西荻窪駅の西荻南口仲通り会アーケードにぶら下がり、地域の人から親しまれている「ピンクの象」。2017(平成29)年3月、老朽化した二代目の象が、三代目となる現在の象にリニューアルされることとなった。それを知った西荻案内所(※)の奥秋圭(おくあき けい)さんと亜矢(あや)さんは、土地になじんだ二代目の象が廃棄されるのに違和感を覚え、象の保存を模索するとともに、象の歴史を探った。
この本は、象の保存に関わった人々と地域のやりとりの記録である。また、単なる顛末記に終わることなく、「ピンクの象」の物語を通して杉並の人々の文化や営みをも読み取れる一冊でもある。
※西荻案内所:西荻窪駅北口にあった西荻窪の情報案内所。2016年(平成28)年に閉所。現在はHPやSNSで西荻窪の情報を紹介するほか、西荻まち歩きマップの制作やイベントなどを企画している
二代目の「ピンクの象」が廃棄されずに海を渡り、佐渡にたどり着くまでの顛末記である。はじめはハリボテと思われていた象が実は見事な竹細工だったことが分かるくだりなど、象の正体が明らかになるにつれて、読者の胸には興奮が生まれるのではないだろうか。一見、なにげなく見えるものが底知れぬ価値を秘めていることがあるのだと、あらためて考えさせられる。また、「ピンクの象」が町のシンボルというだけでなく、手ぬぐいなどのグッズとなって地域を盛り上げる役割をも担い、西荻窪の人々の豊かな文化の象徴であったことがわかる。佐渡に渡った象の今後の物語に思いをはせつつ、身近なものや文化をも問い直したくなる、深い読後感を味わうことができるだろう。
「慣れ親しんでいたものが、あっさりなくなってしまうのをどうにかしたかった。最初から象をこうしようと考えていたというより、その時々にどうするか動いていった感じですね」と著者の奥秋さん夫妻は話す。初代の象を作った桜上水の竹清堂で、二代目の象の源流となった見事な竹細工の写真を見たときに「これは残さねば」と圭さんの心は動いたという。「象の一連のエピソードを調べる過程で関わった人たちからもらった熱量はものすごい。本にすることで、その物語を大勢の方に届けられた。どんなことも“面白そうだからやってみよう”という空気が根付く西荻窪の良さが伝われば」と妻の亜矢さん。
今、同書は一部の書店やネット販売でしか手に入らないが、「区立図書館でも借りられるので、ぜひリクエストして読んでほしい」と話してくれた。
▼取り扱い書店・通信販売
西荻案内所>お知らせ>西荻にいたピンクの象