利用した発電と温水プールへの熱供給
焼却時に発生する余熱を利用した高効率の発電施設を導入。新工場は前工場と比べ、同じごみ処理量で約4倍の発電が可能になった。この発電で、工場で使用する電気を全て賄っているほか、余った電気は売電して工場の運営財源に充てている。なお、焼却で沸かした温水を隣接する区立高井戸市民センターに地下空間の配管で供給し、温水プールや冷暖房に活用している。
誰でも利用できる一般開放施設
新工場には、近隣住民のアイデアを取り入れ、3つの一般開放施設が設置された。敷地の外周を囲むウォーキングロードは、全長約600m。道沿いには四季折々の草花が植えられており、無花粉スギやビオトープも観察できる。資料室「東京ごみ戦争歴史みらい館」では工場建設に至った歴史や、今回の建て替え経緯などの資料を展示。映像を交えて詳しく学べる。環境学習施設「高井戸の里 あし湯」は、ごみ焼却の余熱で沸かした湯で足を温めながら、回収した熱エネルギーを体感できる施設。ウォーキングロードを歩いたあとのリフレッシュにおすすめだ。
※1:工場見学会と一般開放施設の利用案内は、本稿末尾に掲載
工場見学会
杉並清掃工場は毎月第4土曜日に「個人見学会」を開催しており、1名から申し込みが可能。また10人以上のグループであれば、平日に原則毎日開催している「団体見学」を利用できる(※2)。収集車が処理施設にごみを投入する様子を見学したり、ごみ焼却の炎の熱を体感したりする見学ルートがあるのは、23区内では杉並清掃工場だけ。ごみの量や中身をガラス越しに確認することで、ごみ削減の大切さを実感できるだろう。ごみの分別について〇×クイズで答えるゲーム機など、子供が楽しくごみ問題を学べるコーナーもある。見学は無料で、所要約1時間30分。
杉並清掃工場環境フェア
毎年10月初旬、工場を身近に感じてもらうため「杉並清掃工場環境フェア」が開催されている。2018(平成30)年10月6日には新工場になって最初のフェアが開かれ、「杉並清掃工場エコクイズ」や工場見学会など、さまざまな企画が実施された。スケルトン清掃車によるごみ収集体験や、23区内で稼働中の清掃工場(建て替え中の2工場を除く19カ所)の煙突の写真を並べて人気投票を行う「えんとつ総選挙」などユニークなブースもあり、子供たちが楽しむ姿が見られた。
※2 個人・団体見学は、定期設備点検や炉の稼働状況によって休止期間あり。詳しくは東京二十三区清掃一部事務組合のホームぺージ(工場見学について)を参照
https://www.union.tokyo23-seisou.lg.jp/kengaku/index.html
杉並清掃工場の建設計画が発表された昭和40年代から、高井戸地域では住民と行政が話し合いを重ね、歩み寄りながら協力関係を培ってきた。新工場はその歴史を引き継ぎ、地域との協働を大切にしている。敷地の西側に設置された広場には、近隣の高井戸中学校から株分けされた「アンネ・フランクのバラ」(※3)を中心とした花壇があり、地域のボランティア団体「杉並清掃工場アンネ・ロザリアンの会」と、清掃工場の職員が一緒にバラの手入れ作業をしている。
また区立小学校の社会科見学を受け入れたり、近隣の小学生が描いた環境啓発ポスターを廊下に掲示したり、杉並の児童の身近な環境学習の場になっている。
工場長からのメッセージ
2017(平成29)年10月に新工場が本稼働して以来、小学生をはじめ、多くの区民や外国の皆さんに見学いただいています。来場者からは、「ごみクレーンは迫力があった」「焼却炉の火を見ることができて感動した」などのご感想がありました。また一般開放施設であるウォーキングロード、「東京ごみ戦争歴史みらい館」、「高井戸の里 あし湯」もたくさんの方に親しまれています。当工場の煙突下の広場では「杉並清掃工場アンネ・ロザリアンの会」のご協力を得てアンネのバラを育てています。お近くにお越しの際は、ぜひご観賞ください。今後も安全で安定した清掃工場の操業に努めるとともに、「地域にとけ込み、信頼される清掃工場」を目指して、職員一同取り組んでまいります。
※3 アンネ・フランクのバラ:1976(昭和51)年、高井戸中学校の生徒の元に、アンネ・フランクの父・オットー氏から寄贈されたバラ。平和を願う同校のシンボルとして生徒と地域の手で大切に育てられている
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