中尾さんは高円寺で生まれ育ち、大学を卒業後、出版社に就職。編集者として忙しく過ごす傍ら、貸し農園で野菜作りを楽しんだ。「料理を作るのも、食べ歩きや飲み歩きをするのも好き。評判がいい店に行っては、味を覚えて帰りましたね」。人をもてなすことも好きで、2000(平成12)年ごろから、小料理屋を開く夢を持つようになった。
会社を退職した2020(令和2)年に転機が訪れる。地元で立ち寄った農家で、採れたてのトマトのおいしさに感動。野菜は作り手によって味が違うのでは、と思い「ふれあい農業すぎなみ 農産物直販マップ」(※1)に紹介されている全農家で野菜を購入し、その確信を得た。
「旬の野菜のうまみを地元の人にもっと伝えたい。新鮮な地元野菜を使った小料理屋を開くなら今かもしれない!」と決意。大好きな作家の向田邦子が経営していた小料理屋「ままや」(※2)を参考にし、2022(令和4)年3月3日に同じ店名で店をオープンさせた。
お薦めは、地元野菜を使った「今週のメニュー」。中尾さんが考えた、農家ごとの野菜の良さを引き出す料理が並ぶ。採れたて野菜のうまみを味わえるように、調味料は最小限使用。酒のつまみにもちょうど良い。
肉や魚料理も人気だ。「10品目の豚しゃぶサラダとご飯セット」は、杉並区健康づくり応援店のヘルシーメニューに認定されている。豚肉は、ゆでた後冷やさずにアツアツのまま野菜に乗せることで、しっとりとした食感を味わえるという。「秋鮭と野菜の包み蒸し」(860円)にはキノコも入り、包みを開けるとバターしょうゆのいい香りが漂う。
飲み物は、日本酒とワインが充実。季節ごとの日本酒が楽しめ、9月の取材時には「紀土純米吟醸ひやおろし」(グラス540円 )が並んでいた。ワインは、東京都あきる野市のワイナリー「株式会社ヴィンヤード多摩」のもの。ワイン造りを通した地域貢献活動に賛同し、応援しているのだという。
中尾さんは、店をオープンしてから、商店街活性化の一助になりたいと思ってきたと語る。「街をにぎやかにするために、富士見ヶ丘通りをパリのシャンゼリゼ通りのようにしたいですね。富士見ヶ丘には、農産物を直販する農家が集まっているので、新鮮な地元野菜が食べられるのが何よりの特長です。雨の日に野菜が売れ残らないような工夫や農家の手助けもしていきたい。神田川と遊歩道、都立高井戸公園もあって自然が豊かなので、子育てするにも良い環境だと思います」
※1 「ふれあい農業すぎなみ 農産物直販マップ」:杉並区が発行している、対面、自動販売機などで直販を行っている区内農家を掲載したマップ
※2 1978(昭和53)年に実妹・和子と赤坂に開店、1998(平成10)年に閉店