金太郎の車止め(以下、金太郎)と聞いて、「そういえば見たことがある」と思う方も多いのではないか。最近では「杉並名物金太郎」として、テレビや雑誌で紹介されるようになり、認知度も上がってきた。
金太郎が登場したのは1975(昭和50)年頃。当時の杉並区広報に「悪質ドライバー阻止に金太郎さんの車止がお目みえ」という写真が掲載されている。昭和40年代から、区内の河川や水路にふたをする暗渠(あんきょ)化が始まり、その上が歩道になった所へ、車の進入を防ぐための車止めが設置された。このうち、子供が遊んだりよく通ったりする歩道には、昔話を知るきっかけにと金太郎のパネル付きのものが採用されたそうだ。
当時の車止めは鉄製で、雨水などにより経年劣化しやすかったため、平成以降は順次ステンレス製に置き換えられている。この流れを受けて、かつて身近に見られたという金太郎も次第に姿を消し、2020(令和2)年1月現在、確認されている残数は56個である。
現存する金太郎を調べた愛好家たちによれば、金太郎には5種類の顔があるという(図1参照)。大きく分けて、太眉タイプと細眉タイプだ。また、熊の顔も一重まぶたや二重まぶた、赤い口や黒い口がある。
なぜこのような細かい違いが見られるのか。杉並区都市整備部の土木計画課と杉並土木事務所管理係によると、「金太郎の設置業者は、パネルの印刷を別の業者に依頼し、請け負った業者は、木幡文吾氏のデザイン画(図2参照)を元に印刷用の絵を起こし、版を作成していたと推測される。設置した時期により、設置業者、印刷業者が変わることもあり、そこで違いが生じたのではないか」とのことだ。
太眉タイプの金太郎は、残数が少ないことから初期の顔ではないかと考えられる。特に、桃井4丁目の金太郎(コラム1最初の画像参照)は、区内に1つしかない貴重な太眉タイプだ。5種類の顔を残数順に並べてみると、世のはやり顔の移ろいが表れているようでもあり、なかなか興味深い。
金太郎パネルが付いた車止め自体にも、いろいろな違いがある。
枠の色を見ると、阿佐谷南は赤色、梅里は緑色というように、地域ごとに色の統一性があることに気付く。土木計画課によると、「平成元年前後は、区内を東西南北に分けて4つの事務所が管轄しており、東部は赤、南部は緑など管轄地域ごとに車止めの色を変えようという流れがあった」そうだ。
また、枠は多くが角に丸みを持たせた丸型だが、今川3丁目から桃井4丁目にかけての水路跡には、それとは異なる角ばった枠がある。ここに残る8個の金太郎は、半数が丸型、残りの半数が角型の枠だ。土木計画課によると「角型は古い型の車止め」とのことで、丸型角型の混在は設置時期の違いによるとも考えられる。しかし、初期の顔と考えられる太眉タイプが丸型、逆に細眉タイプが角型とちぐはぐな組み合わせもあり、この水路跡は、設置順も含め謎多き場所である。
金太郎は、撤去対象となったものからステンレス製の車止めに置き換えられ、いずれすべて無くなる予定だ。
撤去の条件は、①道路・水道工事等、②車止めとしての機能喪失、③住民からの依頼、のいずれか。まれに枠の色を塗り直すことはあるが、剥げた絵の修復やそれ以外の修理はせず、撤去対象になるまでそのまま使用されるそうだ。
区役所などで手に入る「すぎなみ景観ある区マップ」には、金太郎の場所が一部掲載されている。いずれなくなってしまう金太郎、ぜひ散歩がてらに探してみてはいかがだろうか。
▼関連情報
すぎなみ景観ある区マップ
すぎなみ学倶楽部>文化・雑学>読書のススメ>switch point 薄い冊子 001 絶滅危惧種!?「杉並路上の金太郎」読本
PDF:2009年10月22日掲載 すぎなみ学倶楽部>「金太郎」(車止め)※旧記事(310.9 KB )
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ブログ「てくてくxなみすけpart1」ナゾの看板を追え♪後編(2009年10月27日掲載)