1989(平成元)年にオープンした杉並区立郷土博物館では、杉並に関する歴史と郷土資料の収集・保存、調査・研究と展示・公開を行っている。善福寺川のほど近い、大宮一丁目の住宅街を歩いていると見えてくる、かやぶき屋根の長屋門(コラム2参照)が博物館の入り口だ。
郷土博物館が建っている敷地自体にも歴史がある。この一帯は公家の家系である旧侯爵・嵯峨(さが)家の所有地だった。1937(昭和12)年、実勝侯爵の令嬢、嵯峨浩(ひろ)が、ラストエンペラーで知られる愛新覚羅溥儀(あいしんかくらふぎ)の弟・溥傑(ふけつ)と軍の主導で結婚する際、この地から式場に出発した。
館内は、主に一階の常設展示室と特別展示室、二階の情報普及コーナー、視聴覚室で構成されている。このほか、敷地内に長屋門と古民家がある。
常設展示室
2015(平成27)年にリニューアルして見やすくなった常設展示室では、地元杉並の「原始・古代」から「中世」「近世」「近現代」までの様子を時代ごとに知ることができる。例えば、「原始・古代」コーナーでは、区内の各遺跡から発掘された土器や石器が見られる。「近世」に関しては、江戸時代の高井戸宿の模型を展示しており、甲州街道沿いにあった宿場町の町並みの再現が、見る者の想像を助けてくれる。また、杉並で発祥した「水爆禁止署名運動」に関する資料なども一見の価値がある。
特別展示室
特別展示室では、杉並に関する事柄を広くテーマ別に取り扱った企画展・特別展が行われている。
過去には「井伏鱒二と『荻窪風土記』の世界」(平成10年)、「有吉佐和子歿後(ぼつご)30年記念特別展」(平成26年)、「上林暁展-闘病の作家その作品と生涯-」(平成22年)など、郷土にゆかりのある作家を取り上げた展示や、「甲州道中へのいざない-行き交う人・モノ-」(平成25年)、「高円寺フォーク伝説」(平成8年)、「杉並のお風呂屋さん」(平成19年)など、郷土の歴史に限らずさまざまなジャンルからの展示を行っている。
今後の展示の内容や開催期間については、「広報すぎなみ」やホームページなど、区の公式情報に発表されるのでチェックして訪れたい。
また、区内在住や在学の小学生から中学生を対象に「七夕馬作り(7月)」「まゆだんご作り(1月)」など、杉並の農家で実際に行われていた行事の体験イベントを開催している。大人向けには、6月と11月頃に開催される「古文書講座」がある。古文書解読のさわりが学習できると、毎年抽選になるほどの人気講座だ。特別展示室での展示期間中には、学芸員による展示についての解説日も設けられる。解説を聞くと、展示についての理解が深められ、さらに楽しめるだろう。
イベントの詳細は「広報すぎなみ」のほか、郷土博物館のホームページ、区立図書館などで入手できる「年中行事だより」などに掲載される。
郷土博物館の運営や行事イベントの実施には、区内の団体やNPOも多く関わっている。前述の古文書講座は、区が所有する古文書解読に協力している「みおつくしの会」。古民家の囲炉裏への火入れと昔の農家の生活案内は「NPO法人すぎなみムーサ」。年末の古民家すす払いは「文化財保護ボランティア」などの区民団体が協力。その他、地域の有志も郷土博物館を盛り上げるために協力している。
博物館の周辺には、都立和田堀公園を始め、大宮八幡宮、済美台遺跡、松ノ木遺跡などの見どころがある。また、近くの善福寺川の側道では、散策やランニングなどをする人も多い。
博物館には、車いす対応のトイレや授乳・おむつ替えのできるスペースもあり、英語版のパンフレットも常備されているので、誰と一緒に行っても安心して過ごすことができる。天気のいい日には、弁当を持参して公園で食べ、周辺を散策し、郷土博物館で歴史の勉強をする、などという休日プランはいかがだろうか。