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金山義信さん

ガラス作家は想像以上に体力勝負

「ガラスを熔(と)かす窯の温度は1,200℃。マグマと同じ温度なんですよ。ガラス工房で働くのは体力勝負です」。そう話すのは、杉並区で唯一の吹きガラス工房「Blue Glass Arts」の代表で、ガラス作家の金山義信(かなやま よしのぶ)さん。工房は、夏場になると40℃を超える暑さで、真冬も半袖シャツで作業できる。どろどろに熔けたガラスが作り手の瞬時の判断でいろいろな形に変わっていく。
美しい作品を数多く生み出している金山さんに、ガラス作家になるまでの歩みや工房を開いた背景を伺った。

制作したワイングラスを持つ、ガラス作家・金山義信さん

制作したワイングラスを持つ、ガラス作家・金山義信さん

1,200℃の窯の中から、真っ赤に熔けたガラスを巻き取った竿を出す

1,200℃の窯の中から、真っ赤に熔けたガラスを巻き取った竿を出す

幼い頃の興味が導いてくれた進路 

小さい頃からキラキラしたものが大好きだった、と話す金山さん。3歳の時に拾った緑色の石を「こんなきれいな色の石があるんだ」と宝物としてずっと大切に持っていた。のちにその宝物は、シーグラスという、長い年月、水辺を漂ううちに角が取れて丸い石のような形になったガラスだと知った。
中学生になり、将来「モノづくり」に関わる職業に就きたいとの思いから、美術部に入部。絵を描いたり、彫金・木工の技術を経験したりした。美術大学へ進むも、美術の世界で生きていく厳しさを知り、11年間サラリーマンとして働いた。しかし「モノづくり」とは別な道に進んでも、幼い頃から好きだった石への興味は失せず、休みを利用しては、琥珀(こはく)を探しに岩手県へ行くなど、日本各地へ石を探しに出掛けていた。そのような石と向き合う時間の中で「自分が魅せられているのは石そのものよりも、石という素材が持つ可能性の方なのではないか」と思い始めた。石とガラス作品の関係性について「できあがったガラス作品は人工的に見えるでしょうが、実は約70%は珪砂(けいしゃ)といって、石英という種類の石の細かい粒からできているんです」と、金山さんは説明する。
ガラスの変化自在な特徴を生かして作品を作りたい、という目標が明確になり、サラリーマンを辞めてガラス工房で修業を開始。5年間で基本的な技術を習得した後、さらに5年間、工房のスタッフとして働きながら技を磨いた。その間、多くの展覧会や個展に参加し、賞も授与された。

作品名「Life」:2004(平成16)年1月、「第4回現代ガラスの美展IN薩摩」審査員賞を受賞(写真提供:金山義信さん)

作品名「Life」:2004(平成16)年1月、「第4回現代ガラスの美展IN薩摩」審査員賞を受賞(写真提供:金山義信さん)

作品を通して生きた証を残したい

ガラス作家の中には、工房を借りて作品を作る人も多い。なぜなら、火を一年中使う工房の光熱費は高額で、維持費を工面するのが大変だからだ。しかし、金山さんは「自由に作品を作り続け、ガラス作家として生きた証を残したい」という強い思いから、自分のガラス工房を立ち上げることを目標にしていた。立地の条件は制作活動を周知しやすい都内と決めていたが、一日中ガスや窯の火を付けたままにする必要があるため、なかなか作業に適した物件が見つからなかった。そんな中、2004(平成16)年4月、京王井の頭線浜田山駅から徒歩約5分という好条件の場所に、念願のガラス工房を開くことができた。店名「Blue Glass Arts」の由来は、金山さんが好きな色の青(Blue)と音楽のジャンル「ブルーグラス」(※)からだという。金山さんは「この工房で、自分がこの世からいなくなった後も、代々受け継がれるような愛される作品を作っていきたい」と話す。

作品名「ゆらぎ」:50㎝もあるこの器は、2019(平成31)年1月の金山さんの作品(写真提供:金山義信さん)

作品名「ゆらぎ」:50㎝もあるこの器は、2019(平成31)年1月の金山さんの作品(写真提供:金山義信さん)

熔けたガラスからいろいろな形を作り出す

器やアクセサリー、ミニチュアのガラス瓶から大手有名ブランドのショーウインドーまで、これまでさまざまな作品を作ってきた金山さん。取材中「何か作ってみましょうか」と制作の様子を見せてくれた。
1,200℃の窯から、真っ赤に熔けたガラスを巻き取った竿をとり出し、竿をくるくる回しながら、大きなピンセットのような道具で突起を作っていく。その後、はさみとピンセットを交互に持ち換えながら成形すること約1分半、透明に輝く「たてがみを揺らして走る馬」ができた。続いて「今度は色を入れてみましょう」と、オレンジ色の「鳥」作りも披露してくれた。みるみるうちにできあがり興奮したが、制作は見た目以上に難しいという。熔けた高温のガラスに手を触れることができないのはもちろん、すぐに固まってしまうのでスピードが要求されるからだ。この後、作品は「徐冷炉」に入れて、1日冷まして完成する。

たてがみを揺らし、今にも動きだしそうな馬ができあがった

たてがみを揺らし、今にも動きだしそうな馬ができあがった

「色も入れてみました」。ガラスの鳥を2分ほどで作成

「色も入れてみました」。ガラスの鳥を2分ほどで作成

どんどん広がる仕事の幅

金山さんは「東宝シンデレラオーディション」のガラスの靴を2006(平成18)年から制作しているほか、ドラマやCM撮影に使用するガラス作品を多数手掛けている。2019(平成31)年には、映画「雪の華」に登場したガラス作品の制作や、俳優の技術指導を担当。杉並区を特集する旅番組などで工房が紹介されたこともあった。
また、工房を持たない人たちに制作の場として利用してもらったり、受講者のレベルに応じた「吹きガラス教室」を開いたりしている。さらに、子供から大人まで誰でも参加できる「吹きガラス体験」を行っており、月平均100人程度が訪れる人気ぶりだ。区からの依頼で区民対象の1日体験講座を開いたこともある。
最近はSNSを利用して、作品紹介や販売も行っている。金山さんの生きた証を残す仕事はこれからも続いていく。

取材を終えて
初対面にも関わらず、気さくにいろいろ話してくれる親しみやすさから、体験に訪れる人たちの楽しそうな様子が目に浮かんだ。工房を維持する大変さがあるからこそ、作家として作品を生み出す力、そしてさらに挑む力が湧き出ているように思えた。

金山義信 プロフィール
ガラス作家。1965年1月15日、山形県生まれ。小学5年生まで山形県で過ごし、その後東京へと移る。2004年4月、吹きガラス工房「Blue Glass Arts」を高井戸に開設。映画・テレビ・CMなどでガラス作品の提供・技術指導を担当している。

※ブルーグラス:アメリカ南部で発祥したカントリーミュージックの一種。1940年代、アメリカ南部に移住したスコットランド人の伝承音楽を基盤として作られ、フィドル・ギター、5弦バンジョー、マンドリンなどで演奏される

2011(平成23)年、東宝「シンデレラ」オーディション7代目グランプリ、上白石萌歌さんに送られたガラスの靴(写真提供:金山義信さん)

2011(平成23)年、東宝「シンデレラ」オーディション7代目グランプリ、上白石萌歌さんに送られたガラスの靴(写真提供:金山義信さん)

映画やドラマのロケ地として工房が使用されることもある(写真提供:金山義信さん)

映画やドラマのロケ地として工房が使用されることもある(写真提供:金山義信さん)

DATA

  • 取材:わいじ
  • 撮影:わいじ
    取材日:2020年04月06日
  • 掲載日:2020年06月22日
  • 情報更新日:2024年09月18日