ムッシュウ・寺山修司

著:九條今日子 (ちくま文庫)

妻として、離婚後も仕事のパートナーとして寺山修司さんとともに歩んだ九條今日子さんの、寺山さんとの日々を綴ったエッセイ。松竹の女優時代、映画のシナリオを書いていた寺山さんとの出会いから、寺山さんの容態が急変、仕事先から阿佐谷の入院先に駆けつけ、看取った日までが、二人の関係を中心に述べられている。寺山修司さんは、膨大な著作、シナリオ、ことに自らの劇団、天井桟敷を率いての小劇場運動で、国内外に衝撃と感動を巻き起こした。前衛的な数々の作品の印象から不可思議な人物と思われがちだが、九條さんからみれば、タバコを吸わない、お酒が飲めない、電球の球が取り替えられない、気さくでユーモラスなひと、そんな素顔の寺山さんを知ることのできる作品だ。
おすすめポイント
寺山修司さんは、杉並とも不思議な縁があった。わずか数年間だが、永福は、一所不在といわれた寺山さんが、生涯で唯一、定住した場所だった。永福での二人の新婚生活時代、友人たちも頻繁に訪れ、将来の夢を語り合った日々、寺山さんの母親との確執についても述べられている。また、1975年、天井桟敷が杉並区内各所で繰り広げた市街劇のいきさつにも触れられており、杉並に暮らす人々に、時代を疾風のごとく駆け抜けた劇詩人の鮮烈な記憶を甦えらせてくれる作品でもある。

DATA

  • 取材:井上直
  • 掲載日:2012年12月13日

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