磐梯山を臨む、森と湖沼に彩られた福島県北塩原村。東京から公共交通機関で3時間半ほどで行ける高原リゾートである。
杉並区はこの村と「まるごと保養地協定」を締結している。杉並区内在住、在勤、在学者とその同行者は、協定対象となる施設(※1)で割引きなどのサービスが受けられる嬉しい内容だ。
この協定を結んだ経緯について北塩原村商工観光課に話を伺った。
「当村のホテルや民宿など幅広い施設を杉並区の方々に保養所として使ってもらいたいと、杉並区と村で協議し、2004(平成16)年に協定を結びました。これは全国でも珍しい試みです。北塩原村は湖沼が300以上もある日本の湖水地方で自然豊か。森林のマイナスイオンや四季の草花などを楽しみに、多くの区民の方に来ていただきたいと思います」
会津の三泣き(※2)という言葉があるように、人と人とに暖かな交流が生まれることも北塩原村の良さだという。村長も「観光地としてだけでなく、村全体として交流していきたい」と語る。
杉並区の約6倍の広さにして村民2,500人、自然が色濃くあふれる北塩原村を訪ねれば、心身共にリフレッシュできるに違いない。
北塩原村では、これらの宿泊施設を拠点にフィールドスポーツが楽しめる。夏はカヌーやバス釣り、冬はスノーシューやワカサギ釣りなど、季節ごとにさまざまな体験ができるのが魅力だ。中でもおすすめなのがトレッキング。色とりどりの湖沼群「五色沼(ごしきぬま)」を巡る探勝路や、レンゲツツジやニッコウキスゲ等の花々が美しい「雄国沼」周辺の探勝路など、21種類のコースがある。バリアフリー対応の道や20分ほどで回れるコースもあるので、自分に合わせて挑戦するといいだろう。
北塩原村の名産品である会津山塩は、大塩裏磐梯温泉の温泉水を煮詰めて作られる。この山塩作りは1260年頃の室町時代から村で行われていた。大塩裏磐梯温泉のミネラルを含んだ会津山塩は海塩とは全く違ったまろやかな風味を楽しめる。ただし、温泉水は海水の3分の1の塩分濃度しかなく、製造はすべて手作業で行われるため、取れる塩は貴重だ。現在は、2007(平成19)年に誕生した会津山塩企業組合だけが生産している。組合代表は「口コミで評判が広まってきました。ぜひ料理に使ってみてください」と言う。
北塩原村を訪ね、観光や買い物を楽しんだり、山塩などの名産品を使ったご当地グルメを味わったりしてみよう。
2月の裏磐梯雪まつり期間中には、氷結したレンゲ沼に3,000本のキャンドルを灯すエコナイトファンタジーが開催される。真っ白な銀世界にたくさんの明かりが輝くさまは、ここでしか見られない幻想的な光景だ。
アート好きなら、サルバドール・ダリのコレクションで有名な諸橋近代美術館を訪ねたい。ダリの作品約340点を収蔵し、絵画だけでなく大型の彫刻作品も多数展示されいる。北塩原村の自然に溶け込む瀟洒(しょうしゃ)な建物も一見の価値あり。
会津山塩などの名産品は、区役所1階コミュかるショップの交流自治体コーナーや、区内で開催される物産展でも買える。春秋の物産展のために杉並区に来る「道の駅裏磐梯」の駅長は、「毎回買いに来てくださる方と顔見知りになりました。杉並に行く楽しみの1つです」と笑顔を見せる。
村の人々と杉並区民の交流も盛んだ。杉並区で開催される「東京高円寺阿波おどり」に、村の職員と有志でつくる裏磐梯連が、観光アピールのため2009(平成21)年より毎年参加している。踊りの指導のため村を訪問する杉並区役所さざんか連の島崎和也さんは、「北塩原村の人たちはアットホーム。宿泊日の夜は一緒にバーベキューで盛り上がります。実際に来てみると北塩原村が好きになりますよ」と語る。迎えるほうの北塩原村の方々からは、「高円寺のあの大観衆の中で踊るのは緊張します。でも杉並の人たちはみんな温かい」「阿波おどり交流をきっかけに人と人との繋がりをもっと広めていきたい」との声が聞かれた。
雄大な自然と人々のやさしさに満ちあふれた北塩原村。訪ねてみれば、きっと魅了されることだろう。
※1 協定対象施設については、上記サイトの「まるごと保養地協定施設一覧」を参照
※2 会津に来たばかりのときは地元の人々の取っ付きにくさに泣き、馴染んでくるともてなしが嬉しくて泣き、去る時は別れがたくて泣く。会津(福島県)の人々の気質を表す言葉