西荻窪の魅力がぎゅっと詰まったイラストエッセイ。
西荻窪は、個性的な店舗が軒を連ね、画一性とは無縁な街として注目度がアップしている。著者のイラストレター兼絵本作家の目黒雅也さんにとって、誕生の地であり、人世の長い期間を過ごした故郷でもある。本書で目黒さんは、昔ながらの景観が残り、個人商店が健在で、地味だけれど人の顔が見える街の魅力を、幼少期の思い出にまでさかのぼり語り尽くしている。
ほぼ全ページに挿入されたイラストは、西荻窪の目利きの著者ならではの視点で描かれた西荻窪だ。ほのぼの感が漂う絵柄から西荻窪愛が伝わってくる。
中央線あるあるプロジェクトの西荻窪キャッチコピー「しまった。この街、沼だった。」を実感させてくれる作品で、読後には、西荻窪未体験者も西荻窪駅に下車したくなること請け合いだ。
▼関連情報
すぎなみ学倶楽部 まち別ダイジェスト>西荻窪
すぎなみ学倶楽部 文化・雑学>杉並のキャラクター>西荻窪のピンクの象
中央線あるあるプロジェクト>「杉並4駅・街の魅⼒キャッチコピー」(外部リンク)
西荻窪といえば平成後期くらいまでは「吉祥寺と荻窪の間の駅だよ」と説明しなければ伝わらないマイナーな駅だった。それが時を経て今、テレビや雑誌にもしょっちゅう特集される、行列店もめずらしくない人気の街だ。「やっと時代が西荻に追いついてきたか」と思っている。
大規模な都市開発を免れ、毛細血管のように商店街が発展し、異常なほどたくさんの個人飲食店が軒を連ねる。そんな西荻を守り続ける要因は、もちろん都心からの距離と大通りが少ないという地理的なものにあるが、得体の知れない「磁場」も感じざるを得ない。
幼い頃からこの街に住む私は、西荻無名時代からさまざまな作家たちが交わりながら独特な文化圏が醸造されていくのを肌で感じていた。サブカルチャー、スピリチュアル、文芸、演劇、音楽、アート。今では西荻最大の書店「今野書店」を中心に東京から日本全土へとその魅力が伝わって、いや、バレてしまったのかもしれない。
記憶の中に残る風景、舌が覚えている閉店した食堂の味、交流のあった人々そして意外な著名人の存在。時に過去に立ち返りながらの目黒さんの西荻窪語りが、この作品を普通の街歩きガイドとは一味違うものにしている。
全編にちりばめられたイラストには、独特の雰囲気があり読者を引き付ける。洋食店「欧風料理 華(はな)」の迎春おせちや、カフェ「西荻3時」のパフェを分解図的に描き、中身すべてに説明書きを付けるなど、好きなものに対するこだわりに驚かされる。イラストから、実際の様子を想像するのも本書の楽しみの一つだ。