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佐藤睦美さん

阿佐谷に魅了され続けている

阿佐谷を楽しく盛り上げる団体「ケヤキッスアサガヤ」の代表者・佐藤睦美(さとう むつみ)さん。2006(平成18)年の設立以来、街の清掃や、落語会、商店街でのイベント開催などの活動をしており、佐藤さんのフォトグラファーとしての手腕も生かされている。
阿佐谷在住45年(取材時)、時代とともに移り行く街を見てきた佐藤さんに、阿佐谷との出合いから「ケヤキッスアサガヤ」の活動内容、写真のこと、今後の夢までじっくり語っていただいた。

▼関連情報
ケヤキッスアサガヤ(外部リンク)

佐藤睦美さん。大好きな阿佐谷北の中杉通りにて

佐藤睦美さん。大好きな阿佐谷北の中杉通りにて

「北口が大好きなんです」

佐藤さんと阿佐谷との最初の接点は大学時代。「阿佐谷に住む友人のところに度々遊びに行くことがありました。当時はフォークソングが盛んで、その中央線沿線の独特な雰囲気が好きだったんです」と振り返る。
1975(昭和50)年、結婚を機に阿佐谷に移り住んだ。「まだ中杉通り(※1)の北側が開通していなかったのですが、北口に徐々にすてきなお店ができてきた頃です。“第二の表参道”と言われていました」。自身も1980(昭和55)年から2011(平成23)年まで北口で「リサイクルショップNINJIN」を経営し、阿佐谷とのつながりがより深くなった。その経験から来店客とコミュニケーションを取れる、地域に根付いた個店は大切だと思っている。「店主との会話で人生が変わるお客さまもいるかもしれないから」という言葉に、強く熱い思いが感じられた。

▼関連情報
すぎなみ学倶楽部 食>喫茶店>カフェ・ド・ヴァリエテ

「クリエイティブな人に出会えることや、街のための活動を実現できることが、阿佐谷の魅力です」(撮影場所:カフェ・ド・ヴァリエテ)

「クリエイティブな人に出会えることや、街のための活動を実現できることが、阿佐谷の魅力です」(撮影場所:カフェ・ド・ヴァリエテ)

たちまちとりこになった落語

阿佐谷は北口よりも南口に人が集まりやすいと感じた佐藤さん。「北口をもっと活気づけたい」という思いから、2006(平成18)年7月7日に「ケヤキッスアサガヤ」を設立した。現在、会員は8名。中杉通りの清掃やフリーペーパー「ケヤキッス通信」の発行、写真コンテスト、商店会ツアー、写真展の開催など、活動は多岐にわたる。
発足当初から続けている落語会もその一つ。もともとは2003(平成15)年から南阿佐谷すずらん商店街振興組合で開かれており、そこで立川流の落語を鑑賞してとりこになってしまったという。その落語会が終わると知った時、このまま終わらせてはもったいないと引き継いだ。落語会のチケットを持っていくと、中杉通り北口の協力店で割り引きになる特典を付け、街のリピーターを増やす工夫もしている。「落語会で頬を緩めて帰るお客さまたちに、北口でまた笑顔になってほしい」
落語の世界では真打(※2)になるためには大変な努力を重ね、師匠に認められなければならない。現在は真打に昇進した5人の落語家たちも、落語会に出演し始めた頃は前座だった。阿佐谷の落語ファンは、家族のようなまなざしで落語家たちの成長を見守っているという。「阿佐谷で育っていく、その手助けが出来たらいいなと思っているんです」と佐藤さんもうれしそうに語る。

2019(令和元)年11月25日に「阿佐ヶ谷で育って みんな大きくなった 志らく一門会 特別編」を開催。満員御礼となった(写真提供:ケヤキッスアサガヤ)

2019(令和元)年11月25日に「阿佐ヶ谷で育って みんな大きくなった 志らく一門会 特別編」を開催。満員御礼となった(写真提供:ケヤキッスアサガヤ)

「阿佐ヶ谷で育って みんな大きくなった 志らく一門会 特別編」の様子(写真提供:佐藤睦美さん)

「阿佐ヶ谷で育って みんな大きくなった 志らく一門会 特別編」の様子(写真提供:佐藤睦美さん)

ファインダーを通して表現したいこと

写真を始めたのは2011(平成23)年のこと。3月に東日本大震災が起こり、ご主人が福島出身ということもあって心がとても重く、家にひきこもるようになった。「買い物にさえ出るのが難しかったのに、カメラを持つと不思議と外へ出られたんです。写真を撮ることに夢中になれたのでしょうね」。以来、阿佐谷の街を撮るようになり、カメラの面白さにのめり込んでいった。「街は時代とともに変わっていくものだし、生きている。それが写真に出るから街を撮るのが大好きです」
「ケヤキッスアサガヤ」でも写真関連のイベントをいろいろ行っている。2014(平成26)年、「ジャズと笑顔とケヤキ並木―阿佐谷ジャズストリート写真展」を阿佐谷ジャズストリート実行委員会と共催。2015(平成27)年、商店主たちの笑顔を撮った「笑顔・エガオ・え~かお展/JAZZで輝く笑顔と街と商店街写真展」を、まちなかアート協力店の3店舗で開催。2016(平成28)年には松山通り商店街を中心に撮ったフォトアルバム『笑顔エガオえ~かお』を制作した。「店主さんの笑顔が、お客さまの“また行こう”という思いにつながるんですね。その笑顔を写真で表現したかった」。実際に商店主に会いに行く「商店会ツアー」も2016(平成28)、2017(平成29)年に行い、好評だった。
2017(平成29)年、写真集『阿佐ヶ谷ラプソディ』を出版。佐藤さんが大学生だった1970年ごろの阿佐谷の面影を童話のように表現した作品になっている。「かつてのお屋敷は、土地が切り売りされて今はほとんど姿を消しました。昔お屋敷に住んでいた人たちの思いが愛すべき魔物となって今も棲(す)みついている、そんなお話です」

左:商店街フォトアルバム『笑顔エガオえ~かお』、右:写真集『阿佐ヶ谷ラプソディ』(写真提供:佐藤睦美さん)

左:商店街フォトアルバム『笑顔エガオえ~かお』、右:写真集『阿佐ヶ谷ラプソディ』(写真提供:佐藤睦美さん)

商店会ツアーで店主を撮った写真パネルを贈呈する佐藤さん(写真提供:佐藤睦美さん)

商店会ツアーで店主を撮った写真パネルを贈呈する佐藤さん(写真提供:佐藤睦美さん)

写真集『阿佐ヶ谷ラプソディ』より(写真提供:佐藤睦美さん)

写真集『阿佐ヶ谷ラプソディ』より(写真提供:佐藤睦美さん)

街中(まちなか)アート構想

「ケヤキッスアサガヤ」が新たに実施予定のイベントに「あさがや古道アート市場」がある。アーティストとギャラリーをつなげる場を作ろう、アートを楽しめる街にしようという思いから企画した。大きな美術館はいらない、街中にアートを飾るのが夢と語る佐藤さん。「地域病院の中がミュージアムになればいいと思うんです。患者さんが作品を見て和み、彫刻のある庭で子供たちが遊べるでしょ。商店街や学校にアートが飾られれば、誰もが見に来られるんですよ」。アート市場はその足掛かりにしたいと考えている。2020(令和2)年5月に開催する予定で準備を進めていたが、新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため中止。今は開催できる日を心待ちにしている。もちろん、その時は作家としても参加をしたいと語ってくれた。
佐藤さんは仕掛け人、表現者として、これからも阿佐谷に魅力を吹き込んでくれることだろう。

取材を終えて
あふれる思いをたくさん話していただき、取材だということを忘れるほど引き込まれた。活動の原動力を尋ねると「笑顔。みんなが喜んでニコニコしてくれること」と顔をほころばせながら答えてくれた。みんなの笑顔が佐藤さんの笑顔に、そして周りの笑顔へつながっていると感じた。

佐藤睦美 プロフィール
1952年1月10日横浜市生まれ。東京造形大学絵画科卒。1975年に阿佐谷に移り住む。2006年7月7日に「ケヤキッスアサガヤ」を発足し、代表を務めている。写真集に『阿佐ヶ谷ラプソディ』がある。

※1 中杉通り: 阿佐ケ谷駅を中心にして南北に走る道路。1952(昭和27)年に南側(青梅街道まで)が開通し、1981(昭和56)年に北側(早稲田通りまで)が開通した
※2 真打(しんうち):落語家の位。下から順に前座・二ツ目・真打の3つに分かれている

▼関連情報(佐藤さんが撮影した記事)
すぎなみ学倶楽部 産業・商業>老舗企業・老舗商店>カナモノワタナベ

お屋敷の残る阿佐谷北の一角。この場所で「あさがや古道アート市場」開催を予定していた

お屋敷の残る阿佐谷北の一角。この場所で「あさがや古道アート市場」開催を予定していた

DATA

  • 取材:茉莉衣、山ざきともこ(区民ライター講座実習記事)
  • 撮影:茉莉衣、山ざきともこ
    写真提供:佐藤睦美さん、ケヤキッスアサガヤ
    取材日:2020年12月16日
  • 掲載日:2021年04月05日