創業者の鈴井氏は中学時代、ファミコン(※4)に夢中になり、「ドラゴンクエスト」や「スーパーマリオブラザーズ」など、挙げたらきりがないほどたくさんのゲームソフトをプレイした。同時に、「ファミコン通信」「コロコロコミック」などを読み、ゲーム制作会社の存在や開発プロセスを知る中で、ゲーム作りに興味を持ったという。そこで、中学時代にMSX(※5)でプログラミング言語を学び、大学時代にはゲーム制作を体験する「任天堂・電通ゲームセミナー」に参加した。
卒業後は株式会社バンダイに就職。その後独立して、1997(平成9)年、吉祥寺にインディーズゼロを設立した。社名の由来について「創業当時、“社名も知られていない”まさに“インディーズ”の状態から始めました。“ゼロ”という言葉の持つ“原点”“無限”“真っ白なキャンパス”というイメージが好き」と語る。
インディーズゼロは、アクションや趣味実用系などの多彩なジャンルのゲームソフト開発に携わっている。200品以上の料理レシピを収録した「しゃべる!DSお料理ナビ」や、筆型タッチペンで美しい文字の練習ができる「DS美文字トレーニング」など、ゲームで得た知識や技術を実生活に生かせるソフトも多い。「ゲームは、遊ぶ人が楽しい体験をすることで完成するコンテンツ。既存のジャンルや世界観にとらわれずに新鮮なワクワクを届けたい」と鈴井氏。
また、ゲームは、言語や文化の壁を超え世界中に市場がある。そのため、テーマやコンセプトの企画段階から、世界中にいるプレーヤーに受け入れられる表現やデザインを目指している。日付の表記を国ごとに合わせたり、特定の国でしか伝わらない表現をカットや変更したりすることもある。そのような気配りからも、ゲームを通じてプレーヤーを笑顔にしたいという思いが感じられる。
「みんなが楽しく過ごせる環境が、ものづくりには欠かせない」との鈴井氏の言葉どおり、オフィスは開放感があり、とても明るい。リラックススペースも広々としており、寝っ転がってくつろぐ社員もいるそうだ。「仕事時間とリラックスタイムを切り替えしやすい職場の環境が、良い作品作りに役立っています」
ゲームを通して社員同士の交流を図ることもある。「はやりのゲームを体験しようと、以前は社内でゲーム大会をしていました。“ポケットモンスター”や“どうぶつの森”など、オンラインプレイ可能なゲームは、家に帰ってからも社員同士で遊ぶこともあります」
新オフィスを構えた荻窪の印象について、鈴井氏は「杉並アニメーションミュージアムがあり、アニメ制作会社も多く、クリエイティブな業界に好意的な土地柄」だと言う。機会があれば、区内のアニメ制作会社とコラボレーションもしてみたいとのこと。社員からも「中央線と丸ノ内線が利用できてクライアントを訪問しやすい」「個性的な飲食店がたくさんあるのでランチが楽しい」との声が上がる。現在リニューアル中のホームページで、荻窪ランチブログの公開準備もしているそうだ。
2020(令和2)年、新型コロナウイルス感染が拡大する中で、ソフトリリース後のPRイベントが中止になったり、社内でもテレワークに切り替えたりと影響を受けた。ゲーム産業はコロナ禍においても成長している分野であるが(※6)、音楽制作やエンターテインメントの分野は減収(※7)が続いている。鈴井氏は「自社やゲーム業界が好調だからそれで良いかというのではなく、他のエンターテインメントと協力し、新たな発想で一緒に乗りきって行きたい。また我々もクリエイターとして映画や音楽や演劇などほかのエンターテインメントに触れることで発想が生まれることもあります」と言う。
2019年度の小学生“将来なりたい職業”(日本FP協会調べ)で、「ゲーム制作関連」は上位に入る。ゲーム作りの仕事に憧れる子供や若者に対し、鈴井氏はエールを送ってくれた。「今は、ゲーム制作の情報やツールを無料でそろえられる時代、興味がある方は実際に作ってみてほしい。テストプレイで想定と違う動きをしたら何度も調整し、試行錯誤しながら面白いと思えるゲームを作ってみてください。今は自作のゲームを世界中にリリースすることも可能です」
※1 ニンテンドー3DS:2011年に任天堂より発売された携帯型ゲーム機
※2 Nintendo Switch(ニンテンドースイッチ):2017年に任天堂より発売された家庭用ゲーム機
※3 アーケードゲーム:ゲームセンターなどに設置されているゲーム機の総称
※4 ファミコン(ファミリーコンピューター):1983年に任天堂より発売された家庭用ゲーム機
※5 MSX:1983年にマイクロソフトとアスキーによって提唱されたパソコンの共通規格
※6 任天堂2020年度4-6月期の連結決算売上高は、前年度同期の約2.1倍。カプコンは4-6月期決算売上高が前年同期比32.2%増(「産経新聞」2020年8月7日)
※7 新型コロナウイルスの感染拡大による国内のライブ・エンターテインメント業界の影響額は、2021年1月までの入場料金だけで6900億円規模。金額ベースで年間市場規模の77%に当たる(「日本経済新聞」2020年5月29日)