豊作を願う飾り物「まゆだんご」

農家の小正月の行事を再現

杉並区立郷土博物館では、毎年1月に「親子博物館教室 まゆだんごを作ろう!」を行っている。まゆだんごとは、だんごを木の枝に刺した豊作を願う飾り物で、小正月(※1)に農家で作られていた。博物館学芸員は「稲作が盛んな地域では“モチバナ(餅花)”といい、稲の花を表していました。養蚕が盛んな関東や中部では、蚕のまゆがたくさんとれるように、まゆの形に似せて作るようになりました。杉並でも、主に明治~大正時代に、井荻や高井戸など農家のあった地域で作られており、戦時中まで続けていた家もあります」と話す。
まゆだんごには豊作祈願のほか、現代では商売繁盛や無病息災など、いろいろな意味が込められているという。博物館から作り方を教わり、明るく豊かな年になるよう、昔の杉並の農家にならって祈ってみたい。

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紅白のまゆだんごは、めでたい正月にぴったり

紅白のまゆだんごは、めでたい正月にぴったり

大正~昭和の杉並のまゆだんご

昔は、どのようにまゆだんごを作っていたのだろうか?
「蚕を飼っている家ではだんごをまゆの形にしましたが、野菜の農家は野菜の形でした。呼び方も“まゆだま”、“メーダマ”などさまざまです。また、だんごの個数が決まっていた家や、ミカンを一緒に飾る家もありました」と学芸員は言う。「杉並区立郷土博物館研究紀要 第15号」には、区内の伝承者からまゆだんごについて聞き取りをした調査報告が掲載されており、杉並の農家でも違いがあったことがわかる。
篠家(井草二丁目)の年中行事/篠又蔵氏(昭和10年生まれ)
「1月15日 まゆだんご
米の粉で作った丸い団子をカシの木にさす。団子はすべて白色だが、木にはミカンをさして彩りを添える。(中略)マユダンゴは大黒柱に縛りつける。これは十五日に飾り、二十日にはずす」
本橋家(善福寺三丁目)の年中行事/本橋平八氏(大正13年生まれ)
「1月14日 メーダマ(繭玉)
(前略)オカボ(※2)を洗って干し、石臼でひいて粉にする。この後、こねて団子にする。団子は米粒、サトイモ・サツマイモなどの形にした。(中略)メーダマは十六日の朝にはずす。団子はユルリ(囲炉裏)の灰の中に入れて焼いて食べた。モミジの木はその辺に放って置く」

米を石臼でひいて粉にする

米を石臼でひいて粉にする

かまどでだんごを蒸す(写真提供:杉並区立郷土博物館)

かまどでだんごを蒸す(写真提供:杉並区立郷土博物館)

親子で楽しめるまゆだんご作り

農家によって違いがあることがわかったが、今回は「親子博物館教室 まゆだんごを作ろう!」と同じく、紅白のまゆだんごを作ることにした。小さな子供もだんごをこねる手伝いができるので、親子でチャレンジするのも楽しそうだ。もちろん、作っただんごはおいしく食べられる。「昔は1月15日前後に作って飾り、16日に外して、焼いたりおしるこにして食べました。出来たてを砂糖醤油に付けて食べてもおいしいですよ」と学芸員。材料は以下の通りで、すべてスーパーでそろえられる。

だんごの材料(30~40個分)  
上新粉(米粉)…400g
熱湯…400cc
食紅…ほんの少し

※安全性が確認できない枝に刺しただんごは、食べないようご注意ください

「親子博物館教室 まゆだんごを作ろう!」で完成した大きな飾り(写真提供:杉並区立郷土博物館)

「親子博物館教室 まゆだんごを作ろう!」で完成した大きな飾り(写真提供:杉並区立郷土博物館)

だんごの作り方

1.こねる
ボールに上新粉を入れ、熱湯を少しずつ加えながらしゃもじで混ぜる。冷めて触れるくらいの温度になったら、耳たぶくらいの硬さになるまで、手でまとめるようにこねる。
生地を半分に分け、赤いだんご用に、食紅をお湯で溶かしたものを加えて混ぜる(食紅の量が多すぎると、この記事の完成品のように真っ赤になりすぎるのでごく少量でOK)。

2.形を作る
生地を2.5cmくらいの大きさに丸める。白いだんごと、赤いだんごが混ざらないように、別々に作ると良い。昔の農家のように、まゆの形にしたり、野菜の形にしたり、いろいろな形を作るのも楽しい。

3.蒸す
形ができたら、だんご同士がくっつかないように蒸し器に並べ、蒸気が上がった状態で約20分蒸す。その際、ふたから水滴がたれないよう、ふきんをふたに巻いておく。蒸しあがったら、触れるくらいにまで冷ます。

熱湯を少しずつ加えながら固さを調節。冷めたら手でまとめていく

熱湯を少しずつ加えながら固さを調節。冷めたら手でまとめていく

赤と白の生地が混ざらないように、別々の入れ物に分けて丸めていく

赤と白の生地が混ざらないように、別々の入れ物に分けて丸めていく

丸いだんごだけでなく、蚕のまゆや野菜の形も再現

丸いだんごだけでなく、蚕のまゆや野菜の形も再現

蒸すときは、やけどや空だきに注意

蒸すときは、やけどや空だきに注意

飾って食べて、昔の杉並の農家を思う

だんごができたら、いよいよ飾り付けだ。かつてはモミジやエゴノキ、クワ、ネコヤナギなど、庭にある木の枝を使ったという。枝先が細かく分かれた木が、見映え良く飾れるそうだ。今回は、公園の樹木をせん定していた業者から、1mくらいのアケボノスギの枝を分けてもらい使用した。明るい年になるよう祈りながら、だんごを飾り付けていくと、見た目にも縁起の良い紅白のまゆだんごが完成した。
また、飾り用とは別に取り分けておいただんごを、おしるこにして食べてみた。餅と違い、さっくりとした歯ごたえが素朴でおいしく、昔の農家の人たちが笑顔で食べていた様子が目に浮かぶようだった。

まゆだんご作りを体験してみよう
まゆだんごは楽しく簡単に作れるので、杉並の昔の行事に興味がある人は、ぜひ小正月に作ってみてほしい。また、博物館主催の「親子博物館教室 まゆだんごを作ろう!」も毎回好評だという。学芸員は「杉並が昔、農業地帯だったことをご存じない方もいらっしゃるかもしれません。まゆだんご作りを通して、杉並の伝統文化を知っていただけるとうれしいです」と話す。毎年12月頃に「広報すぎなみ」に案内が載るので、申し込んでみてはいかがだろうか。

※1 小正月(こしょうがつ):旧暦の1月15日。新暦に変わってからも、年の始めの満月が正月という考え方が残り、1月1日を大正月、1月15日を小正月として祝う習慣があった
※2 オカボ:畑に栽培される稲。水稲に比べて収穫量が少なく、味も落ちる

アート作品のように仕上がったまゆだんご

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寒い冬は温かいおしるこが一番

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学芸員おすすめの砂糖醤油も、素朴なだんごによく合う

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野菜や魚の形のだんごも飾って、豊作・大漁祈願

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DATA

  • 出典・参考文献:

    「杉並区立郷土博物館研究紀要 第15号」(杉並区立郷土博物館)
    監修:杉並区立郷土博物館

  • 取材:西永福丸、ヤマザキサエ
  • 撮影:西永福丸
    写真提供:杉並区立郷土博物館
    取材日:06月30日
  • 掲載日:2020年12月14日