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マーク・ヒルさん

ボストン生まれのフォトグラファー

撮影の場は主にストリートだ。高円寺、阿佐谷、荻窪など杉並区の街角も多く映し出す。Mark Hillオフィシャルインスタグラム「tokyo tableaux(トーキョー タブロー)」で公開している写真からは、見逃しがちな日常の片隅と、そこに息づく人々のさまざまな姿がありのままに迫ってくる。
1971(昭和46)年にアメリカのボストンで生まれ、2000(平成12)年に来日。これまでにモデルとして、ゲーム「バイオハザードRE:3」、大手航空会社、自動車メーカーなど企業のCMに多数出演しているほか、俳優、ライターなど幅広い分野で活躍中のマーク・ヒルさん。今最も力を入れているのはフォトグラファーとしての活動だという。「すぎなみ地域大学 区民ライター講座」写真撮影ワークショップで講師を務めたこともあり、撮影指導にも積極的だ。
クールな佇(たたず)まいに、人懐こい笑顔が印象的なマークさんから、若いころから抱いていた夢や仕事への思い、区との関わりなどについて伺った。

▼関連情報
tokyo_tableaux(外部リンク)

マルチに活躍しているマーク・ヒルさん(2020年12月「すぎなみ地域大学 区民ライター講座」写真撮影ワークショップにて)

マルチに活躍しているマーク・ヒルさん(2020年12月「すぎなみ地域大学 区民ライター講座」写真撮影ワークショップにて)

マークさんの作品は異次元の世界へと誘う不思議なエネルギーに満ちている。インスタグラム「tokyo tableaux」から(写真提供:マーク・ヒル)

マークさんの作品は異次元の世界へと誘う不思議なエネルギーに満ちている。インスタグラム「tokyo tableaux」から(写真提供:マーク・ヒル)

学生時代の夢は「人の夢をかなえる手助けをすること」

幼少期は、森林の探検など、外で過ごすことが多い活発な子供だった。一方でラジオやテレビを分解して仕組みを観察することや、ギターや歌、作曲も好きだった。「何か良い影響を与える人になりたい」との思いがあり、まめに日記を書いて自分が言いたいことを正確に伝えられるよう表現力も養っていた。
大学では理学療法を学ぶ傍ら、学生が舞台に立ち自らの考えを伝えたり、特技、能力を生かしたパフォーマンスを披露したりする「オープン・マイク・イベント」を主催。仲間の才能を見つける喜びに目覚めた。「人が情熱を傾ける姿が好きだから、彼らの夢をかなえる手助けがしたかった」
来日のきっかけはボランティア活動。神戸の老人ホームなどで主にミュージシャンとして半年を過ごした後、友人の紹介で高円寺にやって来た。29歳の頃である。

幼少期のマークさん(写真左)(写真提供:マーク・ヒル)

幼少期のマークさん(写真左)(写真提供:マーク・ヒル)

「高円寺は自由の島みたい」

「ここに住みたい」。初めて訪れた高円寺で、ブラックミュージックバー「DOPE SOUL TRAXX(ドープ・ソウル・トラックス)」の階段に座った時に湧き出た思いだ。その日のことは今でも鮮明に覚えているという。「一人一人、母国や価値観が違って当たり前のアメリカに比べ、日本人は“私たち”という集団の価値観に縛られていると思う。だから日本で自由を求めるのは難しい。でも、高円寺では人はありのままの自分でいられるし、情熱に素直でいられる。高円寺は自由の島みたい」とほほ笑む。
区内で暮らし始めて以降、高円寺や阿佐谷を中心に、アーティストや個人経営の店主らと交流の輪を広げてきた。入りにくい店でも「一歩足を踏み入れて、思い切って話し掛けてみると、みんなオープンになる。ちょっと風変わりな感じの人も、心は面白いね」。日々出会いを重ねながら、好きなことやアイデアを仕事にする人々や、地域付き合いを大切にする風土に惹(ひ)かれてきた。区での出会いは探検好きなマークさんの好奇心を刺激し続け、2016(平成28)年頃からはフォトグラファーとして写真を残すようになった。「杉並は駅ごとに文化が異なるし、商店街ごとに個性がある。10分歩いただけで別の世界にたどり着ける。これからも写真を撮りながら新しい場所を探し、いろんな人と話したい」

杉並に住むきっかけとなった、ブラックミュージックバーの階段(写真提供:マーク・ヒル)

杉並に住むきっかけとなった、ブラックミュージックバーの階段(写真提供:マーク・ヒル)

インスタグラム「tokyo tableaux」には高円寺のストリート写真が目立つ(写真提供:マーク・ヒル)

インスタグラム「tokyo tableaux」には高円寺のストリート写真が目立つ(写真提供:マーク・ヒル)

「“人”にも“モノ”にも“ホーム”を見つけていきたい」

マークさんの活動は、フォトグラファーの範囲にとどまらない。DIYで捨てる“モノ”を家具などに蘇らせて、もらい手を見つけることも好きだそうだ。友人が高円寺でカフェを開店する際に、他の友人が廃棄しようとしていた古い家のドアを引き取り、カフェのカウンターに作り替えて贈ったこともあった。幼少期から祖父母が営むアンティークショップが身近にあったマークさん。「もったいない」という意識が価値観の根底にある。人へ向けるまなざしも同様だ。「皆、夢やアイデアを持っている。でも、どのように生かすべきかわからず困っていたり、夢とは違う仕事をしていたりする。それは本当に“もったいない”と思う」。それぞれの得意分野に気づき、交換・コラボレーションしていくことで、お互いに才能や個性を生かし合えるとマークさんは考えている。「同じ考えを持っている人がいたら、私が間に立って人同士をつなげていきたい。“モノ”にも“人”にも居場所のような“ホーム”を見つけていきたい」

マークさんが廃材から作った「野菜を洗うためのアウトドアキッチン」(写真提供:マーク・ヒル)

マークさんが廃材から作った「野菜を洗うためのアウトドアキッチン」(写真提供:マーク・ヒル)

写真を通して、人や街の「ストーリー」を伝える

本来の魅力を見出し、輝かせたいという思いは、フォトグラファーとしての活動にも込められている。「写真を撮ることは、“ストーリー”を伝えること」とマークさんは語る。カメラを通すことで、街の歴史や一人一人の人生を物語る「ストーリー」をありのままに映し出せるという。「多くの人はドラマチックな瞬間に注目しがちだが、私は、ありきたりに思えるような日本の日常を、ドキュメンタリーのように伝えたい。生きていればいろんなことがあるけど、どれも大切な人生の1こま。みんなが見落としてしまいがちな瞬間に“人の本質”を探して記録したい。私が感じていることは、言葉で伝えるのは難しいが、写真でならきっとわかる」。今後は、ストリート写真の展覧会を路上で開き、多くの人に気軽に見てもらいたいと願っている。
2000(平成12)年以来住み続けている街の変化にも思いを寄せる。「都市開発が進む中で、個性を生かせる自由な場所がなくなりつつあるのではないか」と不安になることもあるそうだ。「杉並を、皆が自分の能力や才能を発揮し、生かし合えるような、住みやすい街にしたい」。それがマークさんの夢であり、映し出したいストーリーだ。

取材を終えて
取材時にカメラを向ければ一瞬でポーズを決める、一流のモデルぶりに眩惑(げんわく)。が、この人にとって肩書など関係ない。職業や国籍などあらゆる境界を軽々飛び越え、人の心を開き繋(つな)げる。やわらかい気持ちになった。(村上)
終始穏やかに取材に応えてくれたが、杉並の魅力や夢を語る目の輝きに熱い思いを感じた。「上を見ると面白いものがあるよ」と電線にカメラを向けるマークさんにつられて顔を上げた瞬間、ふわりと視野が広がる心地がした。(亀山)

マーク・ヒル(Mark Hill) プロフィール
1971(昭和46)年ボストンで生まれ、2000(平成12)年に来日。俳優、モデル、ナレーターとして、テレビドラマや、CM、映画、プロモーションビデオ、大手企業広告などに多数出演。現在は主にフォトグラファーとして活動しており、「なみじゃない、杉並!」「Experience Suginami」で杉並の魅力を伝えている。

▼関連情報
なみじゃない、杉並!(外部リンク)
Experience Suginami(外部リンク)

ストリート写真を撮影中。良い写真を撮るコツは「風景のどこを切り取るか、フレームを意識すること」

ストリート写真を撮影中。良い写真を撮るコツは「風景のどこを切り取るか、フレームを意識すること」

DATA

  • 取材:タタカロ、かめ山なほ子(区民ライター講座実習記事)
  • 撮影:タタカロ、かめ山なほ子
    写真提供:マーク・ヒル
    取材日:2020年12月15日
  • 掲載日:2021年03月15日