音楽評論家・大田黒元雄(おおたぐろ もとお)が、1915(大正4)年から17年にかけて大森山王(現大田区山王)の自邸で12回ほど催した「ピアノの夕べ」。そこで演奏された曲目を中心に、大田黒ゆかりの曲を青柳いづみこさんと高橋悠治さんが演奏し、収録したCD。
収録に使用したピアノは「ピアノの夕べ」で使われた1900年製のスタインウェイ。現在このピアノは大田黒公園記念館(杉並区荻窪)にあり、演奏もここで行われた。ピアノは経年による劣化が激しかったが、2008(平成20)年に青柳さんを中心に「大田黒公園のピアノを守る会」が始めた修復運動により、2010(平成22)年にかつての音がよみがえったという。柔らかく響く音色に耳を傾けたい。
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ピアニストで文筆家の青柳いづみこさんは、阿佐ヶ谷会(※)のメンバーだった青柳瑞穂さんの孫。「フランス文学者の祖父は大田黒と親交があり、彼から譲られたとおぼしきドビュッシーの楽譜をたくさん所有していた」。青柳さんは2000(平成12)年の区民を対象としたコンサートで大田黒のスタインウェイが使われたことを知り、実際に弾いてみたいと思ったそうだ。
本作では、青柳さんの演奏で第1回「ピアノの夕べ」で演奏されたドビュッシー作曲《子供の領分》より「小さな羊飼い」や、大田黒が愛奏したスクリャービン作曲《24の前奏曲》など、8曲が収められている。
高橋悠治さんは作曲家・ピアニストとして活躍しており、かつて区が主催する大田黒のピアノによる演奏会に青柳さんが出演を依頼したことがあった。高橋さんの演奏は2曲が収められ、プロコフィエフ《束の間の幻影》はプロコフィエフが来日の際に自演した作品、山田耕作《若いパンとニンフ》は「ピアノの夕べ」でも弾かれている曲である。
また、青柳さんと高橋さんの連弾によるラヴェル作曲《マ・メール・ロワ》は、昔、大田黒邸を訪れたプロコフィエフがこのピアノで演奏したことがあるという。童話が題材なだけに、優しい音色のピアノにふさわしい曲である。
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※ 阿佐ヶ谷会:中央線沿線の作家たちの親睦会。主なメンバーは、井伏鱒二、青柳瑞穂、太宰治、木山捷平、外村繁、小田嶽夫、河盛好蔵など