今も昔も、夏にはセミがつきものだ。
ジリジリするおひさまの日差しや、じっとりするような暑さと、やかましいぐらいのセミの鳴き声が、夏が来たことを教えてくれる。
すぎなみの町並みは、この数十年でずいぶん変わった。
セミたちはどうだろう。今も昔も同じように暮らしているというわけではないようだ。
昔も虫取りはとても身近な遊びだった。
でも、虫取りアミなんて、昔は高くて買えなかった。
そもそも、セミを捕まえるのにアミなんていらなかったんだ。
みんな手づかみで捕まえたものだ。
自分で虫取りアミを作ることもあった。
日本手ぬぐいを針金にくくりつけてアミ代りにすることもあった。
とりもちを使うこともあったが、これだと捕まえた虫の羽をいためてしまうので、あまりよくない。
そこで登場するのが、クモの巣だ。針金を丸い形にして、そこにクモの巣をからめる。これなら羽を傷めずに虫の捕獲ができた。
50年前の東京には、ニイニイゼミがたくさんいたそうだ。
その次にアブラゼミ、そして貴重だったのがミンミンゼミ。
一番多く見かけていたはずのニイニイゼミは、最近はめっきりと減ってしまった。なぜだろう。ニイニイゼミは、湿地(湿った土地)や、薄暗い林の中が好きだ。東京の中に、ニイニイゼミの好きな湿地や林が少なくなってしまった、ということなのかもしれない。
ミンミンゼミは、当時の東京ではなかなか見つけられなかったそうだ。それはもう希少で、捕まえられたら大いに自慢できた。それが、いつの間にか数が増えて、今ではアブラゼミと変わらないほどよく見かけるようになった。外堀あたりでは圧倒的にミンミンゼミが多く、手づかみで取れる。
アブラゼミは、今もよく見かける。梨やりんごの果樹(果物がなる木)にくっついている。昔は杉並にも、梨畑やりんごの木がたくさんあって、アブラゼミが盛大に鳴いていたそうだ。
ここ最近、毎年和田堀公園のコブシやアキニレの木が、アブラゼミに大人気なのだそうだ。木の葉などに、ぶどうのようにワサワサと抜け殻がついていたりする。サクラの木も好きなようで、抜け殻を見つけたかったら、コブシやサクラの木を探してみるといいかもしれない。
ツクツクボウシは、夏休みの宿題を、休みが終るギリギリまでやらなかった子どもにとって恐怖のセミだった。夏休みの終わり頃、8月後半に鳴き声を聞いて、慌てて宿題をやりながら、「やってないぞ、やってないぞ」ってせかすように鳴いているように聞こえたものだ。今でも住宅地などでその声を聞くけれど、最近は少し出てくるのが早くなって、8月の初旬にはもう鳴き始めるようだ。
昔はちっとも見なかったのに、最近見かけるようになったのがクマゼミだ。クマゼミはもともと九州にいるセミで、東京でお目にかかることなんてなかった。それが今では杉並でも見られるようになった。去年は、井草八幡宮や和田堀公園で「シャーシャーシャーシャー…」と大声で鳴く声を聞いた。
なんでクマゼミが東京で見られるようになったのか。
クマゼミって、そんなに遠くまで飛んで移動できるんだろうか。
どうもそうじゃないらしい。
九州はクスノキの産地で、そのクスノキが東京に運ばれて植えられたりしている。クスノキの根元の土にクマゼミの卵がひそんでいて、そうとは知らずに根元の土ごと菰(こも)にくるまれて運ばれてきた、という説がある。
セミも、環境の変化によって暮らす場所や暮らし方を変え、そうして生き延びているのだろう。
今年もセミたちが大合唱する夏がやってくる。
姿形が見えなくても、どんなセミがそばにいるのか、その鳴き声でわかる。
「ジーィ、ジーィ」と鳴くのは、アブラゼミ。
「ミーンミンミンミー」なら、ミンミンゼミ。
「チーチッチッチッ」だったら、ニイニイゼミ。
「ツクツクホーシ」は、ツクツクボウシ。
「カナカナカナ」と夕暮れに鳴くのは、ヒグラシ。
「シャーシャーシャーシャー…」なら、西から来たクマゼミ。
鳴き声で何の種類のセミが鳴いているのかの見当がついたら、どんなときに聞いたのかを覚えておこう。木がたくさんあるところで?家ばかりがならんでいるところで?お天気は?何時頃?
そういうこと1つ1つが、セミの暮らしを知るヒントになる。
※お話しして下さったのは、「タカさん」
プロフィール…すぎなみ在住20年、三多摩育ちの三多摩っ子!もっぱら遊びは、自然、自然、自然のなか。子どもの頃は都心に出ると頭が痛くなる、軟弱?な子ども(空気が悪いのと、人に酔う?)だったとか。
大人になっても子どもの遊びをとってしまうお茶目な面も。現在は、環境学習のサポーター養成等ですぎなみのNPOで活躍中。他に多摩地域の猛禽のオオタカの観察・保護活動などにも参画中。趣味は山菜・キノコ採りをかねた山歩き。