版画界の巨匠・棟方志功(むなかたしこう)氏の自叙伝。前半は生い立ちと、上京後、版画家として名を成すまでの苦労話、芸術への思いが綴られている。後半は主に、制作活動で関わった人たちとの思い出や旅の話で構成される。
棟方氏は本の装丁から挿絵の仕事まで幅広く引き受けており、その縁もあって、本書の前書きは作家の谷崎潤一郎氏が、解説は詩人の草野心平氏が文章を寄せている。その解説で草野氏は、「彼の文章も彼以外には書けない棟方スタイルを創りあげた。」と絶賛。棟方氏は版画ばかりでなく、油絵や倭絵(やまとえ)、書も多く成しているが、この自叙伝の文章にも独自性が伺える。「世界のMUNAKATA」を知る絶好の良書である。
おすすめポイント
棟方氏は1903(明治36)年に青森県で生まれ、本書によると、戦後、疎開先の富山県から支援者たちの協力を得て荻窪駅近辺の家に引っ越してきたそうだ。支援者には、小説家の田村泰次郎氏、実業家の川勝堅一氏とともに、荻窪駅前の「いづみ工芸店」店主・山口泉氏の名前が挙がる。また、荻窪の家は、もともと西荻窪の「こけし屋」の包装紙を手がけた鈴木信太郎氏のアトリエだった。作品中には、杉並に関わる話題は少ないが、棟方氏が荻窪にまつわる人々の支援を受け、交流があったことが読み取れる。
▼関連情報
すぎなみ学倶楽部 食>スイーツ>こけし屋