小野行雄さん

バラエティー豊かな日時計を桃井で制作

本を広げたような形をした杉並学院高等学校の日時計。シンプルで研ぎ澄まされたデザインの区立井荻中学校の日時計。どちらも、杉並区桃井在住の造形作家・小野行雄(おの ゆきお)さんの作品である。今までに約80個の日時計を制作し、2002(平成14)年にイタリア・ルメッツァーネで開催された第7回国際日時計コンテストのプロ部門グランプリなどの賞を受賞。施設のイメージに合った美しい作品が、北は宮城大学キャンパス、南は福岡県久留米市の個人宅まで、国内のさまざまな場所に設置されている。
区内でも、学校などに置かれた作品が人々の目を楽しませているほか、子供向けのワークショップなどを通し地域活動にも力を入れている小野さんに、日時計の魅力を伺った。

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日時計を作って30年、造形作家・小野行雄さん

日時計を作って30年、造形作家・小野行雄さん

杉並学院高等学校の日時計(左)と、井荻中学校の日時計(右)

杉並学院高等学校の日時計(左)と、井荻中学校の日時計(右)

調べれば調べるほど日時計にはまった

1946(昭和21)年、栃木県佐野市に生まれた小野さんは、子供の頃から物を作ることが好きだったという。「木を削って色を塗って飛行機や船の模型を作って遊んでいました。自宅周辺は職人の町といった感じで、竹屋が竹かごを編んだり、げた屋がきりの板を削ったりするものづくりの風景も、よく眺めていました」
作ることが自分に向いていると思い、日本大学の建築工学科に進学。卒業後は研究生として大学に残り、勉強のかたわら、絵画や立体造形にも詳しかった指導教官のもとものづくりを手伝っていた。1974(昭和49)年、指導教官が東京造形大学の主任教授となり、小野さんも助手として呼ばれる。初めて自分の作品に取り組んだのもその頃だ。「教授から、おまえも新制作展(※1)に出品してみないかと言われ、オブジェ風の立体造形を作り始めました」
何度か出品をしているうちに、同じく立体造形を制作していた知人から日時計作りを手伝ってほしいと頼まれた。「それまでは日時計のことをまったく知りませんでしたが、渡された本を手に原理を学んでみたら、これは面白いぞと。形にもバリエーションがあり、調べれば調べるほど深みにはまっていきました」。そして、知人が日時計作りをやめてからも独自に取り組み、1992(平成4)年、46歳の時に新宿のスペース・ゼロで「日時計展」を開くことになった。以来、30年間、日時計作家として活動している。また、1996(平成8)年から2012(平成24)年まで、東京造形大学でデザイン学科の教授を務めた。

2021(令和3)年9月の新制作展用に作成した日時計。「これは木で作った原寸大の見本のようなもので、屋外に設置する場合は耐久性のある素材で制作します」

2021(令和3)年9月の新制作展用に作成した日時計。「これは木で作った原寸大の見本のようなもので、屋外に設置する場合は耐久性のある素材で制作します」

知人を手伝う際、資料として渡された安野光雅作『地球は日時計』(福音館書店)

知人を手伝う際、資料として渡された安野光雅作『地球は日時計』(福音館書店)

最初に制作した作品「知人の日時計1988」(写真提供:小野行雄さん)

最初に制作した作品「知人の日時計1988」(写真提供:小野行雄さん)

パブリックアートのような日時計

小野さんが今までに制作した日時計は、すでに存在しないものやストックを含め約80個。例えば、国立天文台野辺山の入り口にある「太陽の坐(いす)」は、太陽にたまには休んでもらおうと椅子の形にしたそうだ。また、岐阜県にある「くつろぎ日時計」はベンチになっており、日の影が時間の経過とともにアーチ型の座面にしま模様を描く。どのアイデアも秀逸だが、小野さんは「いろんなデザインを考えるのが好き。そしてそれを作るために知恵を絞っています」と笑う。
日時計の研究のため、海外にも足を運ぶようになった。「フランスの小さな町ブリアンソンは、家や教会の壁などに、19世紀頃の物など美術的な日時計がたくさんあり、今も大切にされています。地元の日時計協会に案内してもらうこともできますよ」
ヨーロッパのいくつかの国には日時計協会があり、小野さんも1998(平成10)年に歴史ある英国日時計協会の会員になっている。日本日時計の会も2000(平成12)年3月に設立された。「ドイツの日時計作家から“日本には協会は無いのか”と言われたことをきっかけに、日時計作家や賛同者などが集まって立ち上げました。杉並にも私を含め3人の会員がいます」。日本日時計の会では、約35人のメンバーが学術研究の奨励、調査・記録、外国の団体との交流などを行っている。

▼関連情報
日本日時計の会(外部リンク)

太陽電波を観測する天文台にある、高さ約4mの「太陽の坐」(写真提供:小野行雄さん)

太陽電波を観測する天文台にある、高さ約4mの「太陽の坐」(写真提供:小野行雄さん)

今までにないアイデアだったという「くつろぎ日時計」(写真提供:小野行雄さん)

今までにないアイデアだったという「くつろぎ日時計」(写真提供:小野行雄さん)

2004(平成16)年、イギリスで開催された日時計協会の総会に参加。博物館の見学や日本の日時計の紹介をした(写真提供:小野行雄さん)

2004(平成16)年、イギリスで開催された日時計協会の総会に参加。博物館の見学や日本の日時計の紹介をした(写真提供:小野行雄さん)

日時計の歴史がうかがえるコレクション

日時計のコレクターでもある小野さんは、レプリカを含め400点ほど珍しい品を所有している。コレクションの一部を拝見しながら日時計の歴史を解説してもらった。
現存する最古の日時計は約3,500年前のエジプトの物といわれているそうだ。古今東西、時の管理は為政者や宗教の専権事項だった。14世紀に入り、ヨーロッパで機械式時計が発明されたが、精度の面で難があり、しばらく日時計が示す正午で狂いを修正する時代が続く。やがて、16世紀頃には民家の壁面などにも日時計が設置され、17世紀になるとコンパクトな携帯型日時計が作られるようになった。日本も江戸時代後期になると旅が盛んになり、旅先で木製や紙製の小さな携帯型日時計を利用していたという。
現代での日時計の役割について、小野さんは「原点に戻って時間というものに向き合える」と語る。「植物や動物、人間の生活は、太陽の恵みの中にある。石油や石炭にしても太陽エネルギーの蓄積。そして、太陽から時をもらっている。地球と太陽の動きを勉強しようと思うと、その中に科学や美術など、いろいろなものが混ざっているように感じられます」

エジプトの日時計を再現したもの

エジプトの日時計を再現したもの

ヨーロッパのアンティーク日時計

ヨーロッパのアンティーク日時計

木や紙でできた江戸時代の携帯型日時計。軽くて持ち運びやすい

木や紙でできた江戸時代の携帯型日時計。軽くて持ち運びやすい

江戸時代の根付。日時計、虫眼鏡、方位磁石、すりガラス付き

江戸時代の根付。日時計、虫眼鏡、方位磁石、すりガラス付き

区内で日時計を楽しむ

小野さんは、区内の学校、児童館、図書館のイベントなどで、日時計作りのワークショップや日時計コレクションの展示などを行っている。「“サンダイヤルカフェ”という名前で活動していますが、これは私の個人経営みたいな組織で、メンバーは決まっておらず、日時計の会の会員やリタイアした天文関係者などに、その都度手伝ってもらっています」。ワークショップでは、天体の仕組みや日時計の種類などを説明した後、子供たちが紙を切ったり色を塗ったりしながら実際に制作する。コレクション展示では、特に金属製のキラキラした日時計が子供たちに人気だそうだ。
区内の学校にある小野さん作の日時計は、学校開放日などに見学することが可能だ(※2)。また、小野さんの作品ではないが、善福寺川の済美橋付近や区立天沼もえぎ公園にも日時計がある。「外国の町のように、杉並の家々の壁にも日時計があるとうれしいですね。散歩のときに自分で作った日時計を持って歩くのも楽しいと思いますよ。私も頭が動く間は、いろんな日時計作りに挑戦してみたいと思っています」

取材を終えて
小野さんは自宅の地下にある作業場で、のこぎりで木を切りながら日時計を制作しているという。まさに杉並から生まれる芸術!機能美にあふれる日時計のコレクションも、イベント等でぜひ多くの方に見ていただきたいと感じた。

小野行雄 プロフィール
1946年 栃木県佐野市生まれ
1969年 日本大学生産工学部建築工学科卒業
1982年 新制作協会会員
1996年 東京造形大学教授(~2012年3月)
1998年 英国日時計協会会員
2000年 日本時計の会創立・会員
2002年 第7回国際日時計コンテスト プロ部門グランプリ受賞
日時計制作・日時計コレクション多数

※1 新制作展:例年9月に開催される新制作協会主催の公募展。絵画・彫刻・スペースデザインの3部門がある
※2 井荻中学校の日時計は学校開放日などに見学可能。杉並学院高等学校、桃井第四小学校の日時計の見学は学校に申し込みが必要。桃井第一小学校の日時計は非公開

ワークショップの説明書と完成した作品

ワークショップの説明書と完成した作品

井荻のハルズキッチンにある、小野さん作「レストランの日時計」

井荻のハルズキッチンにある、小野さん作「レストランの日時計」

小野さん作「記憶の日時計」。東日本大震災などが起こった日時が記されている(写真提供:小野行雄さん)

小野さん作「記憶の日時計」。東日本大震災などが起こった日時が記されている(写真提供:小野行雄さん)

天沼もえぎ公園は「ときのオアシス」という休憩所になっている。ここにも日時計がある

天沼もえぎ公園は「ときのオアシス」という休憩所になっている。ここにも日時計がある

DATA

  • 出典・参考文献:

    「杉並サイエンスコミュニケーション 4号」杉並区教育委員会事務局生涯学習推進課
    「GRAPHICATION 通巻301号」富士ゼロックス

  • 取材:西永福丸
  • 撮影:西永福丸
    写真提供:小野行雄さん
    取材日:2022年01月14日
  • 掲載日:2022年02月14日