日本フィルハーモニー交響楽団

コロナ禍での活動再開後、初の定期演奏会(写真提供:日本フィルハーモニー交響楽団 ©山口敦)

コロナ禍での活動再開後、初の定期演奏会(写真提供:日本フィルハーモニー交響楽団 ©山口敦)

区民が身近に音楽に触れられる機会を提供

荻窪の杉並公会堂を拠点に活動しているオーケストラ、日本フィルハーモニー交響楽団(以下、日本フィル)。杉並区と友好提携を結んでおり、杉並公会堂でのコンサートのほか、区役所ロビーコンサート、音楽鑑賞教室、公開リハーサルなどを開催している。区民にとって質の高い音楽に触れられる機会であることはもちろん、「楽団員にとってもお客さまの反応をダイレクトに感じることができる貴重な経験になっています」と事務次長の別府氏は話す。
大きなスポンサーを持たない日本フィルの主たる財源は演奏収入である。「コロナ禍で最も苦しいときには、区民の方々をはじめ、杉並公会堂や区役所の方々に温かく支えていただきました。財政難による楽団存続の危機にも多くの寄付をいただき感謝しています」

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2019(令和元)年9月、区役所ロビーコンサート(写真提供:日本フィルハーモニー交響楽団)

2019(令和元)年9月、区役所ロビーコンサート(写真提供:日本フィルハーモニー交響楽団)

音楽を通して文化を発信し続ける楽団

日本フィルは1956(昭和31)年6月に創立。楽団創設の中心となった渡邉曉雄氏が初代常任指揮者を務め、1990(平成2)年に亡くなるまで長きにわたり活躍した。フィンランド人を母にもつ渡邉氏は北欧に深い造詣があり、シベリウス作品の演奏に画期的な業績を残したほか、ドイツ・オーストリア系音楽の枠にとらわれない幅広いレパートリーで当時の音楽界に新風を巻き起こした。
現在は、杉並をはじめ、東京、埼玉、神奈川など首都圏を中心に、例年150回ほど演奏会を行っている。この「オーケストラ・コンサート」と合わせ、子供たちと音楽との出会いを広げる「エデュケーション・プログラム」、地域と共に公演を作り上げる「リージョナル・アクティビティ(地域活動)」という三つの柱で活動を行い、音楽を通して文化を発信している。
また、被災地での活動にも力を入れる。2011(平成23)年4月、聴衆からの基金をもとに福島県二本松市の避難所に音楽を届けたことを機に、東北地方でコンサートやワークショップを現在までに300回以上開催。「日本全国が活動地域である日本フィルにとって、音楽が必要とされる場所ならどこにでも行くという思いがあります。来てほしいという要望に応え、現地の方々と協力して音楽を届けています」

渡邉曉雄氏とオーケストラ(写真提供:日本フィルハーモニー交響楽団)

渡邉曉雄氏とオーケストラ(写真提供:日本フィルハーモニー交響楽団)

日比谷公会堂でのコンサート(写真提供:日本フィルハーモニー交響楽団)

日比谷公会堂でのコンサート(写真提供:日本フィルハーモニー交響楽団)

杉並公会堂で磨かれる音楽

区とは地域音楽振興を目的として、1994(平成6)年に友好提携を結んだ。広報部の槌谷氏は「それまでは決まった練習場を持っておりませんでした。杉並公会堂は音響が良いと評判で、レコーディングなどでも使用していたため、日本フィルから掛け合い、杉並で文化を高めるということに共感いただき、提携という流れになったそうです。その後、事務所も梅里に移転しました」と話す。区は練習会場の確保のほか、ふるさと納税での被災地コンサート活動の支援などで日本フィルをバックアップしている。
拠点である杉並公会堂について、別府氏は「日々研鑽(けんさん)を積みながら音色をつくる場所です。日本フィルの音楽は、まさに杉並区でつくられています」と語る。「日本フィル杉並公会堂シリーズ」は、フルオーケストラによる迫力ある演奏が楽しめると人気だ。このほか、友好提携に基づく活動には、区立小中学生を対象とした「出張音楽教室」、区役所などで行う「ロビーコンサート」、指揮者とオーケストラの音楽づくりを間近に体験できる「公開リハーサル」などがある。

あらゆる人々へ向けた企画
幅広い年代の人々に音楽への興味や理解を深めてもらおうと、さまざまな企画も実施している。「春休みオーケストラ探検」では、楽器体験、リレー・コンサート、バックステージツアーなどを行っており、これまでに多くの子供たちが楽しんだ。「多文化共生型音楽ワークショップ」では、区内の小・中学生とネパール人学校の生徒が共同で「お茶」にまつわるオリジナルの音楽を作り、また別の会では高校の吹奏楽部と中国・韓国の留学生が各国の文化を取り込んだ音楽を作り、演奏した。
年配者向けには、楽団員が講師となりバイオリンやチェロなどを指導する「60歳からの楽器教室」を開催している。75歳以上を対象にした杉並区敬老会のコンサートでは、クラシックだけでなく映画音楽や、聴衆も一緒に参加できる「ふるさと」などの合唱曲を演奏して、気軽に楽しめる内容が好評だという。

2011(平成23)年、東日本大震災で被害にあった気仙沼を訪問(写真提供:日本フィルハーモニー交響楽団)

2011(平成23)年、東日本大震災で被害にあった気仙沼を訪問(写真提供:日本フィルハーモニー交響楽団)

2019(平成31)年、イベントでの指揮者体験(写真提供:日本フィルハーモニー交響楽団 ©山口敦)

2019(平成31)年、イベントでの指揮者体験(写真提供:日本フィルハーモニー交響楽団 ©山口敦)

「市民とともに歩むオーケストラ」として

区以外では、1975(昭和50)年から続けている九州公演がある。地元市民の自主的な参加による実行委員会と一体となって運営しており「演奏家も地域に音楽を届けていることを実感できている」という。
日本フィルを愛する人々で構成される「日本フィルハーモニー協会」も、1973(昭和48)年の創立以来、音楽を楽しむ取り組みを一緒に行っている。「大きな後ろ盾がない反面、サポートしてくれる方々がたくさんいることは非常に心強いです」と槌谷氏。日本フィルが「市民とともに歩むオーケストラ」であることの象徴といえよう。協会員による日本フィルハーモニー協会合唱団も、年末の第九公演などの合唱活動で日本フィルと共演している。

▼関連情報
日本フィルハーモニー協会合唱団(外部リンク)

2020(令和2)年2月、九州での演奏(写真提供:日本フィルハーモニー交響楽団 ©山口敦)

2020(令和2)年2月、九州での演奏(写真提供:日本フィルハーモニー交響楽団 ©山口敦)

2011(平成23)年12月、日本フィルハーモニー協会合唱団の第九公演(写真提供:日本フィルハーモニー交響楽団)

2011(平成23)年12月、日本フィルハーモニー協会合唱団の第九公演(写真提供:日本フィルハーモニー交響楽団)

コロナ禍で生じた変化と新たな挑戦

生のコンサートは楽団と聴衆の双方にとって互いにコミュニケーションがとれる重要な機会であるが、新型コロナウイルスの感染拡大により2020(令和2)年2月末から6月までは完全に活動停止し、2020年度は計70公演が中止となった。だが、以前からテレビマンユニオンと提携し、公演の様子を高画質の映像でアーカイブする取り組みを行っていたので、国内オーケストラの中でも早くからコロナ禍でのライブ配信を始められたそうだ。ライブ配信は、遠隔地にも即時に演奏を届けることができるメリットもある。10分程度の演奏会の映像を無料公開している「クラシックちょい聴き」は、インターネット回線があれば利用することが可能で、お試しとして手軽に演奏会の映像を視聴できる。
対面でのコンサートは、感染状況に合わせ都度対応を変えている。「大声を出さないクラシックコンサートへの直接的な入場制限は出されなくなりました。海外のアーティストの来日が難しくなっていますが、徐々に緩和傾向にあります。舞台上では引き続き一定の距離を保った配置にしており、また楽屋の人数制限も設けています」と槌谷氏。2022(令和4)年3月現在、まだ大人数を必要とする楽曲は演奏できていないという。別府氏は「かつてコンサートへ足を運んでくれた方々に、再び戻って来ていただくことは容易ではありませんが、今後も対策に万全を期して活動を続けます。多くの方々に生のコンサートの重要性を伝えていきたい」と話す。
目下の課題は、若い世代にいかにして心に響く音楽を届けるかだという。「25歳以下の方にはユースチケットで割安に公演を聴ける機会を提供しており、また演出などを工夫した公演も用意し、若い世代にも日本フィルの魅力を伝えていきたいと思います」

▼関連情報
テレビマンユニオン Member's TVU CHANNEL(外部リンク)
 ※サイト内で「JPO」で検索
クラシックちょい聴き(外部リンク)

感染症対策を講じた上で開催したコロナ禍でのコンサート(写真提供:日本フィルハーモニー交響楽団 ©山口敦)

感染症対策を講じた上で開催したコロナ禍でのコンサート(写真提供:日本フィルハーモニー交響楽団 ©山口敦)

客席から送られた応援メッセージ(写真提供:日本フィルハーモニー交響楽団 ©山口敦)

客席から送られた応援メッセージ(写真提供:日本フィルハーモニー交響楽団 ©山口敦)

DATA

  • 住所:杉並区梅里1-6-1
  • 電話:03-5378-6311
  • 公式ホームページ(外部リンク):https://www.japanphil.or.jp/
  • 出典・参考文献:

    『日本フィル物語』日本フィルハーモニー協会(音楽之友社)

  • 取材:矢野ふじね
  • 撮影:写真提供:日本フィルハーモニー交響楽団
    取材日:2022年02月10日
  • 掲載日:2022年03月28日