高円寺駅南口から徒歩約4分、高円寺エトアール通り商店会の南側にあるフラワーショップ「Lopnur ロプノール」。2022(令和4)年12月に、オーナーの西夏帆さんが開店した。
置き看板がなければ通り過ぎてしまうような狭い路地にあり、入り口も目立たないが、中には外観からは想像がつかない世界が広がっている。温かみのあるテラコッタ色の壁に、エキゾチックな花々が映え、西さんのセンスが光る飾りつけが来訪者の目を引き付ける。
花瓶や籠などこだわりの感じられるアジアンテイストのインテリア雑貨も販売しており、花屋というよりフラワーアートスペースという呼び名が似つかわしい。ブーケやリースなど、予算に応じてアレンジしてもらうこともでき、プレゼントにお薦めだ。顧客は、比較的若い人が多いとのこと。取材時にも、常連客らしい若い女性の2人連れが来店した。
西さんが慶応義塾大学法学部政治学科を卒業し、損害保険会社に入社した頃は、花には特に興味はなかったとのこと。企業の倒産リスクを計算する部署に配属され、地域の町おこし企業を視察するうちに、町のプレーヤーとして活動したいという気持ちが湧いたという。そこで仕事として選んだのがフラワーショップだった。
会社を3年で退職し、フラワー産業が盛んなオーストラリアに渡り、ワーキング・ホリデー制度(※1)を利用して、花に関わる生活を始めた。1年半で帰国した後は、恵比寿のフラワーショップに4年ほど勤務し、フラワーアレンジメントや店舗の運営など花屋に関する基礎知識を学んだ。出産後に退職し、子育てと両立できる範囲で、オンラインでのアレンジメントフラワー販売を始めたが、次第に本格的に仕事に復帰したいという思いが強くなっていったそうだ。
西さんに転機をもたらしたのが、高円寺だ。当時高円寺アパートメント(※2)内にあるビアバー「アンドビール」でアルバイトをしていた西さんは、店頭に花を置いてもらったりするうちに、「周りの目を気にせずに生活している人が多いように感じる、自由な空気の町」高円寺に引かれていった。高円寺に引っ越しただけでなく、この地での開店を決意し現在の店舗に出合う。目立たない場所にあるからこそ、入ったら思いがけない場所にすることができると考えたそうだ。内装は、高円寺アパートメントの知人たちが協力してくれた。
店名は、中央アジアにかって存在した幻の湖ロプノールからとった。「花は、咲いては枯れるはかなさに、人を引き付ける魅力があります。数世紀ごとに現れては消えた湖に似通ったものを感じ、中央アジアに興味があったこともあり店名にしました」
「花は、消えてしまうものだからこそ一度きりの出合いが大切です。特別な機会に、特別な花を提供していきたい。人生の折々のイベントに寄り添い、長きに渡って顧客のニーズに応えることのできる店でありたいです」と西さんは、理想のフラワーショップ像を語る。店を飾るあでやかな花々には、こんな思いが込められている。
地域や他店とのつながりも、西さんが大切にしているものだ。高円寺にある書店「蟹ブックス」での花の販売や、撮影ができる喫茶店への撮影用の花の提供など、他業種とのコラボレーション企画も行ってきた。店舗の空きスペースは、ミニイベントスペースとして活用していきたいとのこと。どのようなコミュ二ケーションの場になるか楽しみだ。
▼関連情報
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※1 ワーキング・ホリデー制度:二国・地域間の取り決め等に基づき、青少年が休暇目的の滞在期間中に滞在資金を補うために一定の就労を認める制度
※2 高円寺アパートメント: 2017(平成29)年4月にJRの旧社宅をリノベーションしてできた、1階に店舗が入る賃貸住宅。高円寺駅と阿佐ケ谷駅の中間あたりのガード横北側にある
「『中央線4駅』おみやげカタログ」(中央線あるあるプロジェクト)