久我山駅から徒歩約8分の場所にある就労継続支援B型施設(※)社会福祉法人 杉並希望の家(以下、希望の家)。ステープラー(ホチキス)の組み立てや贈答品のパッケージなどの軽作業、清掃作業のほか、珍しいところでは防災用品の販売も行っている。「縫製品ダイレクト印刷」も得意とし、布製品へのオリジナルプリントを1点から請け負っている。なみすけのイラストがプリントされたグッズの製作・販売元としてご存じの方もいるのではないだろうか。
一般的に知られていないことも多い社会福祉法人としての活動や、作業所の様子などを主任支援員・田村鉄也さんに伺った。
1976(昭和51)年に「杉並区肢体不自由児者・父母の会」より青年部の障害者8名が独立し、杉並区井草に「杉並区肢体不自由者共同作業所希望の家」を創設した。田村さんは「創設者の1人の車いすユーザーは“自分たちで稼いでいこう、社会に器がないなら、自分たちで作ろう”と独立を考えたと聞いています。当時として画期的なことでしたし、今も新しい考え方を持っている精力的な方です」と話す。
1987(昭和62)年に杉並区久我山に移転、2004(平成16)年に社会福祉法人となった。公式ホームページの法人概要には「障害者が社会と遊離することなく、社会から隔離されることなく共に生きていくために、それぞれの自立を目指します」と書かれており、創設者の思いを引き継いでいこうという気概が感じられる。
2020(令和2)年からの新型コロナウイルス感染拡大の中では、いろいろな試練があった。利用者には身体の弱い方もおり、安全を守ることが最優先。経営面でも課題は多かった。「取引先の業務が停止し、受注がなくなったこともありました。しかし、長年の取引で培った信頼があるので優先的に仕事を回してもらったり、こちらも急な納品に対応したりするなど、お互いに助け合えたところもあります」
利用者のモチベーションに関わるので、手隙になる状態は避けたかったという。「設備投資し、シルク印刷にも積極的に取り組みました。作業のない時間に新しい技術を身に付けてもらい、結果として今まで印刷に関わってこなかった方にも覚えてもらえたことは、利用者さんの自信につながったと感じます。これから先、コロナ以外にも試練があるかもしれません。先を見据えた支援を考えていくことで、希望の家らしい活動ができるのではないでしょうか」
作業時間は全員が集中しているが、休憩時間には穏やかな会話が交わされ、やわらかい雰囲気になるのが印象的だ。「仕事に対してモチベーションの高い人がそろっています。特に“WORK HOUSE”(ワークハウス)という清掃を請け負う部門は、希望の家の稼ぎ頭で、体力も根性もあるプロ意識が高い方が多くいます」
そうした利用者たちの取り組みを、田村さんら支援員が親身に支えている。「誰にでも得手不得手はありますが、適材適所であること、当事者の気持ちも考えながら一番活躍できる場所を考えるのが、我々支援員の仕事です。“明日も行きたい、通い続けたい”と思ってもらえる希望の家でありたいと思っています」
2020(令和2)年、杉並区下高井戸に関連施設として、知的障害者が利用する多機能型福祉施設「しもたか希望の家ibuki(いぶき)」がオープンした。グループホームを併設する生活・就労支援のための施設だが、1階にある「cafeイブキ」は一般客も利用可能だ。
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しもたか希望の家ibuki(外部リンク)
手のひらサイズだが食べ応えのある日替わりベーグルは施設内で作っており、料理や飲み物を運ぶ接客も利用者が丁寧に行っている。自家焙煎(ばいせん)のコーヒーや、地元の酒店から仕入れたこだわりの洋酒もあり、落ち着いた雰囲気の店内でゆっくりとした時間を過ごす地元客が多い。今後は施設として積極的に地域活動にも関わり、気軽に訪れてもらうためのイベントも開催予定だ。
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cafeイブキ(外部リンク)
※就労継続支援B型施設:一般的な企業等で働くことが難しい障害者に向けて、職業訓練や生産活動を支援する施設。利用者と事業所との間に雇用契約はないが、作業分に応じて工賃が支払われる