環八通りと井ノ頭通りの交差点近くにある高井戸 麻婆TABLE(テーブル)は、地元の住民や近隣に勤めるサラリーマンでいつもにぎわう店だ。
名前の通り、店の一番人気は「麻婆豆腐ライス付き」(~900円)。オーナー店長の根岸正泰さんは、「麻婆豆腐のうまさは、いかに豆腐の甘さを引き出すか。それには麻味(マーウェイ)と辣味(ラーウェイ)のバランスが大事なんですよ」と語る。麻味は、花椒(※1)の舌がしびれるような辛さで、辣味は唐辛子のヒリヒリする辛さを指す。味には甘味、酸味、塩味、苦味、辛味の五味があるが、麻味を第6の味覚として楽しむ人もいるそうだ。根岸さんは豆板醤(トウバンジャン)を2種、しょうゆを3種、花椒などのスパイスを10種以上使い、豆腐に合うこだわりの麻辣味を作っている。
「麻婆麺 ライス・高菜付き」(~1,050円)も人気メニューで、ライスと高菜で麻婆丼として二度楽しめる。
2019(令和元)年10月には、『東京最高のレストラン2020』(ぴあ株式会社)に選出された。そこでは「担々麺」(~900円)の評価も高い。
根岸さんは、港区の中華料理の名店「桃の木」で修業した後、高井戸の中華料理店「cinnabar(シナバー)」に勤め、2017(平成29)年7月に「高井戸 麻婆TABLE」をオープンした。今のビルのオーナーが「cinnabar」の常連客で、中華の料理人として20年以上の経験を持つ根岸さんに、ここでの開業を勧めてくれたという。
高井戸駅から徒歩約10分、あえて杉並の住宅隣接地に開店したのには理由があった。「最近の家庭の食の劣化や、近所の食堂に元気がないのが気になっていました。日常生活がある所で、人に寄り添って食を提供したかった」。もっと、まちの食堂に気軽に立ち寄ってほしいそうだ。「小さな中華料理屋が、地域コミュニティの真ん中にあるというのが、これからの最先端の姿になるといいですね。“ネオまち中華”と言ってもいいかな」と笑う。「だからターゲットは日常のまちの人。老若男女に愛される、ちょうどいい味を考えています」
夜は、定番メニューに「本日のお任せ2皿」(1,200円)を追加するのがお得。その日に仕入れた旬の食材で作る、中華料理をベースにしたオリジナル料理が2種類だ。例えば秋には「湯葉と里芋と露地野菜の炒めもの」や「秋刀魚の唐揚げディルソースかけ」といった料理が好評で、毎回季節の料理を楽しめる工夫がリピーターを増やしているようだ。
2019(令和元)年10月には、メニューに「特上麻婆豆腐ライス付き」(~1,350円)が加わった。通常の麻婆豆腐に比べ、豆鼓(※2)を効かせたという。花椒の香りが鼻を刺激し、ゴロンと入った角切り牛肉のインパクトに特別感がある。冬季には牛肉の代わりにカキも扱い、季節によりニラや葉ニンニクをトッピングする。
店の片隅には使い込んだ中華料理の指南書が並び、根岸さんの研究熱心な一面をうかがわせる。「今も時々開くんですよ。新作のヒントになる」。中華料理の確かな知識の蓄積が、いくつもの料理のひらめきにつながっているのだろう。食を通してまちや人に寄り添う姿勢はゆるぎない。
・ランチ平均:1,000円 ディナー平均:3,000円
※1 花椒(ホアジャオ):ミカン科サンショウ属の赤い実を乾燥させ、果皮を使用する食材。山椒より強い香りとしびれるような辛味が特徴
※2 豆鼓(トウチ):蒸した大豆か黒豆に、麹(こうじ)と塩を加えて発酵させた食材。中華料理らしい風味をプラスさせるためによく使われる