本館の竣工は1926(大正15)年。設計に際して、土岐氏は1927(昭和2)年発行の『建築新潮』で「事務室、病室、医務室という機能の異なるものをひとまとめにすることが厄介だった。」と明かしている。あれこれ悩んだ末、欧米の療養所の設計図を参考にして、中央に事務室や医務室を固めて置き、男女の病室を左右に並べる配置で設計された。
中央の塔がスッと伸び、鳥のように両翼を広げた形の本館は、よく見るとデザインにも工夫が凝らされている。正面玄関のある北側から見ると、搭の垂直性が強調されて堂々とした印象だが、中庭のある南側から見ると、人々に威圧感を与えないよう水平性を強調し、親しみやすい印象を受ける。
玄関扉には薔薇(ばら)の模様を、階段には唐草模様をあしらうなど、内部デザインの美しさも光る。
本館は2001(平成13)年、東京都の景観条例に基づく「東京都選定歴史的建造物」に選定された。モダンな建物はCF(コマーシャルフィルム)やドラマのロケ地としても度々使用されている。2004(平成16)年には、外壁タイル(縦にひっかき模様のあるスクラッチタイル)の補修が行われた。
本館から中庭を挟んだ南側には1927(昭和2)年竣工の礼拝堂が建っている。阿弥陀如来を祀(まつ)った祭壇がある仏教の礼拝堂でありながら、祭壇の前のカーテン(昔はシャッターだった)を閉めると、他の宗派や宗教に応じた祭壇を設けられる仕組みになっている。前出の土岐氏の寄稿文を見ると、最初は仏教・神道・キリスト教の祭壇を回り舞台のようにする構想もあったようだ。例年礼拝堂では、水曜日に法要が行われている。
礼拝堂の外観は、本館に合わせて中央に塔を配した形。建物の両側に張り出したバットレス(控え壁)や、建物内部の列柱などにキリスト教の礼拝堂の要素が見られるが、搭にはキリスト教の鐘楼ではなく、1928(昭和3)年に設置された梵鐘(ぼんしょう)がある。海外の建築デザインを日本風にアレンジしたユニークな建物だ。
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