柏の宮稲荷神社(かしのみやいなりじんじゃ)は、明治時代にこの地を入手した事業家の横倉善兵衛氏が社殿を造営し奉祀(ほうし)したといわれる。社殿は邸内稲荷社(自宅内にある神社)として「柏ノ宮園」(現杉並区立柏の宮公園)の中心部にあったらしい。1942(昭和17)年の杉並区の地図に「柏ノ宮園」と書かれた区画の中心部に神社の印がみえる。『杉並風土記』によると「柏ノ宮園」は横倉氏が名付け、数寄屋を建てて文人墨客(ぶんじんぼっかく)を招き歌会・観月会などを催したほか、小学校の林間学校にも利用されたこともあったという。その後、旧日本興業銀行の所有になり、社殿は西南隅の雑木林の中に移されたとされる。そして、区立柏の宮公園の整備に伴い、現在地に移された。
現在は、下高井戸八幡神社の管理となっている。
間口約3.4m、奥行約8mの敷地内に、鳥居、神狐(しんこ)石像、手水鉢(ちょうずばち)、および本殿が整然と配置されている。神狐石像の台石には「安政四年丁己冬十一月吉旦建」と彫られているが、いわれは不明。
2022(令和4)年には、社殿の修復と鳥居の新設が執り行われた。下高井戸八幡神社の宮司・齋藤氏は「一人でもお参りする方がいれば、守っていくのが使命」と語る。社殿に供えられた神狐の人形が、いつの間にか並べ直されていることもあり、地域の参拝者にも大切にされていることがわかる。
例年2月の初午の日から1カ月間、近隣の田中稲荷神社と吉守稲荷神社と併せ、3カ所を巡る「三社詣で」を実施。この時に、柏の宮稲荷神社の御朱印を下高井戸八幡神社でいただける。
「大東京区分図三十五区之内 杉並区詳細図」(昭和17年7月再版)日本統制地図株式会社
『杉並風土記 下巻』森泰樹(杉並郷土史会)
『杉並の小祠 文化財シリーズ41』杉並区教育委員会