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和田サイクル

1970年代の和田サイクル(写真提供:和田良夫さん)

1970年代の和田サイクル(写真提供:和田良夫さん)

折り畳み自転車を豊富に取り扱う

区立桃井原っぱ公園の近くにある和田サイクルは、1917(大正6)年6月29日に創業した老舗の自転車店だ。現在は折り畳み自転車を中心に、ロードバイク、マウンテンバイク、電動アシスト自転車の販売、点検、修理、カスタムを行っている。中でも小径車の販売に力を入れており、ドイツのRiese & Müller(リーズアンドミューラー)、アメリカのDAHON(ダホン)、イギリスのBROMPTON(ブロンプトン)など、海外の折り畳み自転車の車体やオプション品などを中心に幅広く取り扱っている。修理の依頼が、多い時で10台以上もあるほど地域に密着している一方で、認知度も高く遠方から購入に来る客もいる。品ぞろえはもちろん、店主の人柄の良さも繁盛の理由といえよう。
四代目店主・和田良夫(わだ よしお)さんに、和田サイクルの歴史や特徴を伺った。

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アイデアあふれる手作り看板

アイデアあふれる手作り看板

きびきびと接客する四代目店主・和田良夫さん

きびきびと接客する四代目店主・和田良夫さん

100年以上受け継いできた自転車店

和田サイクルは第一次世界大戦のさなか、良夫さんの祖父・和田丞作(じょうさく)さんが22歳の時に創業。中島飛行機東京工場ができる8年前のことで、辺りには大根畑が広がっていた。自転車やリヤカーを取り扱う小売業として戦中・戦後を駆け抜けた丞作さんは、37歳で病死した。その後、長男の佐吉(さきち)さんが受け継いだが、1945(昭和20)年6月14日に戦死。次男の正一(まさかず)さんも私立中島飛行機東京青年学校卒業後に出征していたが、戦地から戻り、三代目となる。正一さんは中島飛行機に勤務していた経験を生かし、オートバイや軽自動車の修理も手掛けた。
1951(昭和26)年4月1日に生まれた良夫さんは、23歳から正式に店を手伝うようになった。「父は厳しく指導したことや怒ったことなどなく、常に寡黙で実直だったよ」。1997(平成9)年に正一さんが他界し、良夫さんが四代目店主となった。

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1942(昭和17)年の事業報告書には、「東京府東京市杉並区宿町174番地」という住所や事業の開始時期などが書かれている

1942(昭和17)年の事業報告書には、「東京府東京市杉並区宿町174番地」という住所や事業の開始時期などが書かれている

良夫さんの父で三代目の正一さん(写真提供:和田良夫さん)

良夫さんの父で三代目の正一さん(写真提供:和田良夫さん)

子供たちに自転車の魅力を伝えるサイクリングイベント

良夫さんは27歳の時、自転車の楽しみ方を伝えるため、店で車体を購入した子供たちに呼びかけて、日帰りで遠方まで出掛けるサイクリングイベントを始めた。保護者の評判も良く、1983(昭和58)年からは、露天風呂のある宿泊施設に1泊する「温泉サイクリング」も実施。店の前から自転車で目的地を目指し、帰りは電車で戻ってくる企画で、栃木県の奥鬼怒温泉郷、長野県の和田峠、伊豆半島1周に挑むこともあった。
当時のツーリング車は現在のロードバイクよりも車体が重く、疲労度も高かったという。チューブラーというチューブ一体型のタイヤが主流で、道中でパンクした際は良夫さんが予備のタイヤと交換し、予備がなくなると針と糸で裁縫し修理した。「子供たちは冬の雪道でも汗を流しながら一生懸命こいでいたよ。1月には”おしるこサイクリング”も開催していた。みんなで河原で作って食べたおしるこはうまかったなぁ」
サイクリングイベントは、1997(平成9)年に良夫さんが店を一人で切り盛りするようになるまで続いた。

サイクリングの合間に休憩する子供たちと良夫さん(写真提供:和田良夫さん)

サイクリングの合間に休憩する子供たちと良夫さん(写真提供:和田良夫さん)

針と糸で裁縫しながらパンクを修理する(写真提供:和田良夫さん)

針と糸で裁縫しながらパンクを修理する(写真提供:和田良夫さん)

頼まれたら断れない性分

和田サイクルは近年、身近で楽しい乗り物として海外製の折り畳み自転車の普及に努めてきた。「問屋が海外の珍しい自転車を売ってくれって持ってくるんだよ。ちょっとでも面白いなと思ったら断らずに仕入れているんだ」。コンパクトさが特徴のBROMPTONや、スポーティなBD-1など、今や海外製小径車の代表ともいえる商品も、日本に入ってきたばかりの1997(平成9)年ごろから取り扱うようになったという。
天井からつり下がるほど店内の至るところに自転車が並び、軒先にもあふれる活気ある風景を、メディアが取材に来ることも多い。こうして店の認知度が上がり、「ギアを付けて欲しい」「折り畳んだ状態でスーツケースのように転がして運べるようにしてほしい」といった、特殊な相談を持ち掛けられることも増えた。「普通はメーカーに頼むんだけど、まずは自分で考えてみるの。だって断ったら悪いもの。名古屋のフレームビルダーに頼み込んで特別に部品を製造してもらったこともあったけど、お客さんがとても喜んでくれたよ」。客の役に立ちたいという思いと、地道な活動により店の信頼度が高まり、2020(令和2)年8月には、和田サイクル技術監修の「BROMPTONメンテナンスブック」(辰巳出版)が出版された。

1997(平成9)年の店頭。屋根には2人乗り自転車が飾られている(写真提供:和田良夫さん)

1997(平成9)年の店頭。屋根には2人乗り自転車が飾られている(写真提供:和田良夫さん)

雑誌の取材を受けることも楽しみの一つ

雑誌の取材を受けることも楽しみの一つ

「地域との関わりが大切」

区内の自転車店と連携し、引き取り手のない撤去された自転車を整備してリユースする活動や、小学校を訪問して児童の自転車の無料点検も行っている良夫さん。休日には、地元町会のお囃子(はやし)に参加し、太鼓や笛を演奏している。「楽器には担当できる順番があって、まずは太鼓で次に笛。太鼓がしっかりたたけるようになって、初めて笛が吹ける。笛奏者の育成が当面の課題だよ」と、笑いながら話してくれた。
最近は、おいの和田真(まこと)さんと従業員の西久保さんが店を切り盛りしている。「腰が痛いから、若い2人に自由にやってもらっているよ」と言いつつ、客の元に駆け寄り親身に話し込む良夫さんの姿があった。

客の要望を親身に聞く良夫さん

客の要望を親身に聞く良夫さん

愛犬のサリーちゃんとサイクリング(写真提供:和田良夫さん)

愛犬のサリーちゃんとサイクリング(写真提供:和田良夫さん)

DATA

  • 住所:杉並区桃井4-1-1
  • 電話:03-3399-3741
  • 営業時間:11:00-19:00
  • 休業:火・水曜
  • 公式ホームページ(外部リンク):https://www.wadacycle.jp/
  • 取材:西荻じゅん
  • 撮影:西荻じゅん
    写真提供:和田良夫さん
    取材日:2021年11月24日
  • 掲載日:2022年03月22日