とぼけた表情の張り子の動物やだるま、土鈴やこまなど、カラフルな郷土玩具が並ぶ店内はまるでギャラリーのよう。ここは2020(令和2)年に西荻窪にオープンしたショップ兼オフィスのtorinoko store(トリノコ ストア)だ。torinokoは無印良品の「福缶」(※1)をはじめ、数多くの商品でグッドデザイン賞を受賞しているデザイン商社。企業・メーカー相手のプロダクトデザイン業務の傍で、日本各地から集めてきた郷土玩具、torinokoデザインで携わった玩具や文具、家具などを販売している。日本各地の作り手たちによるビビッドなカラーの郷土玩具は、子どもだけでなく大人のファンも多いという。正月の干支の置物など、季節やテーマに沿った商品の陳列も楽しい。
torinokoのメンバーは全員デザイナー。企業とタッグを組んで商品の開発・デザインを行っている。代表取締役の小山裕介さんは「個人的に“ローカルものづくり”と呼んでいるのですが、ここの商品の多くは、その地域ならではの地場産業から生まれてきたものです。ちょっとしたもの、肩ひじ張らずに楽しめる郷土玩具などが面白いなと思ったのが、ローカルものづくりに目を向けたきっかけでした。地域の人と技術と資源をつなぐ、というと堅苦しい感じになりますけれども、全国を回って、その土地の作り手たちと仕事をするようになりました」と語る。京都の製材所で作っているフローリング材を使った家具のシリーズも商品開発から手掛け、販売している。「フローリングを張る際に板と板を組み合わせるための凸凹加工を利用していて、組み立てやすくなっています。既に加工された素材を無駄なく利用することでSDGsにもつながるのかなと思います」。
オリジナル商品のこまなどのデザインを担当した坂上立朗さんは「いろいろな回り方のこまがあります。“ヘッドスピンこけし”は、こけしにこまの要素を加えて鑑賞するだけでなく遊ぶことができるよう、福島のこけし職人さんに作ってもらったものです」と笑顔で話す。面白い動きをするので、大人もハマる人が多いそうだ。
ビート板と同じ素材の、お風呂で浮かべて遊べる「暑い国セット」「寒い国セット」はコロナ禍で家で過ごすことが多くなった子どもたちのために作った玩具。
そのほか、点図(※2)の技法を使ったカードやポチ袋、カレンダーなども扱う。視覚障害者もそうでない人も一緒に楽しめるようにデザインされているところがポイントだ。点図の商品は西荻窪にある視覚障害者支援総合センターに併設の就労継続支援B型事業所「チャレンジ」で制作している。
店長で取締役の白鳥裕之さんは、以前杉並区に住んでいた時に西荻窪の雰囲気が気に入り、店を開くなら西荻窪がいいと思っていたという。torinoko storeはオープン当初から不定期に企画展やワークショップを行い(SNSで告知)、ものづくりの楽しさを通して地域とのつながりを大切にしてきた。
2022(令和4)年に誕生したオリジナル商品「西荻だるま」はJR中央線と総武線をイメージしたオレンジと黄色のカラーリング。プレゼントや、海外への土産にもぴったりだ。「郷土玩具は色や形を楽しむだけでなく、その土地の昔話や言い伝えとつながっていて、一つ一つに物語があるところも面白いんです。店ではそんな話もできますので、ぜひ気軽に来てみてください」と白鳥さん。雑貨店やカフェが多く、街歩きが楽しい西荻窪エリア。散歩の途中で立ち寄ってみたいスポットだ。
※1 福缶:無印良品が2012(平成24)年から例年正月に販売している各地の縁起物などを入れた缶
※2 点図:点字の技法で印刷された図のこと