善福寺川を里川にカエル会

「善福寺川を里川にカエル会」の事務局の皆さん

「善福寺川を里川にカエル会」の事務局の皆さん

100年先の善福寺川をイメージして次の世代に引き継ぐ

善福寺川を里川にカエル会(通称:善福蛙)は、「東京から日本を元気にしたい!」という熱い思いを持った人々が集まり、2011(平成23)年に始動した市民団体だ。川や生き物が好きな大人と子供、河川の専門家、学校支援本部(※1)のメンバー、環境学習コーディネーター、教職員などを含む多様な人々が、ボランティアで活動している。
事務局の鈴木律子さんは「私たちは“100年かけて汚してしまった川を、100年かけてきれいにしていこう”という思いで活動しています。善福寺川沿いには都立善福寺川緑地や都立和田堀公園など緑地が多くあって、川を再生できる可能性のある環境なんです」と話す。
団体名の「里川」は里山から派生した造語とのこと。「カエル」はかけことば。カエル(変える)のは川だけでなく、人や価値観も含めてのこと。そしてカエルは両生類。川とまちを跳び回り、自然と人々の両方に働きかける、という意味も込められている。

▼関連情報
すぎなみ学倶楽部 特集>公園に行こう>都立善福寺公園
すぎなみ学倶楽部 特集>公園に行こう>都立和田堀公園

主な活動の一つ「川しらべ」。自分たちで生き物を採取し、観察する

主な活動の一つ「川しらべ」。自分たちで生き物を採取し、観察する

善福寺川の最も大きな課題である合流式下水道の仕組み(写真提供:善福寺川を里川にカエル会)

善福寺川の最も大きな課題である合流式下水道の仕組み(写真提供:善福寺川を里川にカエル会)

活動を通して地域の人々とのつながりを広げる

杉並区の登録環境団体でもある善福蛙の主な活動は四つ。「小さな自然再生」「川しらべ」「環境学習サポート」「善福寺川に関する普及啓発」である。
月1回実施している「川しらべ」では、水質・生き物調査などを行い、実際の善福寺川を参加者に体験してもらう。また、月2回の「カエル会議」のほか、これまでの活動を発表する「カエルシンポジウム」を不定期で開催している。
どの活動も、チラシや公式ホームページに記載されたメールアドレスで予約すれば誰でも参加できる。

区立井荻小学校の5年生を対象とした出張授業の様子(写真提供:善福寺川を里川にカエル会)

区立井荻小学校の5年生を対象とした出張授業の様子(写真提供:善福寺川を里川にカエル会)

川沿いを通りかかる人々に活動内容やパンフレットなどを掲示している

川沿いを通りかかる人々に活動内容やパンフレットなどを掲示している

地域のさまざまな活動にも関わっており、「善福寺川フォーラム」など地域イベントへの協力、区内の小学校の環境学習サポートや出張授業なども行っている。
2023(令和5)年からは、みどりの善福寺川を愛でる会が主催していたイベント「善福寺川発見」を引き継いだ。善福寺川を紹介するパネル展示やワークショップ、善福寺川流域の散歩などのイベントを開催し、⼈々に善福寺川の魅力や課題を伝えている。

「善福寺川発見」では、善福寺川への興味関心を深めるための展示(写真提供:善福寺川を里川にカエル会)

「善福寺川発見」では、善福寺川への興味関心を深めるための展示(写真提供:善福寺川を里川にカエル会)

グリーンインフラを実践した雨庭

善福蛙の共同代表でもある名古屋大学大学院准教授の中村晋一郎さんらは、善福蛙の活動の一環として、かわうそプロジェクトと称し善福寺川やその流域の研究を行っている。都市型水害を緩和するためのグリーンインフラ(※2)を実践した「雨庭(あめにわ)」は、2023(令和5)年にテレビの報道番組でも紹介された。同じく共同代表である上智大学准教授の渡辺剛弘さんは「“雨庭”とは、それぞれの家の庭などに小さなダムをたくさん作り、一気に雨水が流れていかないようにして川の氾濫を防ぐ試みです」と説明する。私たちが手軽にできる例として、「雨どいを切って土に雨水を浸み込ませる」「バケツに雨水をためてみる」という方法を教えてくれた。鈴木律子さんは「バケツにたまった雨の量を実際に見て川に流れ込む水の量をイメージしてほしいです。普段、川を意識して生活する人は少ないですよね。地域の川、善福寺川がどんな川なのか興味を持ってもらえたらうれしい」とほほ笑んだ。

善福寺川をモデルとしたグリーンインフラのしくみ(写真提供:善福寺川を里川にカエル会)

善福寺川をモデルとしたグリーンインフラのしくみ(写真提供:善福寺川を里川にカエル会)

実際に作られた雨庭。雨水が一気に川に流れるのを防ぐ工夫がされている(写真提供:善福寺川を里川にカエル会)

実際に作られた雨庭。雨水が一気に川に流れるのを防ぐ工夫がされている(写真提供:善福寺川を里川にカエル会)

子供たちの夢が実現した「遅野井川」

2023(令和5)年10月、善福寺公園内にある「杉並区立遅野井川親水施設」が自然共生サイト(※3)に認定された。ここは、井荻小学校の子供たちが「自由に川へ入って遊びたい」という思いを杉並区に届け、(仮称)みんなの夢水路事業として区・学校・学校支援本部・地域の人々が協力し、2018(平成30)年に完成した施設である。現在は、遅野井川かっぱの会(※4)が⽣物多様性を維持するために管理を行っており、同時に、⼦供たちがいつでも自由に遊べる施設として利用されている。
遅野井川かっぱの会に所属し、善福蛙の事務局も務める中谷理彩子さんは「善福蛙のメンバーもそれぞれの立場で実現に向けてサポートしました」と振り返る。渡辺剛弘さんは「井荻小の⼦供たちが“行動すれば社会を変えられることを知った”と言って目を輝かせた姿にシビレましたね」と開設当時の感動を語った。

善福寺公園の中央にある「遅野井川親水施設」

善福寺公園の中央にある「遅野井川親水施設」

2013(平成25)年に行ったワークショップ。子供たちの夢を元に施設の模型を制作(写真提供:善福寺川を里川にカエル会)

2013(平成25)年に行ったワークショップ。子供たちの夢を元に施設の模型を制作(写真提供:善福寺川を里川にカエル会)

「一緒に善福寺川に入りましょう」

善福蛙は、活動に参加した人々が一緒に発見や感動ができる、楽しい雰囲気づくりを大切にしている。「川しらべ」には、保護者同伴であれば3歳から参加可能で、幅広い年齢層が学び合っている。事務局の中村小百合さんは「私も始めは善福蛙の活動をネットで見つけたのがきっかけで参加しました。たくさんの人に気軽に参加してほしいです」と話す。
善福蛙が抱える課題について「市民力の限界を感じていて、行政との向き合い方など見通しが難しい場面に来ています。だからこそ善福蛙の活動に関心を持ってくれる人をもっと増やしたい」と事務局長の渡辺博重さん。屋外での活動中は積極的にあいさつして、地域の人々との会話を楽しんでいるという。読者へのメッセージをお願いすると、「一緒に川に入りましょう」と満面の笑みで答えてくれた。

水質検査キットの使い方を説明する高校生。善福蛙にとって頼もしい存在だ

水質検査キットの使い方を説明する高校生。善福蛙にとって頼もしい存在だ

カエルオリジナルTシャツ

カエルオリジナルTシャツ

※1 学校支援本部:地域と一緒に学校の教育活動などを支援するために設置された、ボランティアによるネットワーク型組織

※2 グリーンインフラ:自然が持つ多様な機能を活用して、防災や環境保全などの社会的課題の解決や持続可能な国土・地域づくりを進める取り組み

※3 自然共生サイト:「民間の取組等によって生物多様性の保全が図られている区域」を国が認定する区域のこと。認定区域は、保護地域との重複を除き、「OECM」として国際データベースに登録される

※4 遅野井川かっぱの会:(仮称)みんなの夢水路計画づくりワークショップに参加した地域住民の有志などで結成された団体。2016(平成28)年に杉並区の土木計画課と協定を結んで、遅野井川の維持管理を行っている

「子供たちの気づきやストレートな言葉が宝です」と話す、渡辺剛弘さん

「子供たちの気づきやストレートな言葉が宝です」と話す、渡辺剛弘さん

DATA

  • 公式ホームページ(外部リンク):https://zempukukaeru.wixsite.com/zempukukaeru
  • 出典・参考文献:

    『善福寺公園内「みんなの夢水路」事業における市民組織と計画実現プロセスの研究』滝沢恭平・中村晋一郎・島谷幸宏
    『用水と廃水2013 55巻5号』産業用水調査会
    西荻案内所>遅野井川親水施設 開園【西荻案内所日誌180721】 https://nishiogi.in/180721osonoi/
    環境省 https://www.env.go.jp/
    日本自然保護協会 https://www.nacsj.or.jp/

  • 取材:加藤智子
  • 撮影:加藤智子
    写真提供:善福寺川を里川にカエル会
    取材日:2023年09月19日
  • 掲載日:2023年11月20日