杉並と江戸

「杉並と江戸」まんが家・よしながふみ 日本史研究者・大石学

江戸時代の研究者で時代考証家としても活躍している大石学さんと、男女が逆転した江戸時代が舞台の漫画『大奥』(※1)で注目を集めている漫画家のよしながふみさん。大石さんは15年にわたり高井戸に住み、よしながさんは杉並がふるさと。共に杉並にゆかりのあるお二人に、「大奥」の裏話や江戸時代の魅力などを語っていただいた。

映画「大奥」の出会い

(大石)最初によしながさんと会ったのは、映画「大奥~永遠~[右衛門佐・綱吉篇]」(※2)の京都の撮影所でした。

よしなが ふみ

(よしなが)お名前はNHKの大河ドラマなどで知っていたので、「ああ、大石先生だ」と思って挨拶をさせていただいたのが初めです。ぜひ漫画の時代考証をしていただきたいと、東京に帰ってから白泉社の編集者を通してお願いし、現在までお世話になっています。「時代考証学は、本当のことをドラマで再現するための学問ではない。本当のことを描くと時代劇は成り立たない。」とのお言葉に、ただの歴史の先生との違いを感じ、感銘を受けました。確かにお歯黒ひとつとっても、リアルに描いたら見た人はワッと驚いてしまいますしね。全部知った上で、ここを押さえておけば本物のように感じることができる。例えば、町中に小道具ひとつ置くだけでもその時代らしくなる。そういうことを教えるお仕事、素晴らしいと思います。

大石学

(大石)ありがとうございます。情報がありすぎるとかえって訳が分からなくなってしまうので、その中から何を引っ張り出すかが重要です。私のよしながさんの初対面の印象は、若い感じの人ということ。そして、漫画を描くことが大好きで、漫画を描いていれば幸せ、というイメージです。

(よしなが)漫画を描いていれば幸せというのは、おっしゃる通りです。私の仕事は、人前に出てするものではないので、撮影所では編集さんがずいぶん気を使ってくれました。

(大石)ところで、お仕事は夜中もなさるのですか。

(よしなが)しません、しません。徹夜も一度もしたことがなくて、眠る時間はきちんととって、昼間描くという感じです。

(大石)よく仕事がこなせますね。

(よしなが)一生仕事を続けようと思えば、無理はできないと。仕事はできる範囲で引き受け、締め切りは月に一度です。締め切りが明けたときだけは、テスト明けの学生のような解放感があります。

※1  漫画『大奥』:男性のみがかかる疫病の流行で男性が減り、男女の役割の入れ替わった江戸時代が、女性将軍に男性が仕える江戸城大奥を中心に描かれる。性別の異なる歴史上の人物が登場し、史実とフィクションが融合した物語が展開する。隔月刊誌『メロディ』(白泉社)で2004(平成16)年より連載中

※2  映画「大奥~永遠~[右衛門佐・綱吉(えもんのすけ・つなよし)篇]」:2012(平成24)年12月公開。同年10~12月放送のTBSドラマ「大奥~誕生~[有功・家光(ありこと・いえみつへん)篇]」の次世代を描く続編