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杉並で育てた藍で、生葉染めにチャレンジ

きれいな藍色に染まって大成功!(写真提供:すぎなみ戦略的アートプロジェクト)

きれいな藍色に染まって大成功!(写真提供:すぎなみ戦略的アートプロジェクト)

杉並の産業として一世を風靡(ふうび)した藍栽培

藍の葉を原料にし、糸や布を美しい青色に染め上げる藍染め(※1)。その技法と藍草は5世紀ごろ渡来人によって日本に伝えられ、奈良時代にはすでに藍染めの高度な技法があったという。江戸時代には庶民にも藍染めの着物・帯・のれん・風呂敷などが広く普及した。
『杉並区史』には、「藍の栽培は明治初年ごろより始まり、大体三〇年ほどでアニリン色素の普及に圧されて止められた」という記述がある。杉並でも一時期盛んに栽培されていたという藍はどういうものなのか。実際に藍を育てて、布を染めるところまで挑戦してみた。

日本で古くから藍染めの原料に使われてきたタデアイ

日本で古くから藍染めの原料に使われてきたタデアイ

杉並での藍の歴史

『杉並風土記』上巻に、「明治から大正初期まで、井草地区から田無方面にかけて藍葉の栽培が盛んにおこなわれ、井草の藍の作柄が、東京の藍相場を左右するといわれるほど多く生産されました」とある。
藍の需要は明治維新後、軍服の染料にするために高まった。高円寺をはじめ各村の有力者は、藍玉(※1) の集荷問屋や、木綿糸を染める「紺屋(こうや)」を競って開業したという。しかし、1905(明治38)年にドイツから化学染料が輸入されるようになると藍の価格は暴落。その後、第一次世界大戦で化学染料の輸入が途絶えて盛り返したが、まもなく国内でも化学染料を作れるようになり、杉並の藍栽培は30年ほどで廃れた。
現在、杉並の藍産業を再現してみようと、特定非営利活動法人すぎなみムーサが杉並区立郷土博物館でタデアイの栽培と藍染め体験を行っている。その苗を分けてもらい、同団体の小林さんの指導の下、栽培を開始した。

▼関連情報
特定非営利活動法人すぎなみムーサ(外部リンク)
すぎなみ学倶楽部 文化・雑学>杉並のさまざまな施設>杉並区立郷土博物館

杉並区立郷土博物館の古民家

杉並区立郷土博物館の古民家

古民家わきにある藍畑(撮影:2022年5月)

古民家わきにある藍畑(撮影:2022年5月)

栽培記録1 -苗の移植からの成長過程-

藍の色素を持つ植物は100種類以上あるが、今回育てるのは、日本で古くから藍染めに使われてきたタデ科タデアイである。栽培場所は、阿佐谷のマンションの4階ベランダだ。

■2023年5月22日 移植
3月にすぎなみムーサが種をまき、すでに10~15㎝ほどの大きさまで育ったタデアイの苗をプランターに移植する。土はホームセンターで購入した腐葉土と野菜の土を混ぜて使用。等間隔に開けた穴に、苗を3本程度の小さい束に分けて埋めていく。直後は葉がくったりしたので、たっぷり水をやった。

■5月25日 移植から3日目
毎日水やりを続けたおかげで、葉が立ち上がり、少ししっかりしてきた。

■5月31日 移植から9日目
しっかり根付いた様子で順調に茂っている。葉が青々として美しい。

■6月14日 移植から23日目
苗は30cmほどに成長し、プランターの土が見えないほど茂っている。しかし、連日の猛暑がたたり、一部黄色く変色した葉が見られる。

移植直後。くったりしている(撮影:2023年5月22日)

移植直後。くったりしている(撮影:2023年5月22日)

しゃっきり立ち上がったタデアイ(撮影:2023年5月31日)

しゃっきり立ち上がったタデアイ(撮影:2023年5月31日)

藍染めの手法と生葉染めのテスト

■6月24日 藍染めのテスト
栽培途中の6月24日、すぎなみムーサの藍畑から藍葉を分けてもらい、藍染めのテストを行った。
藍染めにはいろいろな方法があるが、検討したのは以下のとおり。
・生葉染め:生の葉をミキサーにかけて作った染液で染める
・薬品染め:刈り取った後、乾燥させた葉を煮出し、薬品を入れて染液を作る
・発酵建て:乾燥葉を発酵させて使う
今回は栽培した生葉が使えることから、生葉染めを選択した。

生葉の溶液は酸化が早いので、染色は時間との勝負

生葉の溶液は酸化が早いので、染色は時間との勝負

【染め方】
① 生葉100gに対し水60ccを加え、ミキサーにかける(布の重さの2~5倍の生葉を使用)。
② ①を不織布の袋に入れ、2Lの水の中で汁をもみだ出し、染液を作る。この2Lの染液で30cm角の布6~7枚分を染めることが可能。①②の工程は5分以内に終わらせる。
③ 染液ができ次第、柄をつけるために事前にビー玉やペットボトルキャップなどを輪ゴムで縛っておいたシルクチーフを15分ほど浸す。生葉から取ったインディカン(青く染まる成分)はたんぱく質に染まりやすいので、染める布にはシルクを使用。

【結果】
藍色というより緑色の仕上がりだった。「この時点の葉はまだ若く、十分にインディカンが生成されていないのでは」というのが小林さんの見解。ベランダで栽培しているタデアイは、藍染めに使用するまでもう1カ月ほど成長させる。

左側の白地の布は、藍葉を直接布の上に乗せて叩いて染めたもの

左側の白地の布は、藍葉を直接布の上に乗せて叩いて染めたもの

栽培記録2 -刈り取り前日まで-

■7月12日 移植から51日目
タデアイは全体的に緑からややくすんだ色になった。黄色い葉が増えたので、その分は摘み取った。試しに、緑の葉を少し取って紙の上でこすってみると、青い色に染まった。

■7月25日 移植から64日目、刈り取り前日
枯れた葉が見られたので、数日前からプランターを日陰へ移動させた。茎はかなり太くなったが、ひょろりと長く、上部にだけ葉が付いている。

枯れ葉が増えてしまい、生葉が十分取れるか心配になる(撮影:2023年7月25日)

枯れ葉が増えてしまい、生葉が十分取れるか心配になる(撮影:2023年7月25日)

杉並育ちの藍で生葉染めチャレンジ!

■7月26日 藍染め当日
栽培したタデアイを、すぎなみ戦略的アートプロジェクトが主催する「BATA ART EXHIBITION 和文化を楽しむ夏のものづくりワークショップ」に提供し、小学生や親子に生葉染めを体験してもらった。

【ワークショップの手順】
① 中性洗剤を入れた水でシルクチーフを洗い、布についたのりを取って、染液をしみこみやすくする。
② 模様を付けるため、シルクチーフを輪ゴムなどで部分的に縛る。
③ 藍の葉を摘み取る(葉の部分だけを使用する)。
④ 染液を作る(前述の【染め方】を参照)。
⑤ ④ができ次第、すぐにシルクチーフを染液に15分ほど漬ける。布は染液の中で動かし続ける。
⑥ シルクチーフを染液から取り出して絞り、輪ゴムを外して十分空気に触れさせる。⑤⑥の工程中にも空気に触れて酸化がどんどん進み、青く発色していく。
⑦ ⑥をきれいな水にくぐらせる。
⑧ 日陰で干して乾かす。

緑色の染液に浸しているうちに、シルクチーフはどんどん鮮やかな青色に変化。子供たちから「色が変わった~!」と驚きの声があがった。

▼関連情報
すぎなみ戦略的アートプロジェクト(外部リンク)

シルクチーフを染液に浸す子供たち(写真提供:すぎなみ戦略的アートプロジェクト)

シルクチーフを染液に浸す子供たち(写真提供:すぎなみ戦略的アートプロジェクト)

テスト時の緑色とは違い、鮮やかな藍色に染め上がった(写真提供:すぎなみ戦略的アートプロジェクト)

テスト時の緑色とは違い、鮮やかな藍色に染め上がった(写真提供:すぎなみ戦略的アートプロジェクト)

栽培を終えて

栽培指導の小林さんに「基本的にタデアイは雑草だから非常に丈夫」と聞いていたが、猛暑のため毎日水やりをしないとすぐに葉がしおれてしまい、水の管理が難しかった。
ワークショップの後、採種のために一部のタデアイを引き続き栽培。9月ごろに小さい花が咲き、11月に種が採れた。この種が発芽するのか、折を見て試してみたい。
今回は藍の栽培に翻弄させられただけだが、藍相場の高騰・暴落に翻弄させられたという杉並の藍問屋の心労は計り知れないと思った。

※1 藍染め:藍葉に含まれるインディカンという物質が、空気に触れてインディゴに変わることで青く染まる
※2 藍玉:乾燥させた藍草の葉に水をかけながら発酵させたものを突き固めたもの

薄紅色のダデアイの花

薄紅色のダデアイの花

DATA

  • 出典・参考文献:

    『杉並区史』 (東京都杉並区役所)
    『杉並風土記』上・中・下巻 森泰樹(杉並郷土史会)
    『つくってあそぼう26 藍染の絵本』山崎和樹編 城芽ハヤト絵(農山漁村文化協会)
    「藍の情報サイト【藍】 藍のある暮らし、はじめよう」
    http://www.japanblue-ai.jp/

  • 取材:ヤマザキサエ
  • 撮影:ヤマザキサエ
    写真提供:すぎなみ戦略的アートプロジェクト
  • 掲載日:2024年10月07日