東京カートグラフィック株式会社(以下、TCG)は、1960(昭和35)年、西山氏の父・満喜夫氏が設立した。
満喜夫氏は戦後、米国極東陸軍地図局に地図製図者として勤務した後、航空測量を行う会社の設立に参加した。その後、杉並区天沼の日大二高通り沿いにTCGを立ち上げ、建設省国土地理院の基本図作製の業務に参画するようになった。当初は社名の「グラフィック」から映像制作会社に誤解されることもあったという。
1967(昭和42)年から紙製地図に加え布製地図の製作を開始。1981(昭和56)年には「東京を中心とした正距方位図法世界地図」を発表し、1995(平成7)年に同シリーズが第1回優秀地図技術者表彰で優秀賞を受賞した。
2012(平成24)年、荻窪駅北口近くに本社を移転。2022(令和4)年現在は、官公庁や企業に向けたオリジナル地図の作製のほか、地理情報システムの構築、測量・調査を行っている。また、地図をモチーフにしたグッズの企画製作、オンラインショップでの販売など、新たな取り組みにもチャレンジしている。
1980(昭和55)年ごろから毎年、特徴ある世界地図カレンダーを製作。2014年版では「宇宙から見える地球の姿」として、地球観測衛星に搭載されている光学センサが取得したデータを可視化して地図に表現。2021年版は、砂漠化の情報を加え、気候変動対策を訴えかける内容だった。
2019(平成31・令和元)年からは、「日本がわかるトランプ」をはじめ、教育向けアプリやコンテンツの開発にも着手している。
2022(令和4)年5月公開の映画『大河への道』には、TCGが手掛けた「デジタル伊能図」がふんだんに使用された。
地元、杉並区が発行する地図の作製にも協力しており、事業推進本部長の菊地氏は「利用目的に応じて地図をデザインする調製を行っています」と話す。
「すぎなみガイドマップ」は1万2千分の1の縮尺地図で、区内の主な施設など多くの情報がすっきりと掲載されている。裏面は防災マップになっており、震災救援所や広域避難場所などが色分けされ必要な情報がすぐに読み取れる。
「すぎなみ景観ある区マップ」は、杉並区みどり公園課の依頼により調製した散策マップだ。阿佐谷・高円寺編や高井戸・浜田山編など地域別に全9編あり、エリアごとに史跡巡りができるコースが分かりやすく示されている。
西山氏は「今後も企業や自治体向けのサービスと、一般消費者向けの商品開発を両立させていきたい」と言う。
「従業員の誰もが、私とは比べものにならないほど地図にかける情熱を持っていますから、アイデアがたくさん出てきます。全部をかなえることはできませんが、みんなの持っている思いやパワー、それをいかに引き出して、形にするか。それが私の役目だと思っています」とにこやかに語る西山氏。自身も測量士の資格を持っているが、社員にも測量士資格取得者が多い。2021(令和3)年には、初めて3名の防災士資格取得者も誕生した。また、宣伝広報部員には地図地理芸人として活動する小林知之氏がおり、イベントやSNSでの発信にも力を入れている。
「従業員の幸せを追求する」こともTCGの経営理念の一つだ。2021年に本格的な男性育児休暇取得が開始されたのを期に、「健康経営優良法人2021(中小規模法人部門)」に認証登録された。
ソリューション型ビジネスとは、企業や自治体が抱える課題を解決するために特化した商品を開発・提供することで、前述の「すぎなみ景観ある区マップ」もこれに当たる。「今日、地図市場はデジタルトランスフォーメーションが加速しています。AI、ビッグデータ、画像処理等の情報技術が地図ソリューションに必要不可欠です。ますます拡大しつつある地図ソリューションの提供のため、当社が果たす役割は大きい」と西山氏は胸を張る。
伊能忠敬が歩いて測量した時代から、航空測量さらに衛星画像を元にした地図作製の時代に移り変わり、レーザー技術を応用した3次元地図の作製も可能になりつつあるという。会議室には、TCGがこれまで手掛けてきたさまざまな地図や関連グッズなどが展示されていた。地図の魅力を社員一丸となって発信する意気込みを感じながら、1時間の取材を終了した。
『西山満喜夫 追悼集』東京カートグラフィック株式会社