東吾妻町

箱島湧水(はこしまゆうすい)。樹齢約400年の大杉の根元からの湧水は日量3万t

箱島湧水(はこしまゆうすい)。樹齢約400年の大杉の根元からの湧水は日量3万t

豊かな自然に恵まれた、歴史と文化を今に伝える町

群馬県東吾妻町(ひがしあがつままち)は、県北西部に位置する人口約12,000人の町である(2024年7月1日現在)。東京からの所要時間は、車で約2時間半、電車で約2時間50分。町のシンボルである岩櫃山(いわびつやま)や、国指定名勝・吾妻峡、豊富な湧水を誇る箱島湧水など、景観に優れた見どころが多い。
「豊かな自然と歴史ロマンが薫るまち」として観光に力を入れており、春は「東吾妻町すいせん祭り」、夏は「原町祇園祭(はらまちぎおんまつり)」やホタル観賞、秋は吾妻峡の紅葉と、季節ごとのイベントや風景を楽しみに観光客が訪れる。また、国指定史跡の岩櫃城跡や、江戸時代の石像が安置された仙人窟(せんにんくつ)など、歴史を今に伝える史跡も残る。

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勇壮な岩櫃山は東吾妻町のシンボル(写真提供:東吾妻町)

勇壮な岩櫃山は東吾妻町のシンボル(写真提供:東吾妻町)

渓谷の美しい眺めを楽しめる、国指定名勝・吾妻峡

渓谷の美しい眺めを楽しめる、国指定名勝・吾妻峡

杉並区との交流

東吾妻町(旧吾妻町)と杉並区は、区の民営化宿泊施設「コニファーいわびつ(旧自然村)」の建設構想が具現化する中、1989(平成元)年8月6日に友好自治体協定を締結した。1995(平成7)年には防災相互援助協定を締結。現在も、小学校5、6年生を中心とした「杉並区・東吾妻町子ども交流会」の実施や、イベント「すぎなみフェスタ」への出店、物産展「吾妻の朝市」の開催などを通して交流を続けている。東吾妻町役場・企画課の腰塚さんは「朝市にはなるべく生産者にも参加してもらい、消費者と直接の交流を図っていきたい」と話す。地域を越えたつながりを作り出すため、企画課・まちづくり推進課・農林課など複数の部署が連携して取り組んでいるそうだ。

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すぎなみ学倶楽部 文化・雑学>杉並のイベント>阿佐谷七夕まつり

例年6月から翌2月にかけて、月に1回、杉並区役所前で「吾妻の朝市」を開催

例年6月から翌2月にかけて、月に1回、杉並区役所前で「吾妻の朝市」を開催

阿佐谷七夕まつりに交流自治体として参加。2024(令和6)年には、はりぼても制作した

阿佐谷七夕まつりに交流自治体として参加。2024(令和6)年には、はりぼても制作した

東吾妻町の見どころと特産品

「なんといっても豊かな自然が自慢」と語るのは東吾妻町観光協会の一倉さんだ。春の水仙や秋の紅葉を楽しんでもらうため、4月と10月には地元民によるガイドツアーを行っており、ハイキング客などに好評だという。
日本三大美人の湯といわれる川中温泉をはじめ、個性豊かな「いで湯(※)」がたくさんあることも町の魅力の一つ。岩櫃山中腹にあるリゾートホテル「コニファーいわびつ」は、吾妻峡温泉を使用した露天風呂、大浴場、レストランなどの設備が充実しており、ファミリー層を中心に人気だ。区民(区内に住所を有する方)は基本料金から1人2,000円の割り引き(65歳以上の高齢者と障害者は3,000円)で利用できる。
また、東吾妻町産の特別栽培ブランド米「さくや姫」は、 米・食味分析鑑定コンクール国際大会で4年連続「特別優秀賞」を受賞しており、確かなおいしさが評判だ。

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東吾妻町観光協会(外部リンク)
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水仙の名所・岩井親水公園を案内する、東吾妻町マスコット「水仙ちゃん」(写真提供:東吾妻町)

水仙の名所・岩井親水公園を案内する、東吾妻町マスコット「水仙ちゃん」(写真提供:東吾妻町)

「コニファーいわびつ」。広い敷地に、露天風呂のある本館やログハウスが立つ

「コニファーいわびつ」。広い敷地に、露天風呂のある本館やログハウスが立つ

廃線を走る自転車型トロッコ「アガッタン」

2014(平成26)年に旧JR吾妻線が一部廃線となり、2020(令和2)年から吾妻峡レールバイク「アガッタン」の運行が始まった。廃線後の鉄道を活用しながら美しい景色を楽しめるアクティビティとして、岐阜県のレールマウンテンバイク「ガッタンゴー!!」を参考に開設したそうだ。「アガッタン」という名前は、地名の「あがつま」と線路を走るガッタンゴットンという音が由来である。
吾妻峡の渓谷沿い全長2.4㎞のコースには、かつて鉄道トンネルとして日本最短だった7.2mの樽沢(たるさわ)トンネルのほか、踏み切りや石積みの橋脚などがあり、風景の美しさだけでなく、列車の運転士になった気分も楽しめる。1日の運行数は通常9便、夏は10便、冬は6便程度。電車の線路として利用されていた時代から悪天候には細心の注意を払っていただけに、天候条件によっては安全のため運行中止になることもある。
出発地点は、雁ケ沢駅(がんがさわえき)と吾妻峡八ッ場駅から選べる。「終着点として、最新式の八ッ場ダムを目指して走る雁ケ沢駅発がおすすめです」と地域プロジェクトマネージャーの小川さんが教えてくれた。空席がある場合は当日受付も可能だが、5月や夏休みなど混み合うシーズンや休日は事前に予約したほうがいいだろう。

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吾妻峡レールバイク アガッタン(外部リンク)

トロッコは電動アシスト付きなので、脚力に自信のない人も十分楽しめる(写真提供:吾妻峡レールバイク アガッタン)

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アガッタンを先導する地元スタッフをデザインしたポスター

アガッタンを先導する地元スタッフをデザインしたポスター

2024(令和6)年にリニューアル!道の駅あがつま峡

道の駅あがつま峡は東吾妻町の西側に位置し、吾妻峡の玄関口にある。直売所や食事処のほか、温泉、足湯、ドックランなどを完備。食事処には、ご当地バーガーのデビルズタンバーガーや、名水「箱島湧水」で育ったニジマスを使ったニジマス丼、ブランド豚「やまと豚」のしょうが焼きなど、特産品を利用したオリジナルメニューが並ぶ。
そして、「2024年の夏以降、ここは大きく変わります」と、同年4月から駅長を務める湯本さんは言う。主にエンターテインメント業界で活動してきた湯本さんは、草津温泉に向かう外国人旅行者などもターゲットにし、忍者隊によるおもてなしサービスの準備を進めているそうだ。名物のデビルズタンバーガーも、「まだ試作中なのですが、見た目を変えないまま内容のリニューアルを検討しています」とのこと。これまでの施設やサービスに新たなアイデアが加わることで、インバウンドやリピーターの興味も引きそうだ。

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デビルズタンバーガー。やまと豚にコンニャクを混ぜたメンチをサンド

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刺身こんにゃく、ブランド米「さくや姫」などの特産品や、旬の野菜・果物が並ぶ直売所

刺身こんにゃく、ブランド米「さくや姫」などの特産品や、旬の野菜・果物が並ぶ直売所

体験型ミュージアム「にんぱく」

東吾妻町は歴史ファンにとっても魅力的な地だ。「真田十勇士」のモデルとなった忍者「吾妻真田忍者」の足跡が今も残る場所として町おこしがスタート。2016(平成28)年にNHK大河ドラマ「真田丸」の放映が始まったことも追い風となり、2021(令和3)年、群馬原町駅前に、岩櫃真田 忍者ミュージアム「にんぱく」がオープンした。手裏剣など忍者の道具や武器など300点以上を展示しているほか、レーザートラップ「NARUKO」、体験VRアトラクション「VS真田幸村」などのゲームに挑戦できる。
「にんぱく」代表の齋藤さんは「町の観光の柱として育てていきたい」と話す。「海外旅行者も少しずつ増えているので、今後は海外からのニーズを意識して、道の駅あがつま峡とのコラボレーション企画なども実施していく予定です」と、意気込みを語ってくれた。

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岩櫃真田 忍者ミュージアム「にんぱく」(外部リンク)

東吾妻町役場に飾られている真田氏三代の甲冑(かっちゅう)

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家族連れなどに人気の「にんぱく」。入場料550円でさまざまな体験が楽しめる

家族連れなどに人気の「にんぱく」。入場料550円でさまざまな体験が楽しめる

箱島湧水の水を生かす「あづま養魚場」

箱島不動尊のお堂の脇に樹齢400年といわれる大杉がそびえ立ち、その根元から毎日約3万tの水が湧き出ている箱島湧水。日本名水百選の一つで、6月中旬〜7月下旬にかけては、夜空を舞うホタルが見られる。
箱島湧水のふもとにある「あづま養魚場」は、この名水を利用して群馬県の最高級ニジマス・ギンヒカリなどを養殖している。釣り堀もあり、釣ったマスやヤマメなどを料理してもらい、食べることも可能だ。
現代表取締役・池田さんの祖父の時代に、近くに水産試験場ができたことから養魚をスタート。当時は同業が30軒ほどあったそうだ。二代目の父の代に、顧客の要望に応える形で釣り堀・食堂・宴会場などを始め、時代を生き残ってきた。
2022(令和4)年に三代目となった池田さんは、「高齢化による担い手不足が大きな課題。若い世代が楽しく幸せに働ける環境づくりを心がけています」と話す。土地の利である水の価値を生かす経営で、利益率を意識して効率よく収益を上げる、そのためには「養魚にこだわらず、何でも挑戦します」と笑顔を見せた。

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あづま養魚場(外部リンク)

「あづま養魚場」の釣り堀では、杉並の児童が体験交流で魚のつかみ取りを楽しんだこともある

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「日本酒や米作りへの水の活用も考えていきたい」と語る池田さん

「日本酒や米作りへの水の活用も考えていきたい」と語る池田さん

移住者と移住コーディネーターが語る東吾妻町

東吾妻町は、東京圏からの移住者を支援している。杉並区から移住した小川さんと、移住コーディネーターの富澤さんに話を伺った。
阿佐谷の商店街で生まれ育った小川さんが、東吾妻町に移住した最初の感想は「人とのつながりが密であること」だ。公私にわたり、想像以上に多くの人との交流があるという。「主体的に生きている人が多くて、この分野ならあの人に聞いてみよう、とすぐに顔が思い浮かびます。逆をいえば自分もそう思ってもらえるように、自分の個性を出していかないと、とも思います」。地域プロジェクトマネージャーとして活躍する小川さんも、各所から寄せられる声に応えながら、町の一員として充実した生活を送っている様子が感じられた。「東吾妻町は四季折々の自然が本当にすばらしい。ただ予想外に冷え込むといったこともあるので、移住を考えている人はぜひ現地に来て、見て、自分の感覚で感じてほしい」と熱意を込めて語ってくれた。

「アガッタン」事業を中⼼に活躍する小川さん。八ッ場ダムにて

「アガッタン」事業を中⼼に活躍する小川さん。八ッ場ダムにて

紅葉シーズンの吾妻峡

紅葉シーズンの吾妻峡

2023(令和5)年から移住コーディネーターを務める富澤さんは、東吾妻町の魅力を感じてリターン就職をした一人だ。就職で一度は地元を離れたものの、家族と共に戻り、緑に囲まれた環境や人とのつながりの温かさなど、あらためて東吾妻町の良さを実感しているという。
移住の相談は随時受け付けており、アドバイスとして「移住はあくまで手段であり、その先にどんな生き方をしたいかが重要だと思います。目的を決めてから情報収集をしてみてほしい」と話す。今後は町の酪農家と協力してチーズを開発するなど、新たな町のブランドづくりにもチャレンジしていきたいそうだ。

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「一度離れたからこそ見えてきた、この町の魅力を発信していきたい」と富澤さん(写真右)

「一度離れたからこそ見えてきた、この町の魅力を発信していきたい」と富澤さん(写真右)

取材を終えて

2018(平成30)年の取材時から変化が多く、発見の連続となった。特に30~40代の方々が、インバウンドを意識しつつ、新しい取り組みに挑戦する姿が印象に残った。吾妻峡は紅葉の名所だが、緑豊かな初夏も水際の涼しさと相まって絶景。また、前回の取材時は工事中だった八ッ場ダムが稼働しており、力強い放流を見ることもできた。
明るく居心地の良さを感じた町役場は温泉施設の改築とのことで、既存の施設を上手に活用した成果なのだなと思った。

※いで湯:自然の地熱で熱せられた25度以上の湯

かつては国道だった吾妻峡沿いの単車線。「この狭い道をキャベツを積んだトラックが通ったそうです」と小川さんに案内していただいた

かつては国道だった吾妻峡沿いの単車線。「この狭い道をキャベツを積んだトラックが通ったそうです」と小川さんに案内していただいた

DATA

  • 取材:ぬかざわともこ、矢野ふじね
  • 撮影:ぬかざわともこ、矢野ふじね、syaeidou、TFF
    写真提供:東吾妻町、吾妻峡レールバイク アガッタン
    取材日:2024年06月27日、07月01日、08月07日
  • 掲載日:2024年09月09日