2.杉並メダカを守り育てた須田孫七さんインタビュー

誰もが知ってるあの雑誌の執筆をしていました

須田さんは、2018(平成30)年4月10日にご逝去されました。ご冥福をお祈りいたします。

--須田さんは「日本のファーブル」と呼ばれていますが?
須田 学研の雑誌「科学」「学習」に昆虫記事をよく書いていました。学研まんが「昆虫のひみつ」はベストセラーとなり、この本を読んで昆虫学者になったという話を耳にします。現在はチャイルド本社の幼児雑誌の執筆や同社の「ファーブル昆虫記」に完結、その他イギリスの子供向け昆虫書の翻訳などをやってます。研究テーマは東京の昆虫の生息分布の移り変わりを示す「東京の昆虫相変遷史と昆虫誌編さん」です。

--須田さんのご自宅で60数年外来種と交雑することなく在来種のメダカは生き延びたのはなぜでしょうか?
須田 屋上池には250種類以上の植物があるんですよ。メダカは池と屋上の池と合わせて今は数百匹はいますよ。うちには今、カエルが十数匹棲んでいます。で、私は落ち葉を集めて腐葉土を作ってカエルのエサになるミミズやダンゴムシを発生させているんです。「エサをやる」と「ペット」になってしまいます。私はエサを作るだけで彼らが勝手にそのエサを食べています。

須田孫七さん

須田孫七さん

貴重なメダカを飼育する覚悟

須田 我が家で飼っているメダカはいまや国のものになってしまったんですよ。何せここにしかいないんですから。でも、それが新聞に載ると次の日、家にいっぱい電話がかかってくるんですよ。譲って欲しいって言う人が多くて困るんです。しかもそう言ってくる人って70代後半から80代の人が多いんです。そういう人が飼ってどうするんですか? もしその人が亡くなったら、その後家族の方がちゃんと世話するんでしょうか?
だったら譲ったって意味がない。ただ、「見たい」って方もいるだろうから環境情報館(あんさんぶる荻窪4F)に数匹水槽に飼っているので見るだけなら、そちらで十分ですね。

日本のビオトープ第1号は、区内の小学校?

--須田さんが小学校5年生の昭和17年、戦時下の空襲爆撃で善福寺川の生物が絶滅しないよう桃井第二小学校の西沢二郎先生と川の生物を校庭の池と井の頭分園の水族館に集めたそうですが。
須田 私が今このように昆虫を研究するようになったのは、やはり西沢先生の影響があると思います。とても熱心な先生でした。ノーベル物理学賞を受賞した小柴先生も言ってましたが科学者を目指す人というのは小学校時代の先生の熱意で決まる事が多いですね。

--ノーベル賞を受賞した研究者が「子供の頃は全然勉強しなかった」、「一日中、虫を眺めてました」というコメントがありますが。
須田 確かに小さい頃から自然に親しむ事が大切だと思います。でも、ただ眺めているだけじゃダメで、ある年齢になったら、きちんと受験勉強をしてもらわないと大学には入れません(笑)。最近の学生は東大に入る事が目標で勉強してる人が多いので入ってからやりたいものがわからないなんてことが結構あります。
医学部もそうですが少なくとも生命を扱う研究をしたい人は「生物」を勉強してもらわないと困ります。私は学生に子供の頃に昆虫を触った事があるか必ず質問しますよ。

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いまある杉並の「自然」は本当の意味の野生とは違います

須田 川を「昔のメダカの住む自然の姿に戻そう」という人はよくいるけど、現実には不可能です。なぜなら杉並の河川はいったん護岸工事を経て小川がなくなってしまっているからです。
メダカは田んぼや田んぼの用水路にすむので今のような河川には住めない。田んぼや用水路を失った杉並には野生のメダカはもういません。つまり杉並のメダカはその時点で断絶をしているのでもう自然に戻ることはないのです。
トンボなどの昆虫は空を飛んでやってこられるけど、魚は川がつながってなければ戻れない。それにコイや外来の魚がいる場所ではメダカは全部食い尽くされてしまう。
杉並にメダカの住む清流を戻したければ常に人間が手を加えて環境を管理しなければならない。それはもはや「自然」とは違うものです。

人間目線では、自然との共存共栄はありえない。

須田 現在の公園は人間が憩うための場所になっている。自然を取り戻したいというのなら人間だけが快適に過ごすのではなく、鳥にとっても虫にとっても快適な環境を作らないと意味がありません。
そのためには自然との対話が必要です。地球には空気と水との「おしゃべり」が必要なんです。私は生き物同士の利害関係を知りたいんですよ。そのためには、こちらからも生き物をじっと観察して彼らが何を望んでいるのかを読み取る。そうやってキャッチボールをするのです。
よく動物愛護週間なんていいますけど、あれは使い方が間違ってます。愛護とは「ペット化」することで「野生」のままは「保護」なんです。「ペット」とは餌付けなどをして人間の都合よいように飼いならすことです。「保護」とはほったらかすことです。
並木道にイチョウだけを植えたり、ヤゴばかり救出することも同じことですよ。もっと多様性のある植え方をしなければいけません。今の公園は人間が憩い、遊ぶための「人間にとって都合のいい場所」に過ぎないです。

--では雑木林は自然な状態といえるのですか?
須田 あれは江戸時代に人間によって作られた林だから自然な状態ではありません。常に人の手が加えられなければ存続できないのです。

雑木林は江戸時代に農民が薪や落ち葉をたい肥に利用するために人工的に作った森である。それは常に人が手入れし続けることでそのバランスを保つ「飼いならされた自然」である。今の私たちの生活を維持しながら人間と自然が共存するためには、もはや自然の力だけではどうすることも出来ない状態であり、自然環境を守るためには人間が飼いならした自然に対して世話をし続ける責任があるのだと須田さんはいう。

人間も自然の一員
-環境破壊、水質汚染など、これまでの経済発展を優先してきた私達は今後どんな行動をすればよいのでしょうか。
須田 最近は環境問題に興味のある子供たちが増えています。それはとてもいいことです。大体大人に教えても効果がない。こういうことはやはり子供たちに教えないと意味がないですね。
自分たちが自然の中の一員であることを自覚することですね。自然をクジラだとすると人間なんて体についたノミくらいしか構成していない。杉並でピラミッドの頂点にいるのはカラスですよ。今はタヌキかも知れないけど。タヌキもごみをあさるんです。

取材をおえて
須田さんのお話をうかがい、これからの研究の進展に期待しつつ、自然保護のために誰でもできる、またしなくてはいけないこと、無関心ではいけないことを痛感。今後の生活にできることを心がけていきたいと思う。

須田孫七さん

須田孫七さん

DATA

  • 取材:藤山三波、小泉ステファニー
  • 掲載日:2012年05月31日
  • 情報更新日:2020年12月22日