東京カートグラフィック株式会社

丸い地球を平たく広げる

「ミカンのへたを東京(日本)としましょう。ミカン裏側から順にへたに向かって皮をむくと平面状に広がりますね。地球も球体ですから、基本的にこの方法で平面に描くことができます」。代表取締役社長・西山和輔氏は、開口一番、地図投影法の一つ「正距方位図法」についてミカンを例に挙げて語ってくれた。「広げたミカンの皮の先端を結ぶと円になります。ですから、東京を中心とした各地点までの距離と方位は正確に表現されますが、面積は正しく表現できないわけです」というユニークな説明から、地図の特徴や面白さを伝えたいという熱意が感じられた。

地図の魅力を発信し続ける会社

東京カートグラフィック株式会社(以下、TCG)は、1960(昭和35)年、西山氏の父・満喜夫氏が設立した。
満喜夫氏は戦後、米国極東陸軍地図局に地図製図者として勤務した後、航空測量を行う会社の設立に参加した。その後、杉並区天沼の日大二高通り沿いにTCGを立ち上げ、建設省国土地理院の基本図作製の業務に参画するようになった。当初は社名の「グラフィック」から映像制作会社に誤解されることもあったという。
1967(昭和42)年から紙製地図に加え布製地図の製作を開始。1981(昭和56)年には「東京を中心とした正距方位図法世界地図」を発表し、1995(平成7)年に同シリーズが第1回優秀地図技術者表彰で優秀賞を受賞した。

東京を中心とした正距方位図法世界図(写真提供:東京カートグラフィック株式会社)

東京を中心とした正距方位図法世界図(写真提供:東京カートグラフィック株式会社)

『西山満喜夫追悼集』には、氏の地図に対する思いがつづられている。
「地図の目的を優先して考え構図を練るのであるが、(中略)地図に要求されるものは、その正確性だけではない」例えば「街で道を尋ねられたとき、正確な地図ではなくとも一枚の紙片にその地点の略図を描いて渡すほうが聞く人には分かりやすく、本来の地図の目的を果たしている」

正距方位図法世界地図を広げる西山満喜夫氏(写真提供:東京カートグラフィック株式会社)

正距方位図法世界地図を広げる西山満喜夫氏(写真提供:東京カートグラフィック株式会社)

「唯一無二の智図を創る会社を目指して」

満喜夫氏のおいに当たる猪原氏が二代目として代表取締役社長を引き継いだ後、2009(平成21)年に西山氏が三代目に就任した。前職までは地図にあまり関心がなかったが、入社後自社製品に込められた社員の気持ちを代弁して顧客に説明するうちに、地図の魅力が分かってきたそうだ。
TCGの経営理念には「地図」ではなく「智図」という字が使われているが、これは「ユーザーの心に何かを訴える地図を意味する」造語だ。西山氏は、地上の情報をただ羅列しただけではなく、注記文字の配置場所から、採用する情報の選別、表現方法にまで心を込めた「唯一無二の智図を創る会社」を目指しているという。

菊地事業推進本部長(写真左)と西山代表取締役社長

菊地事業推進本部長(写真左)と西山代表取締役社長

地図ってこんなに面白い

2012(平成24)年、荻窪駅北口近くに本社を移転。2022(令和4)年現在は、官公庁や企業に向けたオリジナル地図の作製のほか、地理情報システムの構築、測量・調査を行っている。また、地図をモチーフにしたグッズの企画製作、オンラインショップでの販売など、新たな取り組みにもチャレンジしている。
1980(昭和55)年ごろから毎年、特徴ある世界地図カレンダーを製作。2014年版では「宇宙から見える地球の姿」として、地球観測衛星に搭載されている光学センサが取得したデータを可視化して地図に表現。2021年版は、砂漠化の情報を加え、気候変動対策を訴えかける内容だった。
2019(平成31・令和元)年からは、「日本がわかるトランプ」をはじめ、教育向けアプリやコンテンツの開発にも着手している。
2022(令和4)年5月公開の映画『大河への道』には、TCGが手掛けた「デジタル伊能図」がふんだんに使用された。

地図がモチーフの下敷きやメモ帳

地図がモチーフの下敷きやメモ帳

「日本がわかるトランプ」。QRコードでゲームの遊び方の動画で見られる仕組みになっている

「日本がわかるトランプ」。QRコードでゲームの遊び方の動画で見られる仕組みになっている

杉並区と協力して地域情報を地図化

地元、杉並区が発行する地図の作製にも協力しており、事業推進本部長の菊地氏は「利用目的に応じて地図をデザインする調製を行っています」と話す。
「すぎなみガイドマップ」は1万2千分の1の縮尺地図で、区内の主な施設など多くの情報がすっきりと掲載されている。裏面は防災マップになっており、震災救援所や広域避難場所などが色分けされ必要な情報がすぐに読み取れる。
「すぎなみ景観ある区マップ」は、杉並区みどり公園課の依頼により調製した散策マップだ。阿佐谷・高円寺編や高井戸・浜田山編など地域別に全9編あり、エリアごとに史跡巡りができるコースが分かりやすく示されている。
西山氏は「今後も企業や自治体向けのサービスと、一般消費者向けの商品開発を両立させていきたい」と言う。

▼関連情報
杉並区>すぎなみガイドマップ(杉並区図)(外部リンク)
杉並区>すぎなみ景観ある区マップ(外部リンク)

「すぎなみ景観ある区マップ」。A3サイズの四つ折りで散策しながら利用しやすい

「すぎなみ景観ある区マップ」。A3サイズの四つ折りで散策しながら利用しやすい

従業員の資格取得を積極的に推進

「従業員の誰もが、私とは比べものにならないほど地図にかける情熱を持っていますから、アイデアがたくさん出てきます。全部をかなえることはできませんが、みんなの持っている思いやパワー、それをいかに引き出して、形にするか。それが私の役目だと思っています」とにこやかに語る西山氏。自身も測量士の資格を持っているが、社員にも測量士資格取得者が多い。2021(令和3)年には、初めて3名の防災士資格取得者も誕生した。また、宣伝広報部員には地図地理芸人として活動する小林知之氏がおり、イベントやSNSでの発信にも力を入れている。
「従業員の幸せを追求する」こともTCGの経営理念の一つだ。2021年に本格的な男性育児休暇取得が開始されたのを期に、「健康経営優良法人2021(中小規模法人部門)」に認証登録された。

▼関連情報
東京カートグラフィックTwitter(ツイッター)(外部リンク)

荻窪駅北口から徒歩約3分、天沼八幡通り入り口の交差点に面したビルに本社を構える

荻窪駅北口から徒歩約3分、天沼八幡通り入り口の交差点に面したビルに本社を構える

ソリューション型ビジネス展開に向けて

ソリューション型ビジネスとは、企業や自治体が抱える課題を解決するために特化した商品を開発・提供することで、前述の「すぎなみ景観ある区マップ」もこれに当たる。「今日、地図市場はデジタルトランスフォーメーションが加速しています。AI、ビッグデータ、画像処理等の情報技術が地図ソリューションに必要不可欠です。ますます拡大しつつある地図ソリューションの提供のため、当社が果たす役割は大きい」と西山氏は胸を張る。
伊能忠敬が歩いて測量した時代から、航空測量さらに衛星画像を元にした地図作製の時代に移り変わり、レーザー技術を応用した3次元地図の作製も可能になりつつあるという。会議室には、TCGがこれまで手掛けてきたさまざまな地図や関連グッズなどが展示されていた。地図の魅力を社員一丸となって発信する意気込みを感じながら、1時間の取材を終了した。

2019(令和元)6月に設立60周年を迎えた

2019(令和元)6月に設立60周年を迎えた

DATA

  • 住所:杉並区天沼2-4-4 荻窪SYビル
  • 電話:03-3392-6717
  • FAX:03-3392-6720
  • 公式ホームページ(外部リンク):https://www.tcgmap.jp/
  • 出典・参考文献:

    『西山満喜夫 追悼集』東京カートグラフィック株式会社

  • 取材:杉野孝文
  • 撮影:杉野孝文、TFF
    写真提供:東京カートグラフィック株式会社
    取材日:2022年05月17日
  • 掲載日:2022年07月04日