情報化・グローバル化が進み、教育を取り巻く環境の変化が著しい現代、杉並の教育はどのように変化しているのだろうか。
2012(平成24)年から10年にわたり、杉並区教育委員会は「共に学び共に支え共に創る杉並の教育」を基本目標とし、「学びのまち・杉並」を実現すべくさまざまな政策に取り組んできた。それらを土台とし、2022(令和4)年度からおおむね10年程度を期間とする「杉並区教育ビジョン2022」が策定された。
新たな教育ビジョンの特長や、杉並の最新の教育事情について、教育委員会事務局 済美(せいび)教育センター統括指導主事・保土澤尚教(ほどさわ ひさのり)さんに話を伺った。
2022(令和4)年度からは、「杉並区教育ビジョン2022 意見交換会」として、区内の小中学校でみんなの「しあわせ」について考える学習が行われている。同年度には20校で実施。「しあわせ」について議論し合い、違いを認め合い、関わり合うことの大切さを児童・生徒たちに実感してもらいたいという狙いだ。保土澤さんは「まず、皆さん一人一人が当事者として考えてほしい、というのが私たちの願いです。“自分の幸せとは?”という問いから、他の人の幸せは自分とは違うことを知り、一人だけの幸せではなく”みんなが幸せになるにはどうしたら良いか“と考えてみると、想像力が膨らみ、思考が広がりますよね」と話す。子供たちの議論は、多様性や貧困、人権問題など、SDGsにつながるテーマに発展することもあるそうだ。
▼関連情報
杉並区>杉並区教育ビジョン2022 意見交換会(外部リンク)
杉並区公式チャンネル>杉並区教育ビジョン2022 みんなのしあわせを創る杉並の教育【令和4年8月15日号】すぎなみスタイル(外部リンク)
2023(令和5)年4月に、全ての杉並区立学校への学校運営協議会(※2)設置が達成された。保護者のみならず地域の人々が、学校運営協議会の委員や学校支援本部として協力し、学校の教育活動に参画・協働することで、学校と地域の絆を深めながら子供たちの学びをサポートしている。保土澤さんは「どの学校でも、その地域の特色を生かした教育活動が行われています。例えば、阿佐谷七夕まつりでは、例年地元の区立小中学校の生徒が張りぼて作りに参加しています。地域の皆さまの多大なるご協力により、地域での触れ合いや体験が学びにつながっています」と説明する。
区では従来から教員の働き方改革として、夏季休業期間中の「学校閉庁日」の実施、平日夜間などの音声自動応答メッセージの運用、部活動支援員・区費教員などの配置を進め、教員の負担軽減を図ってきた。2023(令和5)年度からは、教員の課題に応じ、済美教育センターの職員が各校に赴く「訪問型要請研修」を開始。同年の4月から9月までの期間には、70件の申し込みがあったという。さらに研修内容を録画保存し、区内の教員がいつでも研修の情報をシェアできる仕組みを整えた。
また、区民のニーズに応え、学校への訪問指導に加え帰国児童および外国人児童を対象とした「子ども日本語教室」を週に2回行っている。指導するのは、「子ども日本語学習支援ボランティア養成講座」の修了生。個別またはグループで、習熟度に合った指導が受けられる。日本語能力を身に付けることを希望する児童・生徒は多く、講座は毎回満員だそうだ。
増え続ける不登校の課題をはじめ、済美教育センターに寄せられる教育相談はさまざまである。区内では全ての小中学校にスクールカウンセラーを配置。加えて、児童や生徒の悩みを学校全体で受け止める体制の中核を担う教員を「教育相談コーディネーター」に指名し、組織的に対応する取り組みもスタートした。2024(令和6)年には区内全校で指名予定である。
また、同年4月には、旧永福北保育園の建物に独立した相談施設として「教育相談室」も開設予定だ。保土澤さんは、「相談機関を独立させることで、相談に来る方々の心理的な安心感を促し、相談しやすい環境を整えました。学校での相談が難しい場合には、教育に関してあらゆる場面で悩みを抱える児童・生徒や保護者に利用していただきたい」と話す。
2023(令和5)年10月に、旧区立杉並第四小学校の校舎を活用した、次世代型の科学体験施設「IMAGINUS」(イマジナス)がオープンした。サイエンスショーや実験教室などを通して子供が科学に親しめるだけでなく、大人も参加可能なワークショップなども開催されている。「楽しい体験を通して科学への興味関心が深まる施設なので、ぜひ多くの方々に来館してほしいです」
子供のみならず、誰もが自分らしく生きることを大切に考えて作られた、新しい教育ビジョンについて、保土澤さんは「教育というと、つい学校教育を想像してしまいますが、“しあわせ”になりたいという思いは、誰しもが抱いていますよね。この普遍的なテーマを子供も大人も一緒に考えていく中で、今後の新たな気付きや学びにつながればうれしいです」と語った。
▼関連情報
すぎなみ学倶楽部 文化・雑学>すぎなみのさまざまな施設>IMAGINUS(イマジナス)
※1 メンチメーター:回答内容などを、リアルタイムで集計・確認できる意見集約の方法。回答数が多い単語ほど、文字が大きく表示される(「杉並区教育ビジョン2022」より引用)
※2 学校運営協議会:地域住民や保護者などが一定の権限を持って学校運営に参画し、意思決定を行う合議制の機関
※3 ICT:Information and Communication Technologyの略語。情報通信技術
「杉並区教育ビジョン2022推進計画 みんなのしあわせを創る杉並の教育」杉並区教育委員会
「杉並区教育ビジョン2022 みんなのしあわせを創る杉並の教育」杉並区教育委員会
「令和4年度 杉並区教育に関する事務の管理及び執行の状況の点検及び評価(令和3年度分)報告書」杉並区教育委員会
「令和5年度 杉並の教育」杉並区教育委員会
杉並区公式ホームページ「済美教育センター」 https://www.city.suginami.tokyo.jp/seibi/