「福島県南相馬市に来たよ~。甲冑(かっちゅう)姿の騎馬武者が活躍する相馬野馬追(そうまのまおい)が有名なんだ」
過去に何度か南相馬市に遊びに来たことがあるなみすけ。久しぶりに訪ねてみようと、1泊2日の交流自治体取材に同行した。朝6時半、区民ライターとカメラマンと一緒に車で杉並を出発し、11時ごろに常磐(じょうばん)自動車道サービスエリア「セデッテかしま」に到着。今回の案内役、南相馬市・移住定住課の大和田さんとの待ち合わせ場所だ。
「南相馬市にはおいしい物がいっぱいあるんだよね。最近のおすすめは何かな?」
副店長が「お土産処」を案内してくれた。地元農家が作った漬物、名産の海苔(のり)を巻いたせんべい、南相馬市のソウルフードだという松永牛乳と元祖よつわりパンなど、名物がたくさん並んでいる。人気の「手造りアイスまんじゅう」を買おうとしたところ、ちょうどそれを手土産に大和田さんがやって来た。
「わぁ、ありがとう!南相馬市のこと、いろいろ教えてね」
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すぎなみ学倶楽部 文化・雑学>杉並の交流自治体>南相馬市
杉並区>杉並の交流自治体>南相馬市(外部リンク)
相馬野馬追 公式サイト(外部リンク)
南相馬市 公式ウェブサイト(外部リンク)
セデッテかしま(外部リンク)
先導する大和田さんの車を追って、取材チームの車も市内へ向かう。
「あっ!お馬さんがいるよ。かわいいなぁ~」
野馬追の伝統を受け継ぐ南相馬市には、馬を家族の一員のように飼育している家が85戸ある(2018年調べ)。なみすけが立ち寄った家でも人懐っこい2頭を飼っていた。
次に訪ねたのは広々とした田園。「この豊かな風景を見せたくて」と大和田さんが目を細める。田んぼの持ち主も馬を飼っており、毎朝4時ごろから海岸で野馬追の練習をしているという。
「お馬さんのお世話は、朝早くから始まるんだね~」
その後、北泉(きたいずみ)海岸へ。広い砂浜に波が静かに打ち寄せ、沖では若者がサーフィンに興じていた。大和田さんが「今立っている堤防の辺りも、震災のとき津波にのまれ、水に漬かりました」と話す。被害の大きさをあらためて知り、心の中で祈りを捧(ささ)げたなみすけたち。高台にあるメモリアルパークに行くと、津波が到達した高さの11.1mを示すモニュメントが設置され、その先に青い海が広がっていた。
「この先ずっと、海が穏やかだといいなぁ」
続いて向かった「南相馬市消防・防災センター」でも、震災の記録の展示を見ながら当時の状況を振り返った。危機管理課職員から日頃の備えが大切であることを教えてもらう。
「よ~し、ぼくも帰ったらすぐに防災リュックを点検しよう」
2016(平成28)年に避難指示が解除された南相馬市小高区で、それぞれの目標にチャレンジしている若手を取材した。
まずお会いしたのは、バー併設の酒蔵「haccoba-Craft Sake Brewery-」代表の佐藤さん。一から酒蔵を立ち上げるにあたり、小高で新たな日本酒文化を開拓していこうと思い、移住したそうだ。日本酒にホップを加えるなど、自由なスタイルの酒づくりに挑戦している。
「佐藤さんが作ったお酒、完売で残念~。オンライン販売もしてるからチェックしてみよう」
2人目は、コワーキングスペース「小高パイオニアヴィレッジ」を運営する和田さん。地域再生のため、「haccoba」の佐藤さんのように新事業を始める人たちを支援している。
「パイオニアヴィレッジは小高の起業家が集う場所なんだね。とっても居心地がいいなぁ~」
「自分の暮らしたい町を、自分たちで作っていきたい」と語る和田さんに、元気をもらったなみすけたち。今日の締めくくりとして、小高にある「大悲山(だいひさん)の大杉」を見物した。そばに立つ薬師堂には、平安時代前期に制作されたといわれる石仏群がまつられている。
「千年以上も昔の杉の木や石仏が大切にされてるんだね」
▼関連情報
haccoba-Craft Sake Brewery-(外部リンク)
小高パイオニアヴィレッジ(外部リンク)
福島県南相馬市 小高観光協会>大悲山の石仏(外部リンク)
翌朝、なみすけは一人でてくてくお散歩に。ホテル近くの「黒潮海苔店」にふらりと入ると、店長が「なみすけ!」と声を掛けてくれた。
「えっ?ぼくって南相馬市でも有名なの?」
聞けば、区役所前で開催する物産展によく出店しているという。南相馬市と杉並の交流が根付いていることをあらためて実感した。
その後、取材チームと合流し、南相馬市立中央図書館に向かう。開放的な建物が美しく、木のぬくもりも感じられた。
「こんなステキな図書館が近くにあったら、たっぷり読書できそう~」
副館長が「南相馬市内の小学校では、杉並からの義援金で購入した図書を“杉並文庫”として設置し、学校図書館で活用していますよ!」と言う。次に訪ねた南相馬市社会福祉協議会でも、地域福祉課長が「震災直後から、杉並区社会福祉協議会の職員や杉並災害ボランティアの会の方々などが、支援を続けてくれています」とアツく語っていた。区と南相馬市が災害時相互援助協定を締結しており、今も共に復興に向けて取り組んでいることを再認識する。
「杉並の優しい人たちの力が役立っているんだね~」
▼関連情報
ホテル丸屋グランデ(外部リンク)
黒潮海苔店(外部リンク)
南相馬市立中央図書館(外部リンク)
社会福祉法人 南相馬市社会福祉協議会(外部リンク)
午後は、野馬追に代々出場している伏見家を訪問。「神旗争奪戦」で何度も御神旗(ごしんき)を手中に収めたというベテランの克夫さんが、「昨年は孫が5歳で初出場しました」とほおを緩める。
「今年は新型コロナのために簡略化されたけれど、野馬追はずっと受け継がれていくんだね~」
伏見家で室町時代の鞍(くら)など伝統ある馬具を見せてもらった後は、時代の最先端を行く施設「福島ロボットテストフィールド」へ。東京ディズニーランドとほぼ同じ広さの敷地に、ドローンの飛行訓練ができる滑走路や、ロボットによるインフラ点検・災害対応を試験するための橋梁(きょうりょう)などが設置されている。点在する試験場をワクワクしながら見て回ったなみすけは、あまりの広さにヘトヘトに。
「ぼくもう歩けない…。ドローンで運んでもらえないかしら?」
最後の取材先は、地域団体「まなびあい南相馬」代表の高橋さん。市民が地域について語り合える場をつくるために団体を立ち上げたそうだ。親子向けのワークショップや、議論を円滑に進める技法を学ぶファシリテーション講座などを開催している。みんなが集まれるサロンに変えたばかりという自宅2階で、温かく迎えてくれた。
「高橋さんをはじめ、南相馬市の人たちはみんな笑顔がキラキラ。きっと目標に向かってがんばってるからだね。大和田さん、ステキなところをいっぱい案内してくれてありがとう!」