サミット株式会社(以下、サミット)は杉並区西永福に本部を持ち、首都圏に117店舗のサミットストアを展開。区内には10店舗(※1)がある。
1963(昭和38)年、住友商事と当時アメリカで最大規模のスーパーマーケットチェーンであったセーフウエイ社との業務提携により、サミットの前身である株式会社京浜商会が設立され、世田谷区野沢に1号店が誕生した。しかし、1960年代前半の日本には、今では当たり前のセルフサービスシステムや整然とした売り場レイアウトがなじまず、セーフウェイ社との業務提携契約は1年で解消となる。新たに住友商事の100%出資で経営が始まり、1967(昭和42)年、社名を株式会社サミットストアに変更した(※2)。
初めて年間損益で黒字を計上したのは1972(昭和47)年。後に社長となる荒井伸也氏ら新経営陣による作業や管理、運営方法などの見直しの成果であった。5年後には第40店目にして初の大型店舗、サミットストア五反野店が足立区に開店。食料品に加え、本格的な衣料品の販売や家庭用品の充実、屋上には地域の人々のいこいの場を設けるなど、新しいアイデアが盛り込まれた。この店舗の成功を機にサミットは躍進する。
サミットストアと他のスーパーマーケットとの違いについて、広報室マネジャー・中村さんは「サミットには本部と店舗に上下関係がありません。作曲家が作曲し、演奏者が演奏するように役割がある。サミットではこうした分業の考え方を、本部の“作”に対し、店舗の“演”と表現しています」と話す。社員間を役職名で呼ぶこともない。「私も社長の服部哲也を“服部さん”と呼んでいますよ」
また、店舗の作業をL.S.P.(※3)という科学的管理に基づいた手法で運営しているのも独自の取り組みである。具体的には「さしみの原料を切り身にする→トレーに入れてつまを添える→値付けをして売り場に出す」といった作業時間をストップウォッチで計り、どれくらいの人員と時間が必要かを調べているそうだ。「これにより効率的な作業と人員配置が可能になります」
店舗のバックヤード(作業場)が広いのも特徴の一つ。生鮮食品を店内加工しているので、商品の売れ行きに応じて生産量を調整できる。鶏肉は、ゴミを減らしたい顧客のニーズに応えてノントレー方式で販売。「普通の包装より手間はかかりますが、環境問題を考えて鶏肉の95%はこの方法にしています」
このほか、サミットの環境への取り組みは、店内の廃棄物のリサイクルや、一部店舗での太陽光発電の採用、山梨県の丹波山(たばやま)村での森林整備活動や耕作放棄地での農業活動などにも表れている。
2018(平成30)年10月にオープンしたサミットストア本天沼店は、ヨーロッパの市場を意識した開放的な空間に、作り手の顔が見えるオープンキッチンなどを備えた、サミットが培ってきたノウハウの詰まった店舗だ。
サミットは「社会との共生」を理念の一つとし「地域とのコミュニケーション」を重視している。本天沼店でも近隣の小学校の給食メニューの掲示や店舗独自のミニイベントなどを実施し、地域住民との接点を多く持つことを心掛けている。
また、2015(平成27)年から店舗ごとに案内係を配属するサービスを開始。本天沼店では松村さんが担当している。目立つ腕章を付け店舗内を巡回する案内係は、利用客からの質問に答えるだけでなく、積極的に声を掛けながら、売り場の案内や在庫確認などをしつつ、客との雑談にも気軽に応じる。スーパーマーケットの店員という枠を越えた「接客のプロ」として、「地域とのコミュニケーション」を具現化する存在だ。
近年は、コミュニケーションツールとしてSNS(ソーシャルネットワークサービス)も積極的に活用。ツイッターでは、本部が開設する「サミットストア公式」(@summitstore_co)と「サミットバイヤーなう」(@summit_buyernow)に加え、各店舗も独自のアカウントを持ち、発信している。中村さんによれば「あまり特売の宣伝はしない」というユニークなルールが設けられているそうだ。「サミットストア公式」では担当者が日々のランチを公開するなどフレンドリーなツイートが多く、宣伝ではなく利用者とのコミュニケーションという目的が徹底されている。
スマートフォンでダウンロードできる「サミットアプリ」は、ポイントカードとの連携機能のほか、アプリ限定クーポンの配信や、お気に入り店舗のチラシをいち早く見られるサービスなどがある。買い忘れ防止に役立つ「お買い物メモ」も好評である。
サミットは区内の小中学校の授業もサポートしている。小学3年生の社会科では、「スーパーマーケット調べ」でバックヤード見学などに協力。中学2年生の職場体験では、5日間にわたり、商品の品出しや青果の商品化、レジの操作体験などを行っている。また地域貢献活動として、本部近くにある大宮八幡宮で、例年12月に大宮八幡宮杉並花笠(はながさ)祭りを開催。参道に取引先の協力による屋台が並び、社員や地元商店会による花笠踊りパレードが行われ、多くの見物客でにぎわう。チャリティーで振る舞われる芋煮は行列ができるほど人気だ。祭りで得た募金は杉並区社会福祉協議会に寄付している(※4)。
2020(令和2)年、新型コロナウイルスが猛威を振るい、サミットも安全な店舗運営を継続するための判断を迫られた。店内の3密を避けるため、チラシの配布や割引セールを自粛。従業員の安全を確保するためにマスク・手袋の手配や、働く環境を整備した。中村さんによると、サミットは以前よりBCP(※5)対策が策定されており、非常時の対応は考えられていたという。「例えば地震や水害などの災害時には、本部の指示を待たずに各店舗で営業するかどうかを判断できる体制を作っています。スーパーマーケットには地域のインフラとしての役割もあり、コロナ禍は、あらためて地域コミュニティーの一員として何ができるかを考える機会になりました」。松村さんも「本天沼店が休業になり自分自身も不安でしたが、それよりも早く地域の皆さんと会いたいという気持ちが湧きました。私たちの店舗が地域の生活を支えていることを実感できた気がします」と語る。
サミットには買い物目的以外に、ミニイベントや憩いを目当てに訪れるユーザーもいる。これからも地域コミュニティーの一員として「社会に必要とされる新しいスーパーマーケットの創造」を目指していく。
※1 西永福店、久我山店、和泉店、妙法寺前店、高井戸東店、成田東店、井荻駅前店、善福寺店、本天沼店、西荻窪駅南店(2021年6月現在)
※2 1988(昭和63)年に、現在のサミット株式会社に改称
※3 L.S.P.:レイバー・スケジューリング・プログラム。作業を1つ1つ明確にして、作業量と作業時間を数値として捉えて管理・運営する方法
※4 新型コロナ感染拡大中は店舗見学、職場体験、大宮八幡宮杉並花笠祭りは中止。小学校の「スーパーマーケット調べ」は学校に店舗見学映像を提供し実施
※5 BCP(Business Continuity Plan):事業継続計画。企業が自然災害などの緊急事態に遭遇した場合に備えて、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画のこと