荻窪駅北口から徒歩約10分、区立天沼弁天池公園の中に立つ杉並区立郷土博物館分館(以下、分館)は、大宮1丁目にある杉並区立郷土博物館の分館として2007(平成19)年にオープンした。展示が行われる西棟には各階に1つずつ展示室があり、入館料無料で気軽に杉並の文化に触れられる施設だ。ウッドデッキのある東棟の1階は休憩スペースで、各種イベントにも使われる。
分館のある区立天沼弁天池公園は、西武ゴルフ株式会社(当時)が所有していた土地を区が購入したもので、公園入り口にある正門と分館の建物は、当時使われていた建築物を改修し再活用している。
西棟では、博物館の企画展と、区内団体による「区民参加型展示」が年に数回ずつ行われている。
1階展示室
博物館との協働で、区内で活動する地域団体・NPOなどによるパネルを中心とした「区民参加型展示」が主に行われている。「区民参加型展示」は、郷土の研究や博物館活動を通して、区民に生涯学習における活躍の場を広く提供する目的で始まり、団体が日ごろからの研究の成果を発表する場になっている。地元ならではのニッチな内容が多く、杉並に長く住んでいても意外と知らない情報に触れることができる。過去には「区民参加型展示の10年」「杉並の民話を訪ねる展」「杉並に飛行機工場のあった頃」「杉並の路線バス」などがあった。
1階にはほかに、開館時間内に限り利用できる「誰でもトイレ」と、企画展の図録(※1)の一部や杉並区教育委員会発行の書籍が見られる「閲覧コーナー」がある。
2階展示室
70.06平方メートルの広さに造り付けのウォールケースがあり、博物館収蔵品を中心に内容の濃い展示が見られる。
たとえば2014(平成26)年の「1964東京オリンピックと杉並展」は、選手村所長やコンパニオンが着用したブレザー、オリンピックに合わせて作られた環状七号線の「工事中の音」を収録したソノシート(※2)など、区民から貴重な当時の思い出の品々を借り受け、持ち主のコメントをつけて展示するというユニークな企画展だった。
また、2018(平成30)年2月には、すぎなみ学倶楽部に掲載した記事が発端となって、区民ライター江渡狄嶺(えどてきれい)取材展示チームによる「江渡狄嶺展」が開催された。展示では特に狄嶺の大正時代の渡米にスポットを当て、渡航記録やパンフレット、地図などを展示して好評を得た。
企画展や「区民参加型展示」の期間中には、学芸員または展示団体による解説やギャラリートークなどが開催されることもある。展示についての補足説明や質問に答えてくれるなど、理解をさらに深められるので、気になる展示があればぜひ開催日を確認してほしい。
東棟では第1火曜日と第3土曜日の10時半より、「すぎなみ昔話紙芝居一座 すかい」による紙芝居の定期口演が行われている。杉並に伝わる昔話を中心に、他地域の民話なども取り入れて手作りの紙芝居で紹介しており、子供だけでなく大人も楽しめる。また、小学生対象の「ムシムシ探検隊」という博物館主催のイベントが年3回、春・夏・秋に開催される。公園内に生息する昆虫や植物を採集して「昆虫シート」を作成しながら学ぶという内容で、毎回定員を超える参加者がありにぎわっている。
展示の内容や解説日、イベントの詳細については、「広報すぎなみ」や郷土博物館のホームページで確認できる。
▼関連情報
博物館カレンダー(外部リンク)
学芸員の森泉海(もりいずみ かい)さんは分館の特徴について、「区民参加型展示は、本館にはない分館独自の制度です」と話す。参加団体の意図を汲(く)みつつ、展示方法や内容について学芸員としてアドバイスしたり、資料を提供したり、一緒になって作り上げているとのこと。「企画展も、専門的な内容で行われる本館の企画展とは趣が違い、幅広い層に向けたバラエティーに富んだ内容となっています。ですから学芸員としては、自分の専門ジャンルにとらわれず、広くアンテナを張る必要を感じています」
区立天沼弁天池公園に来て展示に気づいたという人もおり、利用者アンケートには「ふらりと立ち寄って見てみたら面白かった」という意見もある。そんな人たちもリピーターになっているようだ。分館へは荻窪駅北口から、天沼八幡通り商店街を抜けるルートと荻窪教会通り商店街から住宅地を経由するルートがある。買い物や散歩のついでに気軽に立ち寄ってみてはどうだろうか。
開設年:2007(平成19)年4月
設計者・設計事務所:不明
収容人員:-
駐車場:なし
駐輪場:なし(東側にある公園の駐輪場を利用)
観覧料:無料
※1 図録は受付で販売もあり(売り切れの場合は、申請して閲覧のみ可能)
※2 ソノシート:曲げられるほど薄いレコード盤のこと。日本では1960年代に普及し、雑誌の付録などに広く使われた