上井草駅から徒歩約2分、区立上井草スポーツセンターの北側に、早稲田大学ラグビー蹴球部(しゅうきゅうぶ)(以下、早大ラグビー部)が使用する上井草グラウンドが広がっている。「ここのような天然芝のグラウンドは他大学のラグビー部にはありません。使いやすく、けがもしにくく、本当に良い環境で練習ができます」と、相良南海夫(さがらなみお)監督は言う。
早大ラグビー部が、西東京市東伏見からグラウンドを上井草に移したのは、2002(平成14)年。東伏見グラウンドの一部が河川工事で使えなくなったため、当時の部長だった佐藤英善さんらが移転先を探したそうだ。『早稲田ラグビー史の研究-全記録の復元と考察』には、上井草グラウンドを視察した時の様子が、「一目ぼれをしたときのように電気が走るのを感じた。寮も移転できるし、グラウンドが一面半芝にでき、体育館も使用できる、こんな願ってもない条件をそなえていた」と書かれている。
早大ラグビー部は、全国大学ラグビーフットボール選手権大会(以下、大学選手権)で優勝15回という最多記録を誇る。そのうちの5回は上井草移転後の勝利である。
施設には、天然芝グラウンドのほか、人工芝サブグラウンド、スクラム練習場、トレーニングルームがあり、毎週火~日曜日に練習が行われている。ラグビー好きの地域の人たちがフェンス越しに練習を見に来ることもあり、励みになっているそうだ。
グラウンドのそばには、約40人の強化指定選手が暮らす寮も完備。2019(令和元)年度の主将、齋藤直人さんも入寮しており、毎朝5時半に起きてウエイトトレーニングをし、寮生全員で朝食を取る生活をしている。「寮の部屋は学年に関係なく同室で、コミュニケーションをとることに役立っています。チームにも上下関係が無く、練習がきつくても誰かが盛り上げようとし、試合中は下級生を含む全員が積極的に声を出しています」と齋藤さん。相良監督も選手の主体性を重視しており、「自分がどうなりたいのか、どうしたら強くなれるのか、自主自立の精神で行動、実践して欲しい。主役は選手たちです」と語る。
2008(平成20)年度以来、大学選手権の優勝からは遠ざかっているが、再び日本一に輝き「荒ぶる(※1)」を歌えるよう、約130人の部員が上井草グラウンドで日々、汗を流している。
早大ラグビー部は毎年7月に、上井草グラウンドで地域の人々との交流イベント「北風祭」を開催している。一緒にラグビー体験をしたり、地元商店街の出店があったり、子供から大人まで楽しめる恒例の行事だ。
また、部員たちは昼食や夕食に、上井草駅近くにある「レストランAOYAGI」など地元の店をよく利用しているという。上井草商店街も早大ラグビー部を応援しており、大学選手権で日本一になった年には祝賀会や優勝パレードを開催し、勝利を祝っている。相良監督は「商店街の方から、そろそろパレードをしたいと励ましをいただいています。地元の期待に応えるためにも努力したい」と笑顔で語ってくれた。
※2020年2月17日加筆
2020(令和2)年1月11日に行われた第56回全国大学ラグビーフットボール選手権大会で、早稲田大学が宿敵・明治大学を下し、11年ぶりに学生日本一に輝いた。上井草商店街振興組合理事の宮崎さんは、「2002(平成14)年に早大ラグビー部が上井草に来て以来、優勝した年には地元でパレードと報告会を開催してきました。今回も決勝戦が終わった日から、5つの町会と3つの商店街(※2)と連絡を取り合い、イベントの準備を始めました」とうれしそうに話してくれた。
1月25日(土)11時、多くのファンや地元の人々が集まる中、上井草駅前から上井草グラウンドまで優勝パレードが行われた。応援部やマーチングバンド、チアに続き、相良監督とトロフィーを持った選手たちが笑顔で登場すると、沿道からは「おめでとう」の声と共にたくさんの拍手が送られた。
パレード終了後は、上井草グラウンドで優勝報告会とファンとの交流会が開かれた。サンウルブズ(※3)での試合のため欠席した齋藤主将に代わり壇上に立った幸重(ゆきしげ)副主将は、「国立競技場に試合に行く前に、商店街の人たちが見送ってくれたことが力になりました。多くの人たちに支えられてここまで来られたのだと実感しています」と挨拶。グラウンドに集まった全員で校歌と応援歌、優勝時だけ歌える「荒ぶる」を歌い、選手もファンも地元実行委員も、次の勝利に向けて気持ちを高め合っていた。
※1 荒ぶる:早大ラグビー部の第二部歌。大学選手権に優勝した時にだけ歌える特別な歌
※2 上井草自治会、三谷町会、今川町親和会、矢頭睦会、四宮親交会、上井草商店街振興組合、下石神井商店街振興組合、今川商栄会
※3 サンウルブズ:世界最高峰のラグビーリーグ「スーパーラグビー」に参加している日本チーム
『早稲田ラグビー史の研究-全記録の復元と考察』日比野弘(早稲田大学出版部)