豊富なメニューが自慢だが、メインは煮干しなどの魚介類のだしが効いたやや濃い醤油味のスープと豚の背脂が特徴の「背脂煮干ラーメン」。その他に「熟成中華そば」「黄金色の塩ラーメン」などがある。豚バラ肉と低温調理した肩ロース肉、これら2種類のチャーシューが、スープごとに使い分けられている。「特製」と銘打たれたラーメンには双方のチャーシューが丼を豪華に覆う。
「結局全部自分でやりたいんですよ」と語る店主の小林さんは、麺から自分で作る。外注したこともあったが納得がいかず、客席のスペースを犠牲にしてまで製麺の部屋を設け、麺の開発に挑み続けた。たどり着いたのが「平打ち手揉み(てもみ)麺」。平たく波打つ麺はスープをしっかり絡め取り、コシはしっかりしているのにツルツルした歯ごたえで軽やか。今は全てのラーメンに採用している。
小林さんがラーメンを作り始めたのは1993(平成5)年、23歳の時。大学卒業後企業に就職したが、天沼でラーメン店を営んでいた叔父が病に倒れ、その家族を助けるべく店を手伝うことになった。だが、叔父に学べたのはわずか1週間、以来独学である。引き継いだ当初、客足は遠のくばかり。叔父の味の再現に苦心し続けたが、ある日「先代の味にとらわれるのはよくない。違う味で勝負したい」と決意。独自の味を開発する上でヒントにしたのは、新潟県燕市の名物「背脂煮干ラーメン」。これをベースに工夫を重ね、2007(平成19)年上荻に新店を立ち上げ、看板メニューにした。たちまち荻窪では新鮮な味として話題を呼んだという。5年後、先代の店は閉じ、上荻店のみに注力、今も安定したにぎわいを誇る。新店開業以来15年間店主を支えているスタッフは、「居心地がいいんです。店長が優しいから」と笑う。この店の隠し味は、優しさかもしれない。