蟹ブックス

選りすぐりの本が並ぶ静かな空間。壁の塗装は店主が手掛けた

選りすぐりの本が並ぶ静かな空間。壁の塗装は店主が手掛けた

店主の選書眼が光る本が待つ場所

蟹(かに)ブックスは、2022(令和4)年9月に高円寺に開店した書店だ。高円寺駅南口からパル商店街を4分ほど歩き左折すると、ユニークな蟹のイラストの看板が目に入る。ペパーミントグリーンの壁が目に優しい約12坪の店内には、店主の花田菜々子さんが選んだこだわりの本が並んでいる。
書棚はテーマごとに分かれているが、説明書きはない。それを考えることから本との出合いが始まり、読書好きの心をくすぐってくれる。「なぞなぞのようで楽しいでしょう」と花田さん。作品は、小説・ノンフィクション・エッセイ・評論と、ジャンルにとらわれず集められている。さまざまな視点からテーマに接することができ、読書の楽しみが広がる。特別な一冊を求めて足を運ぶ客も多いそうだ。
店内の一角にはミニギャラリースペースがあり、アート鑑賞も楽しめる。

路上に置かれた看板。ビルの2階には本と向き合える場所が待っている

路上に置かれた看板。ビルの2階には本と向き合える場所が待っている

ギャラリースペース。アートとの出合いも楽しみだ

ギャラリースペース。アートとの出合いも楽しみだ

高円寺のパワーに魅せられて

花田さんは22歳から書店に勤め、開業前までの20数年間に4社で経験を積んできた筋金入りの書店員だ。2022(令和4)年3月に勤務していた書店が閉店したことをきっかけに開業を思い立った。中央線沿線はなじみがなく、行きづらい場所だったが、活気があり個人商店の多い高円寺に引かれた。集う人々の自由な雰囲気に驚いたという。「こんな元気のある街で書店を始めたい」と店舗を探し、クラウドファンディングで開店資金の一部を調達した。開店にあたり、個性的な書店作りで注目を浴びた荻窪のTitleの店主にアドバイスを受けた。
不思議感漂う店名は、覚えやすくインパクトのある名前を考えていて、ふっと思いついたとのこと。オリジナル商品のブックカバーとトートバッグは、蟹づくし。独特な世界観のある絵柄が、アートスペースのある書店にピッタリだ。

▼関連情報
すぎなみ学倶楽部 文化・雑学>アートスポット>Title

有料(10円)の特製ブックカバー。漫画家の香山哲さんが描く「蟹の1日」

有料(10円)の特製ブックカバー。漫画家の香山哲さんが描く「蟹の1日」

書店でコミュニケーション

新聞やネットで書評を手掛け、さまざまな人に本を薦めた体験談(※1)を出版している花田さんに本を紹介してもらいたくて、来店する客もいるそうだ。「本の紹介中に、他のお客様が会話に加わり、お客様同士で本をめぐって話がはずむということもありました」
月に数回開催される、作家を招いての読書会などのイベントは、書き手と読み手が直接つながることができる場だ。書棚は移動可能で、イベント時には店内が席数24ほどの参加者が発言しやすい会場に早変わりする。2023(令和5)年6月には、芥川賞作家の川上未映子さんを招いて新刊の読書会が開催された。「来店してもらうのは難しいと思っていましたが、書店員時代に見知った間柄でもあり、引き受けてもらえました」と花田さん。書店員としての豊富な体験が生かされているようだ。

カウンター。花田さんの顧客への心配りが感じられるメッセージが置いてある

カウンター。花田さんの顧客への心配りが感じられるメッセージが置いてある

理想の書店めざして

「書店は、社会に対して違和感を持つ人の最高の居場所。居心地が良く、自分を取り戻すことができます」と、花田さんは、自分にとっての書店の存在意義を語る。蟹ブックスが、訪れる人にとってもそのような場所であってほしいという思いが伝わってくる。「ワクワクした気持ちになれる本」「自分や他者のことを深く知ることができる本」「どうしたら社会がより良くなるかゆっくり考えるための本」を中心にセレクトし、紹介してきたとのこと。ヘイト本を置かないところに、本選びの信条が感じられる。オンラインショップもあり、いつでもお薦め本をチェックできるのがうれしい。
花田さんは、地元商店とのつながりも大切にしている。小杉湯(銭湯)の「あとは寝るだけ市」(※2)に参加し、ロプノール(花屋)に展示販売のためアートスペースを提供した。今後も地域に密着した活動に参加していきたいそうだ。本と人と地域をつなぐ存在として、蟹ブックスがどのように個性を発揮していくか楽しみだ。

※1:『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』(河出書房新社)
※2 あとは寝るだけ市:2023(令和5)年2月23日に開催。内容は、マーケットの他に、体験や飲食ブースなど

子供向け書棚にも、花田さんの思いを伝える本が並ぶ

子供向け書棚にも、花田さんの思いを伝える本が並ぶ

個性的なイラストで存在感大のオリジナルトートバッグ

個性的なイラストで存在感大のオリジナルトートバッグ

DATA

  • 住所:杉並区高円寺南2-48-11 2F
  • 電話:03-5913-8947
  • 最寄駅: 高円寺(JR中央線/総武線) 
  • 営業時間:12:00-20:00
  • 休業:無し
  • 公式ホームページ(外部リンク):https://www.kanibooks.com/
  • 取材:村田理恵
  • 撮影:村田理恵
    取材日:2023年06月24日
  • 掲載日:2023年08月28日