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北塩原村

裏磐梯(うらばんだい)の自然景観。1888(明治21)年に磐梯山の水蒸気爆発で起こった山なだれが川をせき止め、湖沼群が生まれた

裏磐梯(うらばんだい)の自然景観。1888(明治21)年に磐梯山の水蒸気爆発で起こった山なだれが川をせき止め、湖沼群が生まれた

裏磐梯の雄大な自然に広がる高原リゾート地

北塩原村は福島県北西部(会津地方)に位置する、人口約2,500人、面積約234㎢の山村で、東京から公共交通機関で約3時間半の距離にある。磐梯朝日国立公園の裏磐梯エリアの中心地であり、磐梯山のすそ野に展開する圧倒的な自然が魅力だ。夏は登山客、冬はスキー客が多く、桧原湖(ひばらこ)、五色沼(ごしきぬま)などを巡る自然散策、バードウォッチング、釣りなども人気がある。
村北部の桧原地区は、旧米沢街道の宿場町として15世紀末から発展し、江戸時代には秋田・庄内・米沢地方の物産を江戸へ運ぶ要所として繁栄した歴史を持つ。
現在も観光施設が充実した高原リゾート地として、年間240万人が訪れる福島県を代表する観光地である(2019(令和元)年度・北塩原村調べ)。杉並区の約6倍の面積に人口約2,500人という居住環境と、観光関連の雇用先が多いことから、自然好きで子育て環境を重視する人たちの移住先としても実績がある。

▼関連情報
福島県北塩原村(外部リンク)

五色沼エリアの探勝路から見える紅葉と磐梯山

五色沼エリアの探勝路から見える紅葉と磐梯山

赤十字碑。明治の磐梯山噴火の際に、赤十字社が初めて国内救援を行った

赤十字碑。明治の磐梯山噴火の際に、赤十字社が初めて国内救援を行った

杉並区との交流

杉並区は北塩原村と2004(平成16)年に「まるごと保養地協定」を締結した。区内在住、在勤、在学者とその同行者は、協定対象となる施設で割引サービスを受けることが可能だ。
また、2012(平成24)年に区と「災害時相互援助協定」を締結し、東日本大震災をきっかけに当初、杉並区と4つの自治体で立ち上げた「自治体スクラム支援会議」にも参加している。2022(令和4)年5月に北塩原村で開催された同会議では、杉並区と8つの交流自治体の首長が集まり、自治体の連携による関係人口の創出・拡大をテーマに「地方創生・交流自治体連携フォーラム」も合わせて行われた。

▼関連情報
杉並区>北塩原村(福島県)(外部リンク)
すぎなみ学倶楽部 文化・雑学>杉並の保養施設・宿泊施設>まるごと保養地 北塩原村
すぎなみ学倶楽部 特集>災害・防災>杉並区と交流自治体による「自治体スクラム支援」
道の駅 裏磐梯(外部リンク)

2022年に北塩原村で開催された第12回自治体スクラム支援会議(写真提供:北塩原村)

2022年に北塩原村で開催された第12回自治体スクラム支援会議(写真提供:北塩原村)

道の駅裏磐梯。「まるごと保養地協定」で土産品が5%割り引きになる

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北塩原村のSDGsワーケーション事業

北塩原村は、2020(令和2)年から「SDGsワーケーション」(※)をキーワードに、観光とビジネス滞在、自然体験、食文化、歴史文化を関連づけた新しい村づくりに取り組んでいる。
北塩原村でこの事業が始まった経緯を、北塩原村総務企画課の武藤聖文さんは「磐梯朝日国立公園指定70周年の式典が行われた2020(令和2)年、当時の環境大臣だった小泉進次郎氏が "北塩原村をワーケーションの聖地にしよう" と提唱したのです。それを受けて県知事と村長が「ワーケーション推進」で合意し、村での取り組みの機運が高まった」と語る。
同年に、村内のホテル2社が中心となって裏磐梯観光活性化協議会が設立された(2022年現在は7社が参加)。この民間団体がワーケーション事業の推進母体となっている。同協議会では、既存の環境教育の発展版としてのSDGsを採り入れ、小中学校の「学習指導要領改訂」(2020(令和2)年)に対応した教育旅行プログラムを企画した。
2021(令和3)年には、環境省「国立公園・温泉地等での滞在型ツアー・ワ―ケーション推進事業」を利用し施設の充実を進め、観光庁「ワ―ケーションを活用した観光支援事業」により、ホテルや周辺飲食店でのサービス、体験プログラムの充実を図っている。

▼関連情報
裏磐梯観光活性化協議会(外部リンク)

磐梯朝日国立公園裏磐梯ビジターセンター。国立公園満喫プロジェクトにより2023(令和5)年度から改修が始まる

磐梯朝日国立公園裏磐梯ビジターセンター。国立公園満喫プロジェクトにより2023(令和5)年度から改修が始まる

裏磐梯観光活性化協議会が提供するSDGsプログラムのパンフレット(資料提供:裏磐梯観光活性化協議会)

裏磐梯観光活性化協議会が提供するSDGsプログラムのパンフレット(資料提供:裏磐梯観光活性化協議会)

SDGsワーケーションの滞在施設と働き方・楽しみ方
裏磐梯観光活性化協議会では、加盟するホテル・キャンプ場・美術館が連携して、4種類の専門プログラムを提供している。
①アクティブリゾーツ裏磐梯・LOHAS(ロハス)コンシェルジェによる「食育環境プログラム」
②富良野自然塾裏磐梯校・インストラクターによる「環境教育プログラム」
③諸橋近代美術館・学芸員による「文化環境プログラム」
④小野川湖レイクショア野外活動センター・ディレクターによる「水教育プログラム」
プログラムの所要時間は1~2時間、費用は1人500円程度。主に学校・企業に提供しているが、一般客の利用も可能だ。
ワーケーションの代表的な滞在拠点の一つ、アクティブリゾーツ裏磐梯は、収容人数500名、宿泊設備の他に会議室やワークスペースも整備している。村の観光中心エリアにある五色沼入口バス停から徒歩数分の距離なので、五色沼散策にも、周辺の飲食・買い物にも便利な立地だ。
休暇村裏磐梯では、磐梯山と五色沼を模した「磐梯山ジオパークカレー」が名物。2022(令和4)年冬には新しいアクティビティとして「雪上走行可能なEバイク」も登場した。

▼関連情報
アクティブリゾーツ裏磐梯(外部リンク)
休暇村裏磐梯(外部リンク)
諸橋近代美術館(外部リンク)

アクティブリゾーツ裏磐梯のコワーキングスペース(利用料は宿泊客2日間1,500円、ビジター4時間2,000円)

アクティブリゾーツ裏磐梯のコワーキングスペース(利用料は宿泊客2日間1,500円、ビジター4時間2,000円)

休暇村裏磐梯のレンタル用Eバイク(利用料は宿泊客1日5,000円、ビジター1日8,000円)

休暇村裏磐梯のレンタル用Eバイク(利用料は宿泊客1日5,000円、ビジター1日8,000円)

裏磐梯の自然を感じるトレッキング体験

裏磐梯サイトステーション森の駅は、国立公園の探勝路21コースのうち、トレッキングツアーに利用される17コースの情報提供をしている村の施設だ。指定管理者であるNPO法人裏磐梯エコツーリズム協会の会長・眞野眞理子さんは、40年前に北塩原村に移住し、ペンション経営を続けながら北塩原村の自然の変化を見守り続けている。現在は、外来生物(オオハンゴンソウ、ウチダザリガニ等)の駆除活動に力を入れており、SDGsワーケーションの新たなプログラムにもなっている。
トレッキングコースの入門コースとして人気が高い「レンゲ沼中瀬沼コース」(2.7km)と「五色沼コース」(4km)を、磐梯山ジオパーク協議会認定ガイドの佐野則夫さんに案内してもらった。「約130年前にできた裏磐梯の湖沼群や森林の植生は、湿地植物から少しずつ乾燥植物へ遷移していて、今はハンノキ林が楽しめる。人間の時間軸で自然植生の変化を楽しめることが、裏磐梯の魅力の一つ」、「五色沼周辺のアカマツ林は、地元の実業家である遠藤現夢が植林事業で育てた100年生の森である」など、自然の見方をいろいろ教えてくれた。悠久の自然の営みと、人の努力の合作で作られた今の風景の意味が理解できた。

▼関連情報
裏磐梯サイトステーション森の駅(外部リンク)
NPO法人裏磐梯エコツーリズム協会(外部リンク)

ガイドツアーの起点になる裏磐梯サイトステーション森の駅

ガイドツアーの起点になる裏磐梯サイトステーション森の駅

中瀬沼トレッキングコース。日本の代表的な湿地林ハンノキ群落の中を木道で歩く。春には湿地からミズバショウが顔を出す

中瀬沼トレッキングコース。日本の代表的な湿地林ハンノキ群落の中を木道で歩く。春には湿地からミズバショウが顔を出す

北塩原村の歴史文化と「山塩ラーメン」

桧原湖は周囲37.5kmの村内最大の湖で、年間を通じてキャンパーや釣り人に人気のエリアだ。その北端に「山塩ラーメン」発祥の店「奥裏磐梯らぁめんや」がある。味の決め手である「会津山塩」は、大塩裏磐梯温泉の温泉水を煮詰めて作られる希少な塩だ。村役場の武藤さんは「もともと古民家を活用した資料館に村営食堂が併設されていたが、2008(平成20)年に経営者を公募したところ、喜多方市でラーメン店を経営していた方が採用され、フランス料理の技法を用いながら山塩を生かした“会津山塩ラーメン”が誕生しました」と話す。2019(令和元)年に山塩の新工場ができて増産が可能になったことで、村内に新たな山塩ラーメンの店も増えている。道の駅裏磐梯では、新メニュー「山塩ソフト」が誕生して話題となっている。
併設の「会津米澤街道 桧原歴史館」には、磐梯山の噴火で水没した桧原宿のジオラマ模型や、金鉱山・製塩業・木地師などの産業遺物も展示されている。今、往時の集落を見ることはできないが、2022(令和4)年の夏から、「水中考古学」という新技術を用いて湖底の桧原集落の姿を調査し、災害の記録としても役立てる調査プロジェクトが始まった。歴史好きには興味をかき立てられる動向だ。

▼関連情報
裏磐梯観光協会>会津米澤街道 桧原歴史館(外部リンク)

北塩原村の新しい食文化「山塩ラーメン」は遠方からもお客が集まる人気メニューだ

北塩原村の新しい食文化「山塩ラーメン」は遠方からもお客が集まる人気メニューだ

「会津米澤街道 桧原歴史館」の展示品の一つ、江戸時代に栄えた桧原鉱山の金鉱原石

「会津米澤街道 桧原歴史館」の展示品の一つ、江戸時代に栄えた桧原鉱山の金鉱原石

移住者から見た北塩原村の暮らし

北塩原村では若者や子育て世代の移住促進に力を入れており、首都圏の移住促進イベントでのPRや北塩原村地域おこし協力隊の採用(2022(令和4)年までに8名)、子育て支援制度などを実施している。移住者に北塩原村の魅力や暮らし方について伺った。
星崎歩美さんは、2015(平成27)年に村内のホテルへの転勤で初めて北塩原村へ来た。2年後本社へ戻ったが、その半年後に会社を退職して再び北塩原村へ戻ってきた。現在はウェブマーケティングの仕事と趣味のバードウォッチングを両立させている。北塩原村は「人間だけじゃなく生き物と共生していると気付かされる場所です。野生動物との触れ合いから環境問題に興味を持ち始めました」と意識の変化を語る。

左から北塩原村総務企画課・武藤さん、商工観光課・大島さん、移住者の友坂さん、星崎さん

左から北塩原村総務企画課・武藤さん、商工観光課・大島さん、移住者の友坂さん、星崎さん

友坂優毅さんは、2020(令和2)年7月に北塩原村地域おこし協力隊に採用されて千葉県松戸市から移住してきた。現在は村の商工観光課でSNSを通じたPR業務や、観光イベントの運営などに幅広く関わっている。「子供が生まれて、周りの大人が皆気にかけてくれて、“昔ながらの子育て環境がここ(村)にはある!”と思うようになりました。江戸時代の宿場から昭和のペンションまで、古くから往来や移住がある村なので、今も移住者がなじみやすい気質があるのではないか」と感じているという。
二人は移住者同士で絆(きずな)が深く、それぞれが思い描く将来像に向けて仕事に取り組んでいる。「若者が夢を持てるむら」は持続可能な村づくりの根本だと感じた。

北塩原村地域おこし協力隊は、区内で開催する「北塩原村観光物産展」にも協力

北塩原村地域おこし協力隊は、区内で開催する「北塩原村観光物産展」にも協力

北塩原村のこれから

裏磐梯観光活性化協議会は、2022(令和4)年度の第14回「観光庁長官表彰」を受賞した。SDGs教育旅行を推進し、宿泊利用者数が2年間で5倍増を実現、SDGsを切り口とするワーケーションも推進、という2年間の活動実績と内容が評価された。裏磐梯観光活性化協議会の小山徹さん(裏磐梯グランデコ東急ホテル支配人)は「この受賞に慢心せず、これからは北塩原村の "世界の持続可能な観光地トップ100選(Green Destinations TOP100)"入りを目指したい」と目標を語る。今後はインバウンドとノマドワーカーの誘客も積極的に行っていくそうだ。
北塩原村商工観光課の大島瑶子さんは「村の課題は滞在型観光へのシフトと、体験プログラムの質向上による高付加価値化ですが、悩みはマンパワー不足」と語る。
過疎に悩む自治体にとって、持続可能な開発(SDGs)は究極の村づくり目標と言えるだろう。取材を通じて、北塩原村が重点とする3つの方針が確認できた。①コロナ禍で落ち込んだ観光客を取り戻すため国内需要に加えてインバウンド(外国人観光客)を取り込む、②体験プログラムの充実を図って観光客の満足度を上げ滞在時間を延ばす、③都会から北塩原村へ移住して新しい仕事の担い手になる若者移住を推進する。今後、区との交流がさらに深まり、関係人口が増えることで、北塩原村がより活性化することに期待したい。

▼関連情報
裏磐梯グランデコ東急ホテル(外部リンク)

裏磐梯グランデコ東急ホテル内「富良野自然塾裏磐梯校」の体験プログラム(写真提供:裏磐梯観光活性化協議会)

裏磐梯グランデコ東急ホテル内「富良野自然塾裏磐梯校」の体験プログラム(写真提供:裏磐梯観光活性化協議会)

「地域総がかりの意識を広め、観光活性化協議会の会員を増やしていきたい」と小山さん

「地域総がかりの意識を広め、観光活性化協議会の会員を増やしていきたい」と小山さん

取材を終えて

JR磐越西線から見る会津若松や猪苗代湖などの表磐梯と、今回訪れた裏磐梯はまったく違う印象だった。裏磐梯の山は荒々しい表情をしていて、多くの湖沼群が「森と湖の別天地」を思わせた。意外にも多くのホテル・ペンション・飲食店も立地していた。これまでの観光業や移住者受け入れに満足せず、新たな挑戦に取り組む北塩原村の行政・民間企業・移住者のスクラムの進展は、きっと訪れる観光客にも元気を伝えてくれるだろう。

※SDGsワーケーション:SDGs(持続可能な開発目標)とワーケーションを組み合わせた北塩原村の政策用語。ワーケーションとは、ワーク(Work)とバケーション(Vacation)を組み合わせた造語。テレワーク等を活用し、普段の職場や自宅とは異なる場所で仕事をしつつ、自分の時間も過ごすこと。2000年代からアメリカで取り入れられ、2020(令和2)年には日本でワーケーション自治体協議会が設立され、現在200以上の自治体が参加している(2022年3月データ)
https://japan.cnet.com/article/35182487/

山塩ソフトは、やさしい塩味と濃厚なミルク味のマリアージュ

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五色沼の周りの100年生のアカマツ林と遠藤現夢の墓碑

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DATA

  • 取材:嵯峨創平
  • 撮影:西荻じゅん、嵯峨創平、TFF
    取材日:2022年10月25日、26日
  • 掲載日:2023年02月27日
  • 情報更新日:2024年08月01日